コロナバスターと命名された新製品の出荷は順調に進んだ。なかでも治療薬の効果は目を見張るもので出荷後一週間で日本国内で投与された患者が次々と回復して病院から退院した。やがて重症者の病床はカラになった。死者数もゼロの日が続いている。
ワクチンのほうはもう少し経過を観察しなければならないが、副作用の報告は一件もなく、予備的な調査でも効果は確認されつつある。殺到する要求に応じて海外への出荷も始まった。その衝撃は二十世紀中葉に出現したペニシリンの衝撃に勝るとも劣らないと言われている。
そんな時に文化春秋という日本国内で発行部数第一位をしめる総合雑誌の巻頭に山野井明による葵研究所代表の徳川虎之介氏とのインタビュー記事が掲載された。取材は徳川虎之介氏とのメールによる応答で、ある部分ではチャットのやり取りのように即時性の簡明なやり取りもあり、また徳川氏が考え込んで時間をおいて返答することもあった。場合によっては質問の翌日に回答してくる場合もあったのである。そんな次第であるから、山野井氏の記事もそうであるように、そのままやり取りを採録するのが一番よさそうである。以下Yは山野井、Tは徳川の発言である。
Y: 今回の薬品は徳川氏が北国製薬に計画を持ち込まれて、製品化されたものと言われていますが、間違いありませんか?
T: そうですね。アイデアを持ち込んだというほうがいいかもしれません。こちらでは実験もなにもしていないので。
Y: それが北国製薬で試験してみたら何の改変も加えることもなく種々の検査もパスしてあっという間に製品が出来上がったということですか。こういう経緯は極めてまれだそうですが、ご自身でも意外だったのではありませんか
T: まあそうですね。
Y: ところで気になる情報があるのですが、貴方は北国製薬のほかに日本政府の上層部とも関係があると言われていますが、どうですか。
これに対してはしばらく返事が返ってこなかった。
T: どこからお聞きになりましたか?
Y:いろいろと。こちらにも取材網がありますので。一応確認させていただきたいのです。
T:それは直接的にですか、それとも間接的なものですか。つまり憶測と言うか推測と言うか。
ここで山野井氏は地の文章で補足している。 『この辺はお互いに腹の探り合いの様相であった。徳川氏の回答は翌日まで無かった。言下に否定しなかったことでこの質問はソフトスポットをヒットしたという感触を得た』
翌日おそく回答があった。
T: ご返事が遅れまして申し訳ありません。相手方に確認して了承を得る必要がありましたので遅くなりました。いずれ明らかになることですが、先方の了承を得なければなりませんから、、