sigh of relief

くたくたな1日を今日も生き延びて
冷たいシャンパンとチーズと生ハム、
届いた本と手紙に気持ちが緩む、
感じ。

映画:ハッピーエンド

2018-06-02 | 映画


「聖なる鹿殺し」で精根尽き果てて、お腹いっぱい、うへー、ってなった後に見たので
最初は普通のフランス映画見る感じで主人公の少女の物語を優しい気分で見ていました。
「鹿殺し」がお話も役者も全体にどぎつくアクが強いので、
こちらはぼーっと見てたら、一見普通のフランス映画が始まるのかと思っちゃった。
味の濃いものを食べてしまって、繊細な味付けがわからなくなってる感じでした。
だから、スマホで撮影してる画面が、一体なんの撮影なのかわからず、ぼーっと見てた。
ちょっとショッキングな場面があって、そのあとはまた徐々に、
うわーこれって、相変わらずのハネケ映画だわやっぱり、と
この、こそっとあらゆるところに仕込んである底なしの意地の悪さに気づきだし、
見終わる頃には忍び寄る「嫌な感じ」にまといつかれて、どよんとします。
頭の芯が疲れ切るような、甘いところが全然ない、苦ーい映画。
苦いと言う言葉ではまだ甘いな。

こんな明るいポスター作っておいて、静かにぞっとさせるなぁと呆れる(褒めてる)
このポスターも、映画を見るまでは、いろいろある家族の物語だろうけど
なんとなく風通しのいい明るい青い空と海が気持ちよくて、
リゾート地のひと夏のお話って感じかなぁと見えてたんですよ。ハネケだけども。
それが映画を観終わって改めて見るとポスターの一人一人の顔の表情が、なんとも不穏。

主人公は多分、少女。この子、すっごくいい。
かわいいけど、かわいいというより、フランス女優の卵って感じがすごくして、
つんと、ちょっと高慢不機嫌顔のイザベル・ユペールと一緒にいても負けてない。
映画の中では、まさにコクトーの「恐るべき子供たち」の子供です。
純粋でタブーがなく残酷で、死も生も親も他人も、同じ目で淡々と見ている。
エヴの母親が倒れたので、離れて暮らしてた父と、その今の妻、
そして父の姉アンヌと祖父のいる家に引き取られる。
この家族の間の不協和音・・・でさえない、コミュニケーションの断絶を
じわじわと見せられていくのです。
わかりやすい反抗や愛憎はあまりないのです。
アンヌの息子は、冷徹なビジネスマンや資本家になるにはナイーブすぎて
そこにはよくある反発や反抗、親子のぶつかり合いが多少はあるけど
大体は、ぶつかることも微妙に避けながら、不穏な空気だけが漂っている。

ハネケ監督は、結構高齢なんですけど、登場人物とSNSの関わりや使い方を
見せるのがすごく上手いですね。
この映画のために、SNSのアカウントを作って人々の投稿を見てたらしいけど
まるでSNSの光も闇もみんな分かっているみたいに、さりげなくSNSのある世界の、
大きな事件ではなく日常の中のぼんやりとした空気を、こんなにうまく見せるとは。
お話も大きな流れのあるストーリーではなく、この家族の日常のあれこれが
それぞれ繊細な糸で結びつけられるように進んでいく感じで、ややとりとめがなく
そのとりとめのなさのまとまり具合が、最高にうまい。

ハネケのインタビューより
「映画のテーマは難民問題そのものではなく、それに直面した人々のあり方です。この家族の、いま世界で起きていることに対する無関心。彼らは自分たちの小さな問題にばかり捕われていて、社会の現実が見えていない。それを表現したかったのです。でも現代に生きる彼らを描くなら、いまヨーロッパで大きな問題となっている難民のことを取り上げるのは自然だと思いました。ただしカレーにとくにこだわりがあったわけではありません。ヨーロッパの難民のいる街ならどこでも舞台になり得たでしょう。映画作家としては、現代社会を描く限りいま起きていることを反映するのは自然であり、また義務でもあると思うのです」
「日本での少女の薬殺未遂事件をニュースで読んで、この映画のきっかけになっていることは事実です。この事件は私にとって大きなインスピレーションを与えてくれました。SNSでどういう事が起こり得るか、すごくいい例だったと思います。現代のSNSは、昔の教会が持っていた役割を果たしていると思うのです。カトリックの教会では懺悔がありますよね、この少女がなぜSNSにポストしていたのかと思うと、匿名で投稿していても、どこかで発見されるかもという思いがあると思うんです。私が思うには、注目を集めたいという気持ちが一つあって、もう一つは罰を受けたい、という欲求、そいうものがモチーフにあると思うんです。それは昔教会で人が懺悔するという思いと同じです」


ここから
少しネタバレ、とはいえネタバレがどうこういう映画ではないけど。

祖父役のジャンルイトランティニャンは「愛。アムール」の役の続きみたいでした。
老いて病に苦しむ愛する妻を自らの手で殺す役。
「ハッピーエンド」の中で、祖父は少女に、妻を殺したと告白するのです。
そして、どちらの映画も娘役が、同じイザベル・ユペール。
ただ、設定やキャラクターは違うでしょう。でも違う話だったとしてもいいのです。
見てて、ああ、これあの映画のその先のような話だと思うだけで、
この祖父や孫娘にとっての老いや死というものが、
ずいっと重層的に深みを増して迫ってくるのです。

「鹿殺し」の方がどぎついけど、「ハッピーエンド」の方がじわじわ怖い。

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