とぎれとぎれの物語

瀬本あきらのHP「風の言葉」をここで復活させました。小説・エッセイをとぎれとぎれに連載します。

21 ある夜

2015-04-18 23:14:41 | 日記



 娘の樹と私の間の地面から光が漏れ出してきました。そして、その光の環の中からランタンを持った女性が姿を現しました。徐々に私の方へ近づいてきました。それにつれて私の全身に痺れるような痛みが走りました。


 「花りん、この女は誰だ !!」

「分からない」

 「痛い、痛い。体が痺れる」

 「ええっ。」

 「どうにかならないか」

 「お父さん、ほんとに知らない人 ? しっかり思い出して」

 「全然分からない」

 「例えば、昔付き合ってた人とか」

 「おいおい、私は、そんなに・・・」

 「・・・もてたわけではない」

 「そうだ。だから、怖い」

 「透視します。お父さんも一緒に」

 私たちは、その女の霊を見極めようと努力しました。しかし、私の力ではどうにもなりません。そのうちに息が苦しくなるほど痛みが増してきました。

 「花りん、もうだめだ」

 「お父さん、しっかりして !!」

「・・・」

 「いろいろな霊が見える。ああ、あのランタンの灯を消せば・・・」

 「ど、どうして消すんだ」

 そう言った瞬間、花りんの樹の枝が鞭のように伸びてきました。そして、そのランタンを激しく叩きました。灯が消えました。女は少しも表情を変えません。

 「ありがと。少し痛みが和らいだ」

 「お父さん、最後の手段・・・」

 「最後 ?」

 「そう、最後の手段・・・。少しの間辛抱してね」

 次の瞬間、私の足元、地中の中で何かが蠢いているような感覚がありました。

 「私の根っこがお父さんの足を取り巻くからしばらくじっとしてて」

 今度は足が締め付けられるような感覚が体中を巡りました。その感覚は時間が経つにつれて快感に変わっていきました。

 「お父さん、足を強く踏ん張ってご覧」

 私は、言われるまま、足に力をいれました。すると、何だか、自分に根が生えたような気持ちになりました。

 「お父さん、オトウサン、貴方は樹に生まれ変わるはず」

 「なにっ、電信柱が樹に !!」

 「そう、その通り」

 すると、その女の体が透明になりました。「ワタシハ、キノレイデス。カリンノレイガ、ワタシヲヨンダノデス。・・・ホホッ、ワタシハ、アナタノアラユルヨクボウノケシンデモアリマス」そう言うと、その女に翼が生え、私の周りを飛び回りました。近づいてくると、その女から甘美な芳香が漂ってきました。

東日本大震災被災地の若者支援←クリック募金にご協力ください。