とぎれとぎれの物語

瀬本あきらのHP「風の言葉」をここで復活させました。小説・エッセイをとぎれとぎれに連載します。

空き家の庭

2011-09-18 22:49:18 | 日記
空き家の庭






 作業を進め、やっと何とか庭先だけは草の征伐をした。
 縁側に腰かけて改めて庭を眺めると、大きな樹木がこの庭のメインであることに気づいた。



 この樹は何の樹だろうか。
 私は歴史を刻んできたこの樹木の霊気を感じた。

 畝本さん、大分綺麗になったね。

 管理人の長柄さんが突然声をかけた。

 驚いて振り返ると門扉のところから笑顔でこちらに近づいてくる。

 立派な家ですね。

 この付近では古い方だけど、しっかりした建て方なんでびくともしませんよ。

 この樹は何の樹ですか。

 椋(むく)の木ですよ。家族は大事にしてました。

 これが椋ですか。すごい勢いですね。

 近くのお宮に千年の椋があります。

 千年も生きる、・・・。

 そうです。

 すごいですね。

 その樹の子どもです。

 というと、・・・。

 種を拾ってきて何十年か前、播いたそうです。そしたら、一本だけ芽を出した。そいつを
 大事に育てたんですね。

 長柄さんは縁側に腰かけて言った。

 あんたは独り者、というか、何か事情がありそうな感じだけど、・・・。

 いや、家族がいます。でも、ときどき一人になりたい気持ちになることが、・・・。

 私はそう言いかけて、急に黙り込んだ。


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