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sigh of relief

くたくたな1日を今日も生き延びて
冷たいシャンパンとチーズと生ハム、
届いた本と手紙に気持ちが緩む、
感じ。

映画:ラッキー

2020-03-20 | 映画


映画館で見逃したのをあとで配信で見たのだけど、見逃した自分を責めましたよ。
めっちゃ好き。最高。ちょう好き。映像も音楽も物語も語り口も俳優も好き。

主人公は、現実主義で偏屈なおじいさんでラッキーと呼ばれてる。
演じているのはハリーディーンスタントン。
2017年に91歳で亡くなったのでこの映画が遺作ですね。これが遺作だなんて最高。
「パリ、テキサス」のトラビスです。
あのトラビスが、何十年か経って落ち着いて一人の生活を淡淡と続けるようになったと
考えてみると面白い。ラッキーの若い頃はどんなだったのか。

銀行強盗もしない、飛行機から飛び降りもしない、人助けもしない。
「人生の終わり」にファンファーレは鳴り響かない――
全ての者に訪れる「死」――
90 歳の気難しい現実主義者ラッキーのたどり着いた、ある答え。
神など信じずに生きてきた90歳のラッキーは、今日もひとりで住むアパートで目を覚まし、コーヒーを飲みタバコをふかす。ヨガを5ポーズ、21回こなしたあと、テンガロンハットをかぶり、行きつけのダイナーにでかけることを日課としている。店主のジョーと無駄話をかわし、ウェイトレスのロレッタが注いでくれたミルクと砂糖多めのコーヒーを飲みながら新聞のクロスワード・パズルを解くのがラッキーのお決まりだ。そして帰り道、理由は分からないが、植物が咲き乱れる場所の前を通る際に決まって「クソ女め」とつぶやくことも忘れない。
ある朝、突然気を失ったラッキーは人生の終わりが近づいていることを思い知らされ、初めて「死」と向き合うが ― (公式サイトより)


この脚本は、ハリー・ディーン・スタントンを想定して当て書きで書かれたそうです。
酒場で昔のエピソードを聞いたり、彼の人生を色々と聞き出して書かれたもので、
映画の中での海軍時代の沖縄戦の話を始め、結構実体験が語られているようです。
それほどまでに愛されたのね、ハリー・ディーン・スタントン。
玄人が愛する玄人という感じか。
彼の長年の友達であるデビッド・リンチも友達役で出演しているのですが、
リンチはハリーについて「普通の俳優はセリフを言うその瞬間に芝居をしようとする。
でもハリーはそうじゃない。続いている時間の中で、
口を開かないときのハリーがどれだけ素晴らしいか!」と言ってます。
存在感の大きさというより、存在感のありようが、彼の愛される理由なんだと思う。

近く死を迎えるだろう主人公の気持ちの変化、受容するまでの出来事、というのが
映画の中心なんだろうし、それはとても大きなことだけど
その大きなことを、大きな曲がり角や大きな出来事ではなく、
昨日と変わらない日常の小さな場面で見せていくという形は、すごくわたし好み。

ラッキーが倒れて病院に行ったときに、「調子はどう」と言われて
「俺が知りたい」と答え、何か大きな病気や問題を予想して聞いたのに
どこも悪いところはないよ、ただの老化、と医者が軽く告げるシーン。
どこも悪くなくても人は年取ればいずれ死ぬというのを、ずけずけ言う医者が面白い。
魂の存在など信じない現実主義者のラッキーは、死んだらただなくなるだけと考えてて
死を身近に感じた時には、相変わらずの仏頂面で変わらぬ日常を過ごしながら、
実は結構うろたえていたので、この医者の言葉に慰められもしない。
人間はそういう死に向かい合うのが難しいから、魂を信じるのかもしれませんが
ラッキーはとにかく現実主義者だから、向き合うしかない。
子供の頃怖かった暗闇、去っていった100歳の亀、“エサ”として売られるコオロギ ― 小さな町の、風変わりな人々との会話の中で、ラッキーは「それ」を悟っていく。

ラッキーの友達役のデビッド・リンチですが、これまたすごくいいですね。
優しい男で、ルーズベルトと名付けた100歳のリクガメをすごいくすごく大事にしていて、
自分の遺産をすべてそれに相続させようと真面目に悩み、弁護士を雇うのです。
この弁護士をラッキーは最初、友達に付け込む金儲け主義の嫌な奴と毛嫌いしてたけど
弁護士にも彼の物語があって、喧嘩腰で怒鳴る相手ではない面も見えてくる。

ラッキーはいつもいく店の人たちとも、決して馴れ馴れしくはならないけど、
さりげなく心配されていて、訪ねてきてくれたウェイトレスに子供の頃の話をしたりする。
ダイナーにたまたまいた男は戦争の話をして、自決を前にした沖縄の少女の話をする。
いつもの雑貨屋の女性に招ばれたれた子供のパーティのシーンでは、最初
ラッキーだけなんとなく場違いな感じもある中、スペイン語でメキシコの歌を歌い出し、
そうしたら、みんなの目が暖かくなって、ラッキーの数少ない笑顔が見られたりもします。
そういうこまごましたエピソードでできている映画。

乾いた南西部?っぽい町の風景や色もきれいだし、
ラッキーがめまいがして迷い込む夜の街の、EXITのシーンの派手なネオン色もいい。

映画のオープニングでリクガメがひとり砂漠の風景の画面を横切るのですが(良いシーン)
この亀はラッキーの友人(デビッド・リンチ)が飼っていたリクガメということですね。
この友人は最愛のリクガメがいなくなったことに凄いショックを受け、
家族を失ったようだと悲嘆に暮れていて、それで全財産をこのリクガメに譲る遺言書まで
作成する準備を始めたわけですが、結局その後、
「リクガメは用事があって出て行ったんだ、それを自分が邪魔していたんだ、
その内また会えることがあるかもしれない」と悟り、元気を出します。
そして、ラストシーンで再びそのリクガメが画面を横切るんだけど、これも上手いなぁ。
きれいにまとまったラストだなぁ。
そういえば、
デヴィッド・リンチが「リクガメは王の気高さとおばあちゃんの優しさを持っている」って
真面目な顔して話すから、なんだかちょっとおかしくて笑っちゃった。
でもその後に、リクガメはやがて棺となるものを生涯背負うって話があって、
普段生きる上で意識しなくても死はずっと存在しているんだと考えさせられるシーンなのでした。

「孤独と一人暮らしは意味が違う」とラッキーが言うセリフがあるけど
孤独って根源的なもので、誰もが実は持っているはずのものなので
確かに一人暮らしだから孤独、というものではないですね。
わたしも今一人暮らし(+猫)だけど、人生で今が一番寂しくないくらいだもんな。

80分くらいの短い映画だけど、映画館で見てたらこれはその年のトップ3に入れたかもしれません。

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