カルカッタでの私の最後の食事はランチでスパニッシュカフェに行き、ケンとイネスの3人でピザを食べた。
イネスと仲良くなるまでスパニッシュカフェには私とケンは行かなかったが、イネスが辛いものがまったく食べれなかったので行くようになった。
スパニッシュカフェのピザはインド料理屋で食事を取るよりも少し高くついたが、私はとても気に入っていた。
私は最後のピザの味は良く覚えていない、たぶん、いつものように美味しかっただろうが、その時、私たちにはもういつものようにと言う時間は流れていなかった。
もう少しでこの二人にサヨナラをしなければならなくなる、それは確実なことであり、刻々とその時は迫り、それは私のどこかをぎこちなくさせていたに違いない。
ケンは5月に日本に来るけど、アルゼンチンに住むイネスとはもう生涯会うことはないだろうと私は思っていた。
それゆえにイネスにはこの最後の時が来る数日前から事あるごとに「バイバイ!イネス!」と口に出して、最期の時をシュミレーションし、私は勝手に別れの練習をしていた。
二人と過ごした時間はほんとうに楽しかった、そのすべてから来る別れの寂しさは、私の目頭の辺りを忙しくせていた。
瞳の許容量を超えそうな涙が上がってきたら、日本に帰って愛犬のあんと会えることを考えたり、目線を変えてみたり、頭を振ったりと感情操作を続けた。
私の最期のランチにはますみちゃんも来る予定であったが、彼女がボランティアをしていたシャンティダンの終る時間が遅かったので、私の空港に向かうタクシーの時間もあり、最期のピザを食べ終わると、私たちはスパニッシュカフェを離れた。
{つづく}