とぎれとぎれの物語

瀬本あきらのHP「風の言葉」をここで復活させました。小説・エッセイをとぎれとぎれに連載します。

23 迷い

2015-04-29 16:10:22 | 日記



 私は、樹として生きていく、娘と。そういう覚悟が出来つつありました。うきうきするような毎日でした。私は樹木。あらゆる現世の生き物の中で、環境に調和した最高のレベルを保っている。そういう自負もありました。しかし、・・・。

 「そこの電信柱さん。懐かしいねえ。私を覚えておいでかい ?」

声のする方をじっと注視すると、長い髪の美しい女性がいました。

 「誰ですか ?」

 「私を忘れるなんて・・・。」

 「ほんとに、いや、ほんとに、思い出せません」

 「貴方にとっても私にとっても一番近い関係でしたのに・・・」

 私は、そう言われて、なんだか心の奥がむずむずしてきました。なんと口許が愛らしいことか。

 「ああ、思い出しました。学生時代の麗奈さんでは・・・」

 そう言った途端、また、全身に痛みが走りました。よくよく見つめていると、その女の背後に男の姿が現れました。しばらくすると、もう一人の男の姿も現れました。二人は、その女の背後に立ち、二人ともその女の肩に手を置きました。すると、嬉しそうにその女は微笑みました。私は痛くて痛くて息苦しくなりました。

 「あなたたちは、ほんとに誰ですか ?」

「はははっ、私たちを思い出せないなんて・・・」

 「ほんとに誰ですか ? 私をこれ以上苦しめないでください」

 その時でした。花りんの樹から細い声が伝わってきました。オトウサン、アナタハ、マタ、タメサレテイマス。ど、どいうことだ。オンナニヨワイアナタハ、ドンナヒトデモ、フラツイテシマイマス。ソノココロガ、マタ、デテキマシタ。ホラ、ヨクミテクダサイ。ソノオンナノヒトハ、アナタノオカアサンノ、ワカイコロノスガタデス。

 「えっ、母 !! ・・・じゃ、後ろの男たちは・・・」

 ゴゾンジダトオモイマスガ、アナタノオカアサンハ、サイコンサレマシタ。・・・デスカラ、ミギカワノオトコガ、リコンシタヒト、ヒダリガワノヒトガ、アナタノオトウサンデス。ワカリマシタカ。

 「分かった。・・・でも、どうしてこんなときに、こんなところへ・・・」

 「アナタガ、リッパナキニナルタメノシレン、ヨウスルニ、ホンセイヲ、タメサレタノデス。・・・イヤ、シュクフクスルタメニ、サンニンハ、デテイラッシャッタカモシレマセン」

 そう言い終わると、花りんの樹から七色の光が出てきて、その三人を柔らかく取り囲みました。すると、私の痛みは自然に消えていきました。それと同時にその三人の姿が透明になって、そして消えていきました。元の闇にもどりました。

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