大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

音に聞く高師浜のあだ波は・8『誉も高き』

2019-09-29 06:16:57 | ライトノベルベスト
音に聞く高師浜のあだ波は・8
『誉も高き』     高師浜駅


 渡り廊下の四階部分には屋根が無い。

 建築費節減のために一階は素通し、四階は手摺だけの青天井。
 午前中に雨が上がって、青空が見えてきたんで、教室移動に四階の渡り廊下を三人で歩いてた。
「やっぱり晴れてんのがいいね!」
「やっぱ、お日様浴びてセロトニン増やさなきゃね!」
「ほんまやね!」
 スミレヒメノホッチの三人は、スキップでもしそうな勢い。

 そこに、木枯らしの予告編のような突風が吹きあがって来た。

 キャーーー!

 三人仲良く悲鳴を上げて、ガードしたのはスカート。
 勉強道具を抱えていたけれど、女子の一大事。派手に捲れ上がることだけは防いだ。
 そやけど、弛んだ両腕の間から、授業で使うコクヨのファイルが吹き飛ばされてしまった!
「危なかったーー」
 さすがは弓道部。すみれ一人だけは吹き飛ばされずに済んだ。
「どないしょ、次の授業でいるで!」
 次の現代社会はプリント授業で、ファイルがないと話になれへん。万一無くなってしもたら、来るべき期末テストの勉強もでけへん!

「あ、拾ってくれたみたいよ!」

「あー、それ、あたしの!」
 
 叫んだ声に振り仰いだのはマッタイラ。あたしらに気が付いた感じやけど、なんか(しもた!)いう顔してるのが、四階からでも分かった。

「ここに置いとくから、取りに来い!」

 それだけ言うと、ファイルをベンチの上にオキッパにして行ってしまいよった。
「なんのイケズや!」
 そない吠えながらも、三人で地上の中庭にまで下りる。

 あ、あれや!

 ベンチの上にファイルを見つけて……あれぇ!?

 あたしのんはあったけど、姫乃のファイルが見当たらへん。
「おかしいなあ……」
 すみれが率先して探してくれた。
 ベンチの下から植え込みの中まで探したけど見つからへん。
「マッタイラは、二人分置いてたわよね?」
「そう見えたんやけど、やっぱりイケズかなあ……」
「どうしよう……」

「俺は、二冊とも置いた!」

 マッタイラに確認すると、マッタイラには珍しく、胸を張って言い張った。
「そやかて」
「もう授業始まるわ。姫乃はあたしのん見せたげるから」
 現社の移動教室では、すみれと姫乃は隣り合わせなんで、机を引っ付けて一時間をしのいだ。
 六列ある席で、二人だけが席を引っ付けてるので、姫乃は居心地悪そうにしてた。
 横目でマッタイラをジト目で見てみる。

 パチコーン!

 木村に、頭をシバカレて、立場なさげなマッタイラ。
 イタズラやったら、こっち見てニヤニヤしてるか、不自然に無関心を装うか。
 あの感じでは、マッタイラはほんまに知らんような感じや。

「阿田波さん」

 落ち込んでる姫乃を真ん中にして教室に戻る途中、後ろから声を掛けられた。
「これ、阿田波さんのでしょ?」
 振り返ると、ミス高師浜と誉も高き、二年生の立花優花先輩が、ファイルを差し出しながら立っていたのだった。

 
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