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大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

ライトノベルベスト『チョイ借り・2』

2021-07-09 06:44:08 | ライトノベルベスト

イトノベルベスト

『チョイ借り・2』  




 オレは、もともと律儀で行儀が良い。

 素行と勉強の悪さは学校に問題がある。

 言い出すと切りがないので、ダブったけど、無遅刻無欠席だったとだけ言っておく。

 日の出と同じくらいに起きると、セミダブルのベッドで、チイコが、これでも女かという姿で寝ている。

 ゆうべのチイコの激しさは、どこか贖罪めいた感じがした。ダブった責任の何パーセントかを感じているようで、イタしている最中も「ごめんね」を連発していた。

 たしかにチイコたちとは、よく遊んだ。しかしダブったのは自分の責任。チイコは、そういう「ごめんね」という構え方でオレに好意をもってくれている。可愛いヤツだとは思う。

 だが、この寝姿。

 開いた脚を閉じてやり、ずり落ちた布団を掛け、衣類一式をたたんで枕許に置いてやる。まあ、目が覚めるのは、二時間はかかるだろう。それまで軽く片づけし、朝ご飯の用意をしてやろう。部屋を貸してくれたチイコのオジサンへの礼儀。

 で……服を着てブッタマゲた。

 なんと、畳一畳ほどの玄関ホールにオレンジ色のチャリが居た。靴を脱ぐとこだけでは収まらないので、前輪がホールのフローリングの上に乗っかっている。

 おかしい。二つの意味でおかしい。

 第一に、夕べ不法駐輪のとこに置いてきたはずのチャリが、ここにあるのがおかしい。

 第二に、起きてざっと部屋を見渡したときには、ホールにチャリは無かったぞ。

 チイコを見苦しくないようにして、オレ自身が身繕いをしている間に現れた……なんだか気を遣った現れ方だ。

「そう、気をつかったのよ」

 ……自転車の方から声がした。マイクか何かが仕掛けてあって、誰かが喋っている。ひょっとしたらカメラなんか仕掛けてあって、夕べのチイコとのことが……。

「そんな悪趣味じゃないわよ」

「だ、誰なんだ……!?」

「わたし、わたしよ。オレンジ色の自転車」

「自転車が喋るわけないだろ……だれなんだよ、こんなイタズラすんのは」

「カタイ頭ね。じゃ……じゃ、これで喋りやすい?」

 自転車の姿がボンヤリしてきたかと思うと、二三秒で、オレンジ色のセーラー服の女の子に変身した。

「これなら、喋りやすいでしょ」

「お、おまえ……」

「さあ、だれでしょ?」

「わかんねえから、聞いてんだ(;゚Д゚)」

「わたしも、よく分からない……ほんとだよ」

「おまえ、人間か?」

「さあ……」

 その子は、どうでもよさそうに首を捻る。

「ざけんなよ。夕べからそこにいたのかよ」

「そんな不躾な。ちゃんとチイコちゃんにお布団かけて、ナオキが着替えるの待って、ここにきたの。それまでは、あの自転車置き場。チイコちゃんが優しくしてくれたんで、どこも傷つかずにすんだ。ナオキは、わたしのこと放り投げるつもりだったでしょ」

「おまえ……自転車か?」

「さあ……ま、昨日ナオキが拾って、乗っけたの覚えてるから、有る意味自転車であることはたしかでしょうね?」

「それが、人間に姿変えて現れたってか。安出来のラノベみたいだな」

「わたし、半分てか、何割かは人間、話すの面倒だから、そこのパソコン見てくれる」

 パソコンが勝手に起動して、新聞みたく、文章と写真がでてきた。

「鈴木友子、急性劇症肝炎で死亡……通夜、告別式……昨日葬式だったんだ」

「うん、ナオキが拾ってくれたころ、友子は火葬場で骨になっておりました」

「で……友子の愛車……って、オレンジのチャリじゃん!」

「うん。なんだか、友子と自転車がくっついたみたいで。両方のタマシイがくっついて、こうなっちゃった」

「……おい、住所とか、学校出てこないじゃないか」

「出てきたら、どうするつもり?」

「むろん、友子の形見だから、友子の親に返さなくっちゃ」

「アハハハ……」

「なにがおかしいんだよ!」

「わたし、チョイ借りよ」

「だからさ、そういうイワクのある物なら返さなくっちゃよ……」

 オレは、マジになって、パソコンの画面をスクロールした。

「あのね、反対、反対。わたしがナオキをチョイ借りしたの」

 なんだって……。


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