REオフステージ (惣堀高校演劇部)
065・夏休み編 思い出のサンフランシスコ・3
※ 本作は旧作『オフステージ・空堀高校演劇部』を改題改稿したものです
※ 本作は旧作『オフステージ・空堀高校演劇部』を改題改稿したものです
日本から来られたんですか?
テーブルに案内してくれたオネエサンがにこやかに聞く。日本語だし。
「はい、今日から三日ほど」
我ながら愛想よく答える。
学校では不愛想とかツンデレのデレ抜きとか言われるわたしだけど、この旅行に来てからは違うんだ。
「それはそれは、その最初のディナーに当店を選んでいただいてありがとうございます」
笑顔には笑顔が返ってくる。
ま、いいことなんだけど。日本に帰ってやろうとは思わない。
そんなわたしは松井須磨。六回目の三年生をやっている二十四歳の女子高生。
そんなわたしは松井須磨。六回目の三年生をやっている二十四歳の女子高生。
なんか文句ある?
ジェファソンホテルのフロントさんの勧めでチャイナタウンの中華飯店に来ている。
手違いでディナーが間に合わないので「お箸の使えるところ」と注文を付けた。
ジェファソンホテルのフロントさんの勧めでチャイナタウンの中華飯店に来ている。
手違いでディナーが間に合わないので「お箸の使えるところ」と注文を付けた。
とにかくホテルから歩いて三分。
坂道の多いサンフランシスコだけど、この飯店には等高線をたどるような水平移動で済むのでありがたい。
千歳には悪いけど、車いす押しての坂道移動はちょっと無理。ホテルまではグリーンエンジェルスのボランティアに出会えてラッキーだったけど、それはただの幸運だろう。
チャイナタウンとはいえアメリカ、大雑把で愛想悪いと思っていたけど、わりにちゃんとしている。
メニューが漢字なのはありがたい。字面を見ればどんな料理か見当が付く。
中華風お刺し身、スープ、チャーハン、五目麺、酢豚、海老のなんちゃら揚げ、と続いたところで変なのが出てきた。
メニューが漢字なのはありがたい。字面を見ればどんな料理か見当が付く。
中華風お刺し身、スープ、チャーハン、五目麺、酢豚、海老のなんちゃら揚げ、と続いたところで変なのが出てきた。
「なんですか?」
「フォーチュンクッキーになります」
オネエサンがにこやかに出してくれたのは、どら焼きを半分にしてひしゃげさせて乾燥させたみたいなの。
「わたしが注文しました!」
千歳が小学生みたいに手を上げる。
グリーンエンジェルスにお礼のストラップを渡したのといい、このフォーチュンクッキーといい、千歳はこっそりの名人なのかもしれない。
「わたしが注文しました!」
千歳が小学生みたいに手を上げる。
グリーンエンジェルスにお礼のストラップを渡したのといい、このフォーチュンクッキーといい、千歳はこっそりの名人なのかもしれない。
そう言えば、部室でお茶を出してくれるタイミングには絶妙なものがある。
わたしの八年間の高校生活はロクでもないが、千歳にとっての四カ月余りの高校生活は宝物なのかもしれない。
「これだけやったら、辞めても問題ないんじゃない?」
部室棟取り壊しでゴタゴタしていたころに千歳に聞いたことがある。千歳は学校を辞めるための口実を得るために名ばかりの演劇部に入って来たんだ。だから、これは意地悪な質問ではない。
「え、え、えーーー、そ、それはですねーー」
顔を真っ赤にしてアワアワしていた。常日頃口出しなんかしない啓介が「先輩」と一言わたしをたしなめた。
ちょっと面白いので、いすを並べてのお昼寝で微妙に足を崩してやる。啓介の位置からだと……たぶん見える。
パソコン相手に二次元にしか興味の無い奴だけど、これにはさすがに視線を感じた。
ヌフフ……部室じゃ啓介、鼻血を流して、千歳は甲斐甲斐しくティッシュを取り出したんだよな。
ミリーも最初はひいジイサンだったかのデザインの部室棟の解体修理が一番よく見えるということで入部したんだけどね。今じゃ達者な大阪弁で愉快に話の輪の中に入ってくる。
ミリーも最初はひいジイサンだったかのデザインの部室棟の解体修理が一番よく見えるということで入部したんだけどね。今じゃ達者な大阪弁で愉快に話の輪の中に入ってくる。
今度の旅行だって、友だちが多い中で我々演劇部を選んでくれたのも、ミリーなりに楽しいからだと思う。
だいいち人間嫌いなわたしがね、こんな感想をいだくってのも凄いことなんだと思うのよ。
だいいち人間嫌いなわたしがね、こんな感想をいだくってのも凄いことなんだと思うのよ。
あ、フォーチュンクッキーてのは、中が空洞になっててお御籤みたいなのが入ってる。そういやAKBのヒット曲の中にあったなあ……思っても言わない。
「キャ-、旅先で良いことがあるでしょうだって!」
「キャ-、旅先で良いことがあるでしょうだって!」
ミリーがくじを見て喜んでいる。
「旅先って、アメリカはミリーの故郷やろが?」
啓介がつっこむ。
「それはやねぇ、大阪の人間が青森あたりで『おまえの故郷やろがー』って言われるようなもんよ」
そりゃそうだな、シカゴとサンフランシスコとじゃ青森どころの距離じゃない。
千歳と啓介は揃って『近々良いことがあるでしょう』
で、わたしは『思いがけぬ出会いがあるでしょう』
どんな出会いだ?
思ったとたんに声が掛かった。
「ちょ、松井先輩じゃないですか!?」
思ったとたんに声が掛かった。
「ちょ、松井先輩じゃないですか!?」
え(゚д゚)!?
ビックリして振り返ると、後ろのテーブルに居たではないか!
生徒会副会長の瀬戸内美晴が!?
ビックリして振り返ると、後ろのテーブルに居たではないか!
生徒会副会長の瀬戸内美晴が!?
☆彡 主な登場人物とあれこれ
- 小山内啓介 演劇部部長
- 沢村千歳 車いすの一年生 留美という姉がいる
- ミリー 交換留学生 渡辺家に下宿
- 松井須磨 停学6年目の留年生
- 瀬戸内美春 生徒会副会長
- 生徒たち セーヤン(情報部) トラヤン 生徒会長 谷口
- 先生たち 姫ちゃん 八重桜(敷島) 松平(生徒会顧問) 朝倉(須磨の元同級生)
- 惣堀商店街 ハイス薬局(ハゲの店主と女房のエリヨ) ケメコ(そうほり屋の娘)