この夜の「ベナレスからの手紙」は愛するものから離れることを前提として書いたマザーの寂しさをも、私に感じさせた。
それは間違えなく、私がここを離れなくてならないそれを重ねて読み通したことに寄るものと言うことに他ならなかった。
そして、当時この手紙にシスターたちがマザーが居なくなった後のことと、彼女との別れを自ら考えずにはいられなくなった戸惑いを覚えてたことを初めて今回知ったことにより、その思いも私の中に滲んだ。
だがしかし、やはりマザーの本心はイエスの愛を伝える福音を強く残したい、この修道会を守り抜きたいと言う溢れる愛だけと言うことに尽きることをマザーの死後年月が過ぎても誰もがマザーをなおさらに愛し続け生きてきたことの中からもしっかりとマザーの真理を読み取れたようにも思えた。
マザーはただひたすらにイエスの愛に私たちを導こうとしていることが深く私の内に満ち溢れた。
私は感謝の内にひさすらそれを内省し、最後のアドレーションもいつもと変わることなく終わっていった。
私の身体は感謝の思いに熱くなっていたが深く落ち着いた気持ちでもあった。
床に額をつけるほど深く「I Thirst」とあるイエスに礼をし、腰をあげた。
チャペルを出るとシスターマーガレットがちょこちょこと私のところに来て、「Tetsu、ちょっと待ってて。明日の朝は会えないでしょ。シスターメルシーマリアから渡すものがあるから待ってて」とそう言ってメルシーマリアを探しに行った。
いつも謙虚で一生懸命、そして、優しく純粋であるマーガレットはとても愛らしい、彼女の後ろ姿を眺めながら、「ありがとうございます」と呟いた。
しばらくしてシスターメルシーマリアが大きめの封筒を持って現れた。
マザーの写真やメダイなどを入れた厚い封筒には「Tetsu」と書いてあり、その中から微笑むマザーが表紙の小さな本を取り出し、それはマザーのためのNovenaの本であった。
彼女はその祈り方を丁寧に教えてくれた。
そして、今回の私の滞在のこと、洗礼のことやオリエンテーションを手伝ってくれたことなど感謝の思いを伝えてくれた。
私は最後のアドレーションで「ベナレスからの手紙」を読んだことを伝え、少し寂しかったと言うと、彼女も胸で受け止めるように深くゆっくりと頷いてくれた。
もう何度も何度も彼女からありがとうと言われたが、にもかかわらず、彼女は最後までありがとうと言い続けてくれた。
私の方こそである、ありがとう以上のありがとうを伝えたくてしょうがなかった。
もうすでに誰もボランティアなどいなくなった時間であった、彼女はそれほどこの私に時間を割いてくれた。
あまりにも喜びに満たされていた、それはどう考えてもマザーが導いてくれたイエスの愛としか考えられない状態であった。
マザーハウスの門を出ると、ジムとグレッグが待っていてくれた。
サダルまで戻る道を三人で歩いたその時にジムは言った。
「いつもTetsuの横にいようとしていた」とだけ。
それで私は十二分にGod Fatherとしての彼の愛が分かったのである。
私は満面の笑みで答えた。
「生涯ジムは私のGod Fatherだよ、ありがとう!」