多摩川はやっと護岸工事を終えていた。
この護岸工事をしている時、臆病者の愛犬あんはその音に脅え、せっかく来たのに早足で逃げるように帰って行くのだったが、今日は久しぶりにゆっくりと草の上を歩き、楽しそうにクンクンしていた。
私はそれを喜んだ。
きっとあんと同じように楽しんだ。
春の陽気を私たちは一緒に喜び感謝していた。
頬に優しく当たる春風は黄色の菜の花の香りをほんのりと持って来てくれた。
草の上には所々に黄色く輝くタンポポが太陽と見つめ合うように咲いていた。
すべてが春を喜び、春に感謝し、いまを生きていた。
そのことを私は優しく感じた。
春の陽気を贅沢だと思うほどに堪能した。
多摩川の沿線道路沿いには私が子供の頃からあった桜が数本ある。
そこから花吹雪は生まれていた。
花びらがひらりひらりと空に舞い、空に踊り、空に歌い、そこを通る者たちを祝福していた。