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大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

はるか・15『写真の意外な波紋・1』

2021-10-29 05:40:53 | ライトノベルベスト

イトノベルベスト はるか・15

『写真の意外な波紋・1』   





 あっけなく、のぞみはホームを離れていった。

 見えなくなるまで見送って、ため息一つ。

 父と、父の新しい奥さんを見送って、はるかの『親の離婚から……』は幕が下りてしまった。

 この四カ月、無意識に大人ぶって、親の離婚から目を背け、割り切ったように、ZOOMERに乗ることと、演劇部にのめり込むことで逃げてきた。それに気づき、家族の復活を果たそうともがいて傷ついて……その間に大人たちは、新しい道を歩み出していた。

 父も母も、新しい父の奥さんも。

 その、大人道の三叉路で、いつまでも立ち止まっていたのは自分一人だけなんだ。

 寂しさと、安心と、寄る辺ない孤独がいっぺんにやってきた。

 

 え!?

 振り返ると、ケータイを構えたオネーサンが二人、スマホでわたしの写真を撮っている。

「ごめんなさい、あんまり可愛かったから……あ、ダメだったら消去するから!」

「あ、いえ……」

「よかったら、この写真送ろうか。ケータイ持ってるでしょ」

「はい、ありがとうございます」

 送ってもらった写真は、とてもよく撮れていた。

 一枚は、ちょっと寂しげに、のぞみを見送る全身像。

 もう一枚は、振り向いた刹那。ポニーテールがなびいて、群青のシュシュがいいワンポイントになって、少し驚いたようなバストアップ。

「このままJRのコマーシャルに使えるわよ」
 
 と、オネーサン。聞くと写真学校の学生さんだった。

 いつもだったら、すぐに「消して!」と拒絶した。でも、寂しさと、安心と、寄る辺ない孤独にやられて鈍くなってたのか、オネーサンたちの目がまっすぐだったからか、受け入れてしまった。

 オネーサンたちと別れてしばらく写真を見つめて……ひらめいた!

――これだ、『おわかれだけど、さよならじゃない』

 わたしは、ベンチに腰を下ろし、写真を見ながら、そのときの物理的記憶を部活ノートにメモった。

 
 この写真が、後に大きな波紋を呼ぶとは想像もしなかった。


 文化祭がやってきた。

 うかつにも気がついたのは、一週間前。

 わたしが、お父さんを新大阪に見送りに行ったその日。

 演劇部は、それくらい『すみれの花さくころ』に集中していたってことなんだけど、うかつは、うかつだった。

 逆に言えば、真田山は、それほど行事に関心がない。

 一部のクラブやサークルを除いて、みんなの関心は、三年生を中心にまず進路。就職や、推薦入試がこの時期に集中する。そしてバイトのことであったり、趣味や検定とか、要するに自分のことにしかいかない。

 しかし、迫ってきたものは仕方ない。

 クラスの取り組みも、そのころにやっと動きだした。

 でも「演劇部だから」を免罪符にして、クラスの取り組みからは抜け出せた。

 一応、クラブに集中はできる。 

 そして、これはいいニュースなんだけど、三年生の人たち、みんな揃って進路が決まったこと。

 タロくん先輩は念願かなって(なんせ幼稚園のころからの夢)大手私鉄に。

 タマちゃん先輩は、保育系のT短大。

 山中先輩はO音大に。

 当然ここにいたるまでには、稽古日程の調整が大変だったけど(わたしもお父さんの看護で二日ほど抜けた)タロくん先輩が、臨時ダイヤを組むように、その都度改訂してくれて、稽古場のモチベーションは下がることが無かった。

 しかし、先生の間で一悶着あった。

 乙女先生は、リハを兼ねて『すみれ』を演ろうという。

 大橋先生は、文化祭で、本格的な芝居をやっても観てくれる者などいなく。雑然とした空気の中で演っても勘が狂うだけだし、演劇部はカタイと思われるだけと反対。

「文化祭というのんは文字通り『祭り』やねんさかい、短時間でエンタティメントなものを演ろ」

 と、アドバイスってか、決めちゃった。

 わたしは、どっちかっていうと乙女先生に賛成だった。部活って神聖でグレードの高いものだと思っていたから。

 出し物は、基礎練でやったことを組み直して、ショートコント。そしてAKB48の物まね。

 こんなもの一日でマスター……できなかった。

 コントは、間の取り方や、デフォルメの仕方。意外に難しい。

 物まねの方は、大橋先生が知り合いのプロダクションからコスを借りてきたんで、その点では盛り上がった。ただ、タロくん先輩のは補正が必要だったけど。

 振り付けはすぐにマスターできた。しかし先生のダメは厳しかった。

「もっとハジケなあかん、笑顔が作りもんや、いまだに歯痛堪えてるような顔になっとる」

 パソコンを使って、本物と物まねを比較された。

 一目瞭然。わたしたちのは、宴会芸の域にも達していなかった。


 当日の開会式は体育館に生徒全員が集まって行われた。

 

 校長先生の硬っくるしく長ったらしい訓話の後、実行委員でもあり、生徒会長でもある吉川先輩の、これも硬っくるしい挨拶……。
 と思っていたら、短い挨拶の後、やにわに制服を脱ぎだした! 同時に割り幕が開くと、軽音の諸君がスタンバイしていて、五秒でライブになった!

 ホリゾントを七色に染め、ピンスポが、先輩にシュート。

 先輩のイデタチは、ブラウンのTシャツの上にラフな白のジャケット。袖を七部までまくり、手にはキラキラとアルトサックス。

 軽音のイントロでリズムを作りながら、「カリフォルニア シャワー」

 わたしでも知っている、ナベサダの名曲(って、慶沢園の後で覚えたんだけど)を奏でる。

 みんな魅せられて、スタンディングオベーション!

 でも、わたしには違和感があった。

――まるで自分のライブじゃない、軽音がかすんじゃってる。

 会議室で、簡単なリハをやったあと、昼一番の出までヒマになった。

 中庭で、三年生の模擬店で買ったタコ焼きをホロホロさせていると、由香と吉川先輩のカップルがやってきた。

「おう、はるか、なかなかタコ焼きの食い方もサマになってきたじゃんか」

「先輩こそ、サックスすごかったじゃないですか。まるで先輩のコンサートみたいでしたよ」

「そうやろ、こないだのコンサートよりずっとよかったもん!」

 綿アメを口のはしっこにくっつけたまま、由香が賞賛した。もう皮肉も通じない。

「なにか、一言ありげだな」

 さすがに先輩はひっかかったようだ。

「あれじゃ、まるで軽音が、バックバンドみたいじゃないですか」

「でも、あいつらも喜んでたし、こういうイベントは(つかみ)が大事」

「そうそう、大橋先生もそない言うてたやないの。はい先輩」

 由香は綿アメの芯の割り箸二人分を捨てに行った。

「わたし、やっぱ、しっくりこない……」

「まあ、そういう論争になりそうな話はよそうよ」

「ですね」

「こないだの、新大阪の写真、なかなかよかったじゃん」

「え、なんで先輩が?」

「あたしが送ってん……あかんかった」

 由香が、スキップしながらもどってきた。

「そんなことないけど、ちょっとびっくり」

 由香にだけは、あの写真を送っていた。しかしまさか、人に、よりにもよって吉川先輩に送るとは思ってなかった。でもここで言い立ててもしかたがない。今日は文化祭だ。

「あれ、人に送ってもいいか?」

「それはカンベンしてください」

「悪い相手じゃないんだ。たった一人だけだし、その人は、ほかには絶対流用なんかしないから」

「でも、困ります」

「でも、もう送っちゃった」

「え……?」

「「アハハハ……」」

 と、お気楽に笑うカップルでありました……。

『はるか 真田山学院高校演劇部物語・第18章』より


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