穴村久の書評ブログ

漫才哲学師(非国家資格)による小説と哲学書の書評ならびに試小説。新連載「失われし時を求めて」

21:黒船問題 AD22**

2021-02-05 07:00:16 | 小説みたいなもの

 22世紀後半から各国は黒船の襲来に悩まされることになった。世界各地で巨大なUFOが確認された。UFOというとちょっと頭のおかしい人が「見た見た」と騒ぐが言われた人が行って見ようとするともう影も形もないというのが、通例であるが今回の事例は全く違う。

 第一大きさが違う。各地の上空に表れた宇宙の黒船は小さいものでも直径が一キロはある。大きなものは数キロになる。形状は円盤系というかあんまん系である。真ん中が外部から上部、下部とも摘み上げられたように円錐形に突起しているのである。

 この宇宙船は同時に数艘出現して世界各地の大都市の上空に何日も滞留する。船体には窓もなく、出入り口らしきものも見えない。推進装置らしきものもないが、自由自在な速度で前後左右に飛行できるようだ。また、前日浮かんでいたものが、翌日にはかき消したようにどことも知れずに飛び去ってしまう。明らかに内部には操縦者がいると思われるが彼らとコンタクトした者は下界にはいなかった。そしてまた数年間は全く姿を見せない。

 最初に現れた時は数日確認されたがすぐに地球を立ち去った。その後不定期の間隔で地球に飛来するのが確認されている。いうまでもなく、一番神経をとがらせたのは各国の防衛関係者である。大国同士で相手国の新型の兵器ではないかと当然警戒した。各国とも戦闘機を発信させてスクランブルしたが、黒船はまったく反応しない。動かない。米国は威嚇射撃を試みたが相手は無反応であった。

 もっとも恐慌状態に陥ったのは言わずもがなであるが、一党独裁で体制維持に腐心する国である。何しろ首都上空に日光を遮るほどの飛行船が居座っているのである。なかば発狂状態になった軍部は地上から核ミサイルを発射した。黒船は上空50キロメートルにある。このくらいの高度なら核攻撃をしても地上にはさしたる影響もないと計算したらしい。何しろ敵国の攻撃、偵察に晒されているという恐怖心がミサイルを発射させたのである。

 ところが妙なことにミサイルが飛行船に近づくとミサイルは跳ね返されるように地上に落下し始めた。そして慌てふためいて右往左往する首都の中心に落下すると核爆発が起こった。首都は瞬時に壊滅したのである。宇風船の操縦者もこんなことは想像していなかったらしく慌てたように上昇して宇宙空間に姿を消した。

 その後各国の首都上空にいた宇宙船は皆姿を消したが、数年後にまた姿を現した。こんどは核ミサイルを発射した国を避けて日本にも飛来した。国内は大騒ぎになったのである。黒船は撃ち払えという極端な攘夷論から和睦をさぐれという主張までが入り乱れて百論争鳴状態となった。

黒船という描写がぴったりとしていて実際その船体は脂の乗り切った黒鹿毛のサラブレットのように太陽光をテラテラと反射していたのである。