min-minの読書メモ

冒険小説を主体に読書してますがその他ジャンルでも読んだ本を紹介します。最近、気に入った映画やDVDの感想も載せてます。

懐郷

2008-04-19 07:54:37 | 「カ行」の作家
熊谷達也著『懐郷』新潮文庫 2008.3.1初版 476円+tax

オススメ度★★★★☆

著者である熊谷達也氏は今更紹介するまでもないが、明治から昭和にかけての東北地方を中心にした数々の作品を生み出してきた。
本編は昭和30年代に生きた7人の女性の物語を綴った短編集である。昭和30年代は戦後の動乱期をやっと脱したものの、まだまだ日本の社会は貧しかった。
特に東北地方の田舎は古い慣習が依然として残り、経済的には農家の多くの男たちが都会へ“出稼ぎ”として出なければ食えなくなった時代である。政治的には日米安保条約締結を前にし、騒然たる世相を呈していた。
「貧乏人は麦を食え」と当時のひとりの首相の言動に多くの国民が憤りを感じたであろうが、一方「所得倍増計画」というニンジンを国民の鼻先にぶら下げることも怠らなかった。
国民はただひたすら貧困から裕福な生活の幻想を抱き、がむしゃらに働くしか方法がなかった時代である。
登場する女性の年齢や職業もさまざまであるが、今日の豊かな日本が築かれる以前の日本女性が通り抜けたであろう苦難の人生の一断面が活写される。

7編の物語に登場する女性たちはそれぞれ、
『磯笛の島』 妙子(30代中頃)海女
『オヨネン婆の島』 オヨネン婆(70代)無職
『お狐さま』 小夜子(20代中頃か)教師の妻
『銀嶺にさよなら』 敦子(20代中頃)高校教師
『夜行列車の女』 昭子(20代後半?)農家の主婦
『X橋にガール』 淑子(20代後半)売春婦
『鈍色の卵たち』 貴子(20代前半)中学教師

昭和30年代の世相を知る上でもなかなか興味深い短編集である。