min-minの読書メモ

冒険小説を主体に読書してますがその他ジャンルでも読んだ本を紹介します。最近、気に入った映画やDVDの感想も載せてます。

魔女の盟約

2008-06-12 10:41:45 | 「ア行」の作家
大沢在昌著『魔女の盟約』文芸春秋 2008.1.10初版 1700円+tax

オススメ度★★★★☆

前作『魔女の笑窪』の続編。絶対に足抜けは出来ないと言われた「地獄島」から逃れた水原は、東京で闇の社会のコンサルタントとして一応の成功をおさめた。
だが、島の「番人」がいつ自分を連れ戻しに来るか分からないという恐怖感を常に抱いていた。
ついに恐れていた「その日」がやって来た時、水原は命をかけた反撃を開始したのであった。
東の暴力団「連合」の東山の手づるで、「地獄島」を乗っ取り新たな利権を築こうとする韓国人の朴と九州の暴力団の支援を得て、悲願であった島への復讐を遂げた水原であったが、そのまま日本に留まることは出来なかった。
朴の束ねる組織に匿われる形で水原は韓国の釜山で“ほとぼり”を冷ましていたのだが、無聊をかこつ隠遁生活もある日突然終わりを遂げる。水原の庇護者であったはずの日韓双方の幹部が水原の目の前で「ある人間」によって皆殺しにされたのだ。
水原が九死に一生をえたのは謎の中国人女性のお陰であった。彼女の口から、地獄島から釜山での惨殺に至る一連の事件の背後には更なる“黒幕”がいることが判明した。
実は彼女は中国上海の公安刑事で、彼女の夫と一人息子がその“黒幕”の手によって殺されてしまったと言うのだ。
水原は彼女に一命を助けられた恩義に報いるべく、“黒幕”の逃亡先日本へ彼女の復讐を手助けするために再び日本へ舞い戻ったのである。
彼女を待ち受けるのは日本の警察と「連合」という暴力団組織、そして九州の暴力団。
彼女が国外逃亡した後に「地獄島」の犯行の嫌疑がかけられており、警察に捕まるかヤクザ組織に命をとられるか、今や日本は彼女にとって世界中で一番危険な国なのであった。
果たして水原は警察やヤクザの目をのがれ中国人女性の敵討ちを成功させることが出来るのであろうか?そして「地獄島」の一件が実は周到に練られた巨大な陰謀であったことが判明し、水原はそれに見事に“嵌められた”わけで、その窮地から脱することが出来るのであろうか?
今回の水原が置かれた状況はまさしく“四面楚歌”であるが、彼女の頭の切れの良さと男勝りの度胸で切り抜けてゆく。立場は違うがまるで女版「新宿鮫」を見る思いだ。

さて今回、重要な物語の要素となるのが、今中国社会の中で台頭しつつあると言われる“民族系マフィア”である。本編では中国社会では少数民族である「中国朝鮮族」にスポットが当てられている。
旧ソ連が崩壊した後、かの国ではこの“民族系マフィア”(例えばチェチェンマフィアのような)が台頭、急速に組織を拡大し一国の経済まで牛耳る状態になったほど。
中国が今後旧ソ連と同じような軌跡を辿ることは充分に考えられることで、この「民族系マフィア」に着目した大沢在昌氏の眼力には感服した。
水原女史の活躍ぶりは前作をはるかに凌駕するもので、更に続編を期待したいところだ。