先日河合隼雄氏の遺作となってしまった河合氏の自伝的小説「泣き虫ハァちゃん」を読んだ。
どことなく昔話のような雰囲気を漂わせる温かな小説だった。
この小説は「家庭画報」に連載されていたものである。
河合氏が脳梗塞で倒れ、11ヶ月後意識を取り戻すことなく亡くなり、続編は天国へと持って行かれた。
河合氏の奥様のあとがきによれば、この小説はフィクションではあるが河合氏の少年時代のイメージそのままであるとあった。
この「泣き虫ハァちゃん」はその題名そのまま主人公ハァちゃんは良く泣くのである。
涙はカタルシスになると言うが、日本人最初のユング派の臨床心理士である河合氏が晩年に何を思ってこの自伝的小説を書き綴っていったか、河合氏の中にいる小さなハァちゃんの涙の意味、その謎を河合氏自身が自己の最終的統合のために探し求めていたような気がした。
小説は一話ごとに徐々に面白くなっていくように思えたそれは河合氏がだんだんとその当時の小さな河合氏を身近に感じていったからではないだろうかと思えた。
だがしかし、それも分かりきることはない、自らが言っていたことを実体験するように最後は死で示したのか。
続編は読者に任せ、それを「お楽しみあれ」とでも言うかのように一人ひとりに物語る楽しみをそっと与えてくれたのか。
河合氏の大好きな言葉「良いことは二つなかれ」の肯定的な捉え方で河合氏のように柔和な心を持って、私は私の今日の物語りに入っていきたい。