穴村久の書評ブログ

漫才哲学師(非国家資格)による小説と哲学書の書評ならびに試小説。新連載「失われし時を求めて」

色々アラーナ(1) 

2021-11-28 21:33:51 | 小説みたいなもの

 社員食堂で昼食をとっていると、今度アメリカに行くんですがね、と経理課の青山が五十日(イカ)に話しかけた。
「出張ですか」
「いや、年休を取ってワイフと観光旅行ですよ」
「それはそれは」
「団体旅行ですよ、安いツアーがあるでしょう。それでね、アメリカの西海岸に行くんですが旅程にラスベガスが入っているんですよ」
「はあ」とイカは口の中のカレーライスが飛び出さないように返事をした。
「この間聞いた、あのカンヌのカジノの話ね、貴方はお詳しそうだからもっと教えてもらおうと思ってね」
「ガイドがいるでしょう」
「ガイドなんてどうせ通り一遍の話しかしないでしょう」
「それもそうですね」
「ラスベガスではなにが面白いですかね。女房なんかはスロットルマシンをやるといって張り切っていますが、あんなのは日本のパチンコ屋のスロットと同じでしょう」
「まあ、そうですね」
「なにがいいですかね、簡単なルールのがいいな。ルールがややこしいのはだめだ。なにしろ時間が少ない団体旅行だから手っ取り早く出来るのがいい」
「そうですねえ」とイカは思わず笑ってしまった。
「やはりルーレットですかね」
「アメリカではカードゲームやサイコロゲームが多いようですね。ルーレットは相当大きなカジノでも二台ぐらいしかなかったと思いますよ。まあ初心者ならブラックジャックなんかかな」
「それはなんですか」
「トランプのカードを使うゲームでね。むこうでも観光客がよくやるようですよ」
「バカラというのはどうですか。よく聞くけど」
「あれは大金が動くことが多い。手を出さないほうがいいです」
「ところで、イカさんは相変わらずルーレット一本やりですか」
「いや、今の会社は海外出張もないし、もう何年もしていません。日本では合法でもないしね」
「それじゃお寂しいでしょう」
「日本ではもっぱら競馬ですね」
「ははあ、相変わらず300ワットが点くことがありますか」と青山は無邪気に失礼なことを聞いた。
「いや参ったな」とイカは困ったように笑った。『そうだ、一つほら話をして驚かしてやるか』と青山の顔を見た。
「たまにはね、三百万円馬券を当てた話をしましょうか」

コメント
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