sigh of relief

くたくたな1日を今日も生き延びて
冷たいシャンパンとチーズと生ハム、
届いた本と手紙に気持ちが緩む、
感じ。

安治川トンネルと「泥の河」

2023-12-23 | 映画


シネ・ヌーヴォで映画「キャバレー日記」を見た(前日のブログ)帰り、行きは地下鉄に乗ったけど帰りはJRにした。
ちょっと遠いし雨もぱらぱら降ってたけど商店街の屋根があるし散歩がてら歩いてみました。
知らない商店街、歩くの好きですね。

賑やかな商店街は楽しいけどあんまりなくて、さびれたシャッター街の方が多い、日本。
でもさびれたシャッター街も初めての街なら面白い。なんでも初めてって面白いからね。
たまに開いてる店を楽しく眺めながらどんどん歩くと、商店街の終わりで川にぶつかりました。
Googleマップを見ると、鉄橋が川の上を走ってる横に人間の通る道があるように見えたけど
そこにあったのは、なんと川の下を通るトンネルでした。

安治川トンネル?と書いてある。なにこれ面白い。川の下なんて初めて。
ググったら日本で川の下を通っている歩行者トンネルはここだけのようです。そうなの?

昔は車も通るトンネルで、今は人と自転車が通る川の下のトンネルになってて、
自転車も乗れる大きなエレベーターがついてる。6畳?もっとある?自転車が何台も乗れる。
でもわたしはまずは階段を降りてみた。結構深くまでぐるぐるぐるぐると降ります。地下だなぁ。

トンネルから出るときは、長い上り階段はしんどいのでエレベーターに乗りました。

その話をTwitterでしたら友達がそれは「泥の河」の舞台だと教えてくれて
泥の河がどんな話かだけは知ってたけど本も読んでないし映画も見てなかったので
帰宅後すぐに配信で見たら、なんと本当にすごい名作だった!
「キャバレー日記」との振り幅が大きすぎるわ。笑

原作は宮本輝で、昭和31年の大阪が舞台。映画自体は1981年(昭和56年)の作品。
宮本輝は素晴らしい小説を書くのに、少し前に芥川賞の選考で
台湾生まれの作家・温又柔(おん・ゆうじゅう)さんの作品に対して
>「これは、当事者たちには深刻なアイデンティティーと向き合うテーマかもしれないが、日本人の読み手にとっては対岸の火事であって、同調しにくい。なるほど、そういう問題も起こるのであろうという程度で、他人事を延々と読まされて退屈だった」(「文藝春秋」2017年9月号より)
なんてことを言ってて、とてもがっかりしたことを覚えている。
自分とは違う世界のさまざまな人生やその喜びや悲しみを対岸の火事と言い放っては
文学なんて成立しないのではない?
そもそも世界のできごとを、自分に無関係なものと思うのは傲慢なことでしょう。
全てに関わることはできないけど、世界は全部自分に繋がっているということを
忘れてはいけないのでは?と思うけどね。

とはいえ、この映画を見る限り宮本輝の原作も素晴らしいのだろうな。
まあそういうことはよくある。素晴らしい創作をする人が無邪気に差別をするというようなこと。

さて、監督は小栗康平でこれが処女作なの?それはすごいな。
小栗監督は「FOUJITA」のときにトークを聴きに行ったことがあります。(→ブログ)
予想外に、とても魅了されました。すごく賢い人だなぁ。
寡作の監督ですが、まだまだ作ってほしいものです。

「泥の河」のお話は(Wikipediaより)
昭和31年の大阪。河口近くの小さな食堂の子の信雄は父の晋平、母の貞子と暮らしている。ある日、信雄は喜一という少年に出会う。喜一は食堂の対岸に停泊する宿舟の子で、信雄と同じ9歳、姉の銀子は11歳で、二人とも学校には行っていない。母親は生活のため舟で客を取っているという噂があるが、信雄には理解できない。

絵に描いたような戦後の子供、信雄が主人公だけど、信雄の父親役の田村高廣がいいねぇ。
常に目がキラキラしてるのよね。戦争の傷もあり過去の女の傷もあり、
生き残って帰ってきたのにこれでいいのかという思い。
そして子供と楽しく遊んでやるときも、うつろな表情をするときも、いつも瞳はキラッとしてる。
藤田朋子演じる母親が惚れているのもわかるわ。
信雄の友達、船の子きっちゃんの母親役の加賀まりこがまたハマり役ですね。
加賀まりこの若い頃はもう可愛すぎて見るたびにびっくりするんだけど
そういう時期はもう過ぎて、少し疲れてくたびれて少しだらしなくなって
それでもまだ美しく色気のある、若くはない女の役に、
この加賀まりこほどぴったりな女優はないのでは?
いや、この時代の女優さんには、そういう役のできる人は他にも案外いたかもしれないな。

そして冒頭のシーンの、川の景色がすごく美しい。
いわゆるきれいな場所ではなく、川の両側にはバラックが立ち並んでいたり
小さい町工場があったり材木がうかんでいたりするような、
貧しい人たちの住んでいる地区なのだろうけど、とても美しい映像です。

そして確かに安治川が舞台のようだけど、映画の撮影は、名古屋市の中川運河で行われたそうです。
でもやっぱり大阪の安治川に見えるな。笑

この昭和の感じをわたしは少しじかに知ってると思う。
10歳くらいまで映画に出てくるような感じの長屋に住んでいて、
映画に出てくる感じの子供たちと路地を走り回って遊んでいた。
きっちゃんのような子が隣に住んでいた。
映画が昭和31年の話で、わたしは40年生まれだから、
昭和30年代の残り香は小学校に入ることにはなくなったかもしれないけど
記憶の奥に少し思い出すのよね。

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