sigh of relief

くたくたな1日を今日も生き延びて
冷たいシャンパンとチーズと生ハム、
届いた本と手紙に気持ちが緩む、
感じ。

大河ドラマと「エデンの東」

2021-01-28 | 本とか
先月、70年台の性産業が舞台のアメリカドラマ「デュース」を
一気に8話見たんだけど、それに大河っぽさがあるかないかとか話してた時に、
大河ドラマの要件って時代の流れがあること、世代の流れがあることじゃないかと言うと
そういえば「エデンの東」の原作はあてはまると思うと、恋人に言われた。
スタインベックはわたしは「怒りの葡萄」しか読んでないと思うし
「エデンの東」は映画で見たけど昔すぎて覚えてないけど、
彼が若い頃読んだ「エデンの東」がすごくすごく良くて、
小説ってこんなに面白いのかと思ったって言ってたので、わたしも年末年始に読んでみた。
なるほどこれは面白かった。さすがというかなんというか、すごく面白かった。
最近はもうスタインベックとか読まれてないけどね、と恋人は言うけど
古典ってホント、読んで損はないなぁと改めて思ったわ。

冒頭から父の愛を求めて争う兄弟の話が出てきて、
いうまでもなくカインとアベルなんだけど、
映画になってるのはその子供たちの世代の部分で小説4冊の最後の1冊のへんだけ。
でもそこに至るまでの原作もずっと面白かった。
1巻では、元軍人の厳格な父親と息子たちの話が中心なので、
テレンス・マリック監督「ツリー・オブ・ライフ」のブラピ演じるマッチョ父親を思い出した。
この映画自体は不思議な映画で、前半は家族の話かとそれなりに面白く見てたら
途中からなんだか宇宙創造のイメージビデオみたいな映像になっていっちゃって、
ポカーンとしてしまう不思議というかよくわからない映画なんだけど、
この前半の家族の話の部分がとても印象的なのです。
それを少し思い出した。でも「エデンの東」はもっとカインとアベル的な話で、
1巻の兄弟の次の世代の兄弟もまた同じような確執を繰り返す話になります。
息子兄弟の父からの愛への渇望って根深く、よくあるものなのねぇ。

70年くらい前に書かれた本だけど、案外古びてないというか、全然古びてない。
スタインベックの人間考察はすごいけど、
それ以上にこの人、人間のキャラクターを作るのが好きすぎる感じが溢れてるなぁと思った。
ちょっとした登場人物の性格も、結構細かく作ってあって、それを書くのが
楽しくて仕方ない感じがしました。
大家族の一人ひとりの性格を延々述べるとことかすごい筆が乗ってる感じがする。
こういう気持ち、わたしちょっとわかるのです。

昔マレーシアに住んでた頃、毎月マレーシアフィルオーケストラの定期公演を聞いてて
毎月見ているうちにわたしの頭の中には、それぞれの楽団員の性格や人生が
勝手にできあがっていったのです。もちろん全部妄想ですが、
髭のコンマスはスウェーデン人で愛する妻と思春期の娘を故郷に残してきてる。
でも妻はもう彼を愛してなくて、別れ話をされたんだけど、聞いてないことにして
そのままマレーシアに来てしまった。現実から目を背けたくて仕事に没頭してるけど
真面目で窮屈な性格のせいで楽団員の信望は厚くない。
それをフォローしてるのがセカンドバイオリンの縮毛の人で、彼はドイツ人。
(20年前当時は欧米人の多い楽団でした)
いつも明るくひょうきんで、繊細さを隠しながらよく気がつく優しさで
楽団をまとめている人。この人は40代半ばだけど未婚で、というのは・・・・
と、メンバーそれぞれのドラマを、演奏を聴きながら作り上げていったものです。
スタインベックとはレベルも種類も全然違うけど、
彼が登場人物の性格について説明するときのテンションがわたしにはわかる気がする。

お話は父の愛を求める兄弟が親子二代ででてきて、それが中心だけど、
稀代の悪女、ファムファタルの存在がこの小説をいっそう面白くしてます。
でも前半これすごい悪女と思ってたけど、最後まで読むと人でなしの悪魔ではなく
人を傷つけたいわけでもなく、ただただひとり自由に生きたかっただけの女で、
実はそんなにひどい女じゃないのかも、と思ったりもしました。とても強い女。
お気に入りの登場人物は脇役の二人。
登場人物の中で一番インテリで聡明な使用人の中国人リーと、
カインとアベル的家族とは別の、もう一つの家族の父親で、
儲からない発明ばかりして生きたけどその明るさと強さで愛されたサミュエル。
善人が出てくるとほっとするくらいには、わたしも善人ですね。

4巻目を読み終わった時には、長編小説を読んだ後の達成感と充実感と
少しの寂しさが、ここちよかったです。
時代より何よりいつの世も変わらぬ人間というものが何より描かれているので
大河ドラマっぽさは半分くらいかなぁ。
次は、ジェームス・ディーンの映画も何十年かぶりに見てみよう。

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