sigh of relief

くたくたな1日を今日も生き延びて
冷たいシャンパンとチーズと生ハム、
届いた本と手紙に気持ちが緩む、
感じ。

「RURIKO」

2024-05-31 | 本とか
浅丘ルリ子はわたしより25歳年上で、わたしが彼女をテレビや映画で見た頃はもう
堂々とした貫禄のある中年女優だった。
美女ではあったし、綺麗な顔なのだろうと思ったけどわたしが思春期を過ぎる頃には
彼女のようなゴージャスな顔はやや古臭く感じて、特に気になったことのない女優さんだった。

少し前、もう毎月続けて100回以上になる映画の会の旧作課題が「高原児」という
1961年の日活アクション映画になって、若い浅丘ルリ子がすごく可愛かった記憶があったので、
本屋さんで文庫本を見かけた時になんとなく買って読み始めた。

林真理子はその人となりに批判したいところも多いけど、小説は面白いし、
題材が昭和の大女優なので面白さは保証されてる。
でも、浅丘ルリ子の父親の話から始まって、その後彼女が主役になっても、
彼女自体は非常に淡々とした人に描かれていて、想像したタイプの面白さとは少し違った。
とはいえ、わたしは登場する昭和のスターたちを少しは知っている世代だし、
映画業界の衰退やテレビの台頭、スターたちの人間関係などすごく興味深く読んで、
そして後半、夫となる石坂浩二がでてくるあたりから面白さがぐんと増した。

日活のスターたちにはいわゆる知性派な人はいなくて、
雑な脚本で雑な映画を量産するシステムの中におさまっていたけど、
テレビ時代になってテレビからスターになった石坂浩二はインテリで、
ルリ子にぞっこんになって結婚するものの結局うまくいかなかった。
その夫婦の対比が面白い。
ルリ子は難しいことはわからないと言い、石坂浩二の膨大な知識からの話を聞きながら
心の中では別のことを考えながら別の風景を探しているような女だった。
演技論や社会の話には興味がなく教養や知識は持たないけど、
なんというか存在というか魂が飛び抜けている女。
もちろんその飛び抜けた美しさもあってのことだけど、
彼女は知識とは別の賢さを持っていたのだろう。
石坂浩二が滔々と喋る蘊蓄の方がむしろ薄っぺらく見える描写だった。

ルリ子は不思議な人で物や人に執着せず、「今」「ここ」しか考えないみたい。
だから嫉妬もしないし人と自分をくらべたりすることもなく、
自分の元恋人だった小林旭と、結婚してすぐに別れた美空ひばりからは
何故かその後もずっと心の親友のように頼られるし
世の中の流れには逆らわず「仕方ないじゃない」と納得して生きていく。
でもそれは弱気な諦めでは全然なくて、もっと淡々とした受容で、
だから泣き言のようなことも一切言わないというか、思いもしない囚われることがない。
一人の孤独を嘆いて酒に溺れる美空ひばりとは対照的に、一人で普通に生きていて
自分は幸せか不幸か考えることもあまりなく、たまに考えると幸せなように思う。
人間の根源的な孤独にあまり縁がないように見えますね。
映画産業の斜陽で元恋人の小林旭が時代に対して愚痴を言った時にも、
仕方ないことを言ってなにか意味があるかしらなどと思い、
テレビに背を向け事業に走る彼を尻目に(その事業は大失敗するのだけど)
自分はテレビにも出始め、そこでもやはり大女優として生きていく。

女優としては順風満帆だったと言っていいと思う。
恵まれた容姿、芯の強さ、野心のなさ、人との距離の取り方のうまさ。
何にも誰にも依存しない大女優。
また、一人の女としても、そんなに悪い人生ではない。
幼くて記憶もないような戦中戦後以外には特に波瀾万丈とは言えない人生と思う。
一番愛した石原裕次郎とは何も起こらなかったけど、日活がポルノ路線になったあと
石原プロダクションに移って共に仕事をし、ずっと公私共にいい友達だったし、
最初の恋人になった小林旭(わりとバカっぽく書かれてる笑)とも
やはりずっと友達として相談にのったりした。
監督と付き合えば一皮向ける映画に出演でき、
大好きな父親には溺愛され家族にも大切にされ
結婚相手の石坂浩二とは長年の別居の間も特に問題もなく自由に暮らし、
お金には困らず常に誰か愛してくれる恋人がいた。
周りのスターに比べてドラマチックな不幸のない人生なんだけど、
その周りのスターたちとの関わりと、この時代の映画やテレビの世界の話、
そして淡々とした彼女の個性でちゃんと面白い本になっています。

あと内容に関係ないけど、これ文庫本なんだけどすごく字が小さい。
老眼になるとこの小ささは結構大変でした・・・笑