小さな背中を丸め、片手にアルミ缶が入った袋を持ち、片足を引きずるようにしてあの喋れないおじさんが歩いていた。
すでにカレーは食べ終わって、どこかへ行く途中だった。
「おじちゃん、おじちゃん。」
彼は自分の声に反応し、振り返って笑顔を見せた。
「もうカレーは食べた?」そう聞くと、頷きながら握手を求めた。言葉を発することの出来ぬ彼には握手と言う行動が親しみと感謝を表すものとしてあるのだと感じていた。
彼のポケットにはタバコがなかったので、周りに人がいないかを見回したあと、タバコを一本あげ、ライターで火をつけてあげた。
元気そうな顔を見せていた。しかし、靴はどこかでもらったであろう、彼には大きすぎる靴を履いていた。
タバコ一本吸い終わる時間、彼のそばにいた。
また食べ終わった容器をもらい歩いていると、彼は公園のつつじのなかに入って何かをしていた。
近寄って見ると、彼は自分のアルミ缶をつつじのなかに入れ、枯れた枝でそのアルミ缶を隠していた。
自分の宝物を取られないようにするためだった。お金に換算しても100円にも満たないであろうアルミ缶が彼の生きる糧になっている。
誰も友達の居ない彼は自分の持ち物を見ていてくれる人がいない。木々の助けを借りなくてならなかった。
「そこに隠していたんだ。」孤独のなかに生き抜くためにはそうせざるを得ない姿だったが、愛らしくも見えたその姿に微笑みながら語り掛けると、彼は照れていた。
またタバコをあげようとすると、彼は一度断ったが、自分は彼の胸のポケットのなかに3本のタバコを入れた。
彼は濁音の声と右手を差し出した。
自分は、どうか無事で居てくださいと祈りを込めて、彼の右手に自分の右手を合わせた。それが自分の宝物になっていた。
そして、彼は大きすぎる靴を引きずり、音を鳴らしながら、どこへ向かって行った。
台風が来ている今日、彼はどこで何をしているのだろうか?
どうか無事でいてくださいと祈る。