ライトノベルベスト
オレは、もともと律儀で行儀が良い。
素行と勉強の悪さは学校に問題がある。
言い出すと切りがないので、ダブったけど、無遅刻無欠席だったとだけ言っておく。
日の出と同じくらいに起きると、セミダブルのベッドで、チイコが、これでも女かという姿で寝ている。
ゆうべのチイコの激しさは、どこか贖罪めいた感じがした。ダブった責任の何パーセントかを感じているようで、イタしている最中も「ごめんね」を連発していた。
たしかにチイコたちとは、よく遊んだ。しかしダブったのは自分の責任。チイコは、そういう「ごめんね」という構え方でオレに好意をもってくれている。可愛いヤツだとは思う。
だが、この寝姿。
開いた脚を閉じてやり、ずり落ちた布団を掛け、衣類一式をたたんで枕許に置いてやる。まあ、目が覚めるのは、二時間はかかるだろう。それまで軽く片づけし、朝ご飯の用意をしてやろう。部屋を貸してくれたチイコのオジサンへの礼儀。
で……服を着てブッタマゲた。
なんと、畳一畳ほどの玄関ホールにオレンジ色のチャリが居た。靴を脱ぐとこだけでは収まらないので、前輪がホールのフローリングの上に乗っかっている。
おかしい。二つの意味でおかしい。
第一に、夕べ不法駐輪のとこに置いてきたはずのチャリが、ここにあるのがおかしい。
第二に、起きてざっと部屋を見渡したときには、ホールにチャリは無かったぞ。
チイコを見苦しくないようにして、オレ自身が身繕いをしている間に現れた……なんだか気を遣った現れ方だ。
「そう、気をつかったのよ」
……自転車の方から声がした。マイクか何かが仕掛けてあって、誰かが喋っている。ひょっとしたらカメラなんか仕掛けてあって、夕べのチイコとのことが……。
「そんな悪趣味じゃないわよ」
「だ、誰なんだ……!?」
「わたし、わたしよ。オレンジ色の自転車」
「自転車が喋るわけないだろ……だれなんだよ、こんなイタズラすんのは」
「カタイ頭ね。じゃ……じゃ、これで喋りやすい?」
自転車の姿がボンヤリしてきたかと思うと、二三秒で、オレンジ色のセーラー服の女の子に変身した。
「これなら、喋りやすいでしょ」
「お、おまえ……」
「さあ、だれでしょ?」
「わかんねえから、聞いてんだ(;゚Д゚)」
「わたしも、よく分からない……ほんとだよ」
「おまえ、人間か?」
「さあ……」
その子は、どうでもよさそうに首を捻る。
「ざけんなよ。夕べからそこにいたのかよ」
「そんな不躾な。ちゃんとチイコちゃんにお布団かけて、ナオキが着替えるの待って、ここにきたの。それまでは、あの自転車置き場。チイコちゃんが優しくしてくれたんで、どこも傷つかずにすんだ。ナオキは、わたしのこと放り投げるつもりだったでしょ」
「おまえ……自転車か?」
「さあ……ま、昨日ナオキが拾って、乗っけたの覚えてるから、有る意味自転車であることはたしかでしょうね?」
「それが、人間に姿変えて現れたってか。安出来のラノベみたいだな」
「わたし、半分てか、何割かは人間、話すの面倒だから、そこのパソコン見てくれる」
パソコンが勝手に起動して、新聞みたく、文章と写真がでてきた。
「鈴木友子、急性劇症肝炎で死亡……通夜、告別式……昨日葬式だったんだ」
「うん、ナオキが拾ってくれたころ、友子は火葬場で骨になっておりました」
「で……友子の愛車……って、オレンジのチャリじゃん!」
「うん。なんだか、友子と自転車がくっついたみたいで。両方のタマシイがくっついて、こうなっちゃった」
「……おい、住所とか、学校出てこないじゃないか」
「出てきたら、どうするつもり?」
「むろん、友子の形見だから、友子の親に返さなくっちゃ」
「アハハハ……」
「なにがおかしいんだよ!」
「わたし、チョイ借りよ」
「だからさ、そういうイワクのある物なら返さなくっちゃよ……」
オレは、マジになって、パソコンの画面をスクロールした。
「あのね、反対、反対。わたしがナオキをチョイ借りしたの」
なんだって……。