sigh of relief

くたくたな1日を今日も生き延びて
冷たいシャンパンとチーズと生ハム、
届いた本と手紙に気持ちが緩む、
感じ。

液体民主主義とオードリー・タン

2020-12-02 | Weblog
液体民主主義、という言葉を見た。
一票をある党に0.7、別の党に0.3と振り分けたり、
見識のあると思う人に自分の票を委任したりできる選挙のシステムのことを読んでて
それでは高齢化問題はこの候補者、原発問題は別の候補者がいいというような時に
何かに妥協しないといけないのは大体同じままよね。
いっそ、いっそ人を選ぶのはやめるか限定的にして、
政策を分野別に細かく分けて各政策に投票して選ぶことにしたらどうかしらん。
あとはその結果を粛々と人間が代理執行人としてやってく。

などということを考えてるときに、オードリー・タンのインタビューを見ました。
オードリー・タンは台湾のデジタル担当大臣。
シリコンバレーでアップルなどの顧問を務めた後35歳で蔡英文政権に入閣し
IT政策などを担当することに。
その後の彼を見ても、ビジネスの世界で存分に働いた後は
社会のために働きたいと思ったんだろうなと思います。
彼の才能や行動力はともかく人柄にすごく惹かれますね。
すごくニュートラルで公平で、こんなにできる人なのに弱いもののことを忘れない。
不寛容な世の中であちらこちらで見かける分断というものから遥かに遠い人。
彼のインタビューでは「デジタル民主主義」について語っていて
ぼんやり考えていた液体民主主義よりよく考えられているなぁと明るい気持ちになりました。

異文化が共生する共和国の台湾で
民主主義は誰もが変化を起こすことが可能な“テクノロジー=仕組み”のひとつ
ひとつの民主主義の形式ではなく、文化の垣根を超えた方法で取り組んでいる
ITが機械と機械をつなげる技術であるなら、“デジタル”は人と人をつなげる技術
多数ではあっても一方向へ向かうだけのラジオやテレビと違ってインターネットを使えば
双方向にたくさんの声を聞きあうことが可能だし、その構造は民主主義を深める。
現在のシステムにおいて、4年に一度の総統選挙ごとに、市民がひとりあたり3ビットの情報をアップロードーーこれは「投票」を意味ーーしますが、これでは共通政策の決定や、間違ったコードを修正するにあたっては、情報量がまったく足りていません。
現代では、たった今この取材をおこなっているのと同様に、誰もがほぼ毎日メガバイトからギガバイトの情報交換をしています。この変化に合わせて、民主主義も情報量を増やす必要がある。その変化が起こせないのであれば、市民は民主主義を自分とは無関係だと感じてしまうことでしょう。現在の民主主義の形式は、紙の投票用紙や電話によるコミュニケーションが最も効率的であった時代につくられたものです。このテクノロジー自体は素晴らしいものですが、大勢の人々の声を聞くことには適していません
。」

そして高齢者について、変化についていけない無能な邪魔者扱いしがちな人が多い中で
高齢者たちは社会の中で最も知恵を持つ人々です」とまず述べるのがいいなぁ。
上からの同情ではなく、おべっか使いでもなく淡々と自身がそう信じていることを述べている。
すごく寛容で大きな人だなぁと思います。
高齢者に対して「テクノロジーへの適応を求めるのではなく、彼らがアクセス可能な方法でテクノロジーを提供する必要があります。台湾におけるコロナ禍のマスク配布を例に挙げると、6000軒以上の薬局が付近の住民たちからの信頼を得ていたので、そのデータを活用しました。高齢者は持病を抱えているケースが多く、薬局の処方箋には馴染みがあります。その処方箋のデータを活用することで、まずは最もダメージを受けやすい人々がアクセスできるようにした後で、アプリケーションの整備へ移行しました。このように、システムへの参加方法をしっかりと設計すれば、デジタルギャップは発生しないと思います。

テクノロジーと死生観について述べていることもとにかくポジティブ。
まずいえるのは、デジタル世界においては複製が可能なため、一種の“不死”あるいは“永遠の命”をつくりだすことが可能です。あなたの人生、あるいはその一部を公開すれば、それは永遠に存在し続ける。しかし、2つめの答えとしては、複製された“不死”は他者から解釈され、再構築される場合があります。この場合、あなたの“永遠の命”は後世の人々が使えるクリエイティブな素材であり、人類の文明を“不滅”へと導くための素材となる。つまり、デジタルテクノロジーは個々人の生命ではなく、文化の永続性に寄与するといえるでしょう。かつて岩を彫って石版をつくり、竹に文字を書き、やがて紙が開発された。これらも文明を築く素材でしたが、現代のテクノロジーではデジタル世界で“デジタルツイン”を所有し続けることが可能で、前時代に比較して、はるかに多くの情報を記録することができるのです。
この人はテクノロジーを信じ、人間を信じ、未来を信じているのだなぁ。
こんな風に希望を持つ人を大臣に戴く国民はなんて幸せなことだろうと思う。

最後に好きな詩を聞かれて、老子を出すところもいいなぁ。
今の日本はお国(お国って何?国体?天皇陛下?)のために
国民は喜んで犠牲になるべきなどという政治家がトップ周辺ににたくさんいるけど
オードリー・タンは老子ですよ。いいなぁ。
(施政者が)信頼を与えなければ(市民からの)信頼を得られない。だから理想的な君主は悠然としてめったに口を挟まず、人々が力を併せて事業を為す様にさせて、民衆が『我々の力で国が良くなった』と自らを誇れる様にするのだ」(「道徳経」17章)