大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

ライトノベルベスト『メゾン ナナソ・7』

2021-12-23 06:28:24 | ライトノベルベスト

イトノベルベスト 

『メゾン ナナソ・7』   

 

 

 

 志忠屋の多恵さんから葉書が来た。

 

 なんとか大学に入って半年、志忠屋にもご無沙汰だ。

 

―― たまにはお越しください、奈菜さんも、どうしてるのかなあってカウンターで呟いてますよ ――

 

 奈菜さんに会いたい!

 

 思いが付き上げてきて、スマホでここんとこの予定を確認した。

 週三回のバイトと、前期にどうしても出ておかなければならない講義を確認。

 文学論と国史概説……選択教科だし、講義はつまらないし、レポートの締め切りは迫ってるし、この二つをブッチすれば時間のやりくりはつく。

 

 あくる日、一講時目だけ受けて志忠屋に急いだ。

 

「あら、残念、たった今まで奈菜さん居たのよ」

 ランチのピークを過ぎて洗い物に精を出していた多恵さんが残念そうに言う。

「あ、じゃ、追いかけてみる」

「あ、待って。お昼まだなんでしょ、オニギリ持ってきなさい」

「あ、すみません」

 お代を払おうとしたら「まかないだから」と言ってサービスしてくれた。ペコリとお辞儀をして、川沿いの道を急ぐ。

 あれから、何度かメゾン・ナナソを探りに、ここいらを歩いてみたけど、いっこうにたどり着けないでいる。でも、女の足だ、速く歩けば追いつけないことも無いだろう。

 しかし、追いつくと言うのは道が分かっていて言えることだ。

 不案内な道をやみくもに歩いていては追いつけるもないだろう。

 

 諦めの気持ちが空腹感と共に湧いてくる。

 

 曲がったところに小公園が見えたので、ブランコに腰かけてオニギリの包みをあける。

 オニギリ二個にお新香、焼きのりが別になっていて、これで巻いて食べろということだ。

 ソヨソヨとブランコを揺らしながらオニギリを頬張る。

 焼きのりの香りと食感、ヒンヤリしたご飯が心地い。具は肉厚の塩昆布。肉厚だけど、柔らかいので食べやすい。

 もう一個のオニギリは、多分焼き鮭だ。

 そう思って咀嚼していると、植え込みの向こうに道が開け、道の向こうにメゾン・ナナソが見えた!

 

 見つけた!

 

 感動して立ち上がると、包みのオニギリが地面に落ちて、数回転がったかと思うとバラバラになって、中の具が出てしまった。予想通りの焼き鮭なので『当たった!』とは思ったが、砂粒とゴミにまみれては食べられないだろう。

 と、そこに一匹の猫が飛び出してきて、焼き鮭をかっさらって行ってしまった。

 あーーーーーついてねえ。

 ため息ついて顔をあげると、ついさっきまで見えていたメゾン・ナナソが道ごと見えなくなってしまっている。

 幻だったのか……?

 

 ニャーーー

 

 さっきの猫が、公園の入り口で鳴いている。思わず殺気のこもった目で見てしまう。

『まあ、怒るな。ナナソへの道なら教えてやる』

 猫が喋る不思議さも忘れて時めいてしまう。

「ほんとか!?」

『今日は急ぎの用がある、こんど教えてやるから、楽しみにしてろ。じゃ、焼き鮭おいししかったぜ』

 それだけ言うと、クルンと身をひるがえして消えてしまった。

 仕方なく、あたりの写真を撮って家に帰った。

 

 


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