大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

やくもあやかし物語・159『びしょ濡れプンプン丸』

2022-10-18 14:46:22 | ライトノベルセレクト

やく物語

159『びしょ濡れプンプン丸 

 

 

 おまえは誰だ!

 

 びしょ濡れが赤い口を開いて怒鳴った。「誰だ!」と言うのだから、わたしのことを聞いているんだろうけど、勢いが強いので疑問というよりは攻撃だ。

「あ、あなたこそ誰よ!」

 むかしのわたしだったら、ワタワタして「あ、え、えと……(;'∀')」ということになるんだけど、少しはあやかし慣れしてきて、ちょっぴりだけど度胸も付いた。

 だから、ノッケにかましておく。

 体一つでやってきたんじゃなくて、とりあえず、机と椅子はわたしのだしね。

「ここは船長室だ、ひとの船長室に居るお前は密航者だ、密航者は、簀巻きにして海に放り込むのが海の掟だ!」

「え、海に放り込む( ゚Д゚)!」

 ドスン

 わたしの度胸はいっしゅんで崩れてしまった。

 衝撃がリアルだと思ったら、机は座卓ほどの、椅子は座椅子の低さに縮んでしまった。

「ああ、事と次第によってはな(;`O´)o」

 びしょ濡れのくせに、めちゃくちゃ怖い。びしょ濡れプンプン丸だ!

「えと、自分の部屋に戻ったら、机の上にミカンがあって『あ、ミカンだ』と思ったら、ここに来てた」

 手にしたミカンを、ズイっと突き出す。

「ミカンは、あるのが当たり前、この船はミカン船だ。てめえ、積み荷のミカンを勝手に食ったなあ」

「ち、ちがうちがう! この机だって……え、わたしのじゃない?」

 わたしのも木の机だけど、材質も色も違う。樫の木かなんかで、黒光りするごっつい木でできている。

「見え透いた言い訳しやがって」

「え、あ、あ……」

 チリリリン チリリリン

「ウワ!?」

 黒電話が鳴って、びしょ濡れプンプン丸はビックリして、ピョンと後ろに跳んだ。

 揺れる船の中なのに、跳んでもふらつかないのに感心。

 わたしは、ちょっと安心した。

 机も椅子も変わっているけど、黒電話だけは付いて来てくれたみたい。

 チリリリン チリリリン

「そ、その黒いのはなんだ! なんでリンリン鳴ってるんだ!?」

 チリリリン チリリリン

「えと、電話だから……出てもいい?」

 チリリリン チリリリン

「と、とにかく、その音を停めろ!」

 チリリリン チリリリン

「うん、分かった……もしもし」

『船長さんに替わってもらえますか』

 交換手さんが言うので、受話器を突き出す。

「替わってって」

「こ、これをか?」

「取らなきゃ、話ができない」

「お、おう……」

「あ、逆さま」

「逆さ……お、おお!?」

 正しく持つと交換手さんの声がしたようで、ビックリしている。

 ……交換手さんは、なにかうまいこと言ってくれているようで、びしょ濡れプンプン丸は目に見えて神妙になって、ふつうのびしょ濡れになった。

「は、はい、承知いたしました。そういうことであれば、きちんとお祀りいたします、は、は、はい、替わります!」

 びしょ濡れは、うやうやしく両手で受話器を捧げ持つと、わたしに手渡した。

「もしもし」

『みかんの神さまということにしました。やくもを大切に扱えば、無事に積み荷を届けられると言っておきましたので、大丈夫ですよ(^▽^)』

「みかんの神さま!?」

『そっちに行くわけにはいきませんが、がんばってくださいね』

「がんばるって、わたし、戻りたいんだけど」

『手立ては考えますが、無事に着けばなんとかなりそうですよ』

「あ、えと……」

『それでは、グッドラック』

「あ、ちょ……」

 プツン…………電話は一方的にきれてしまった。

「これは、航海安全の為に遣わされたミカンの神さまとは存じませんでした。まことにご無礼いたしましたっ!」

「あ、ども。そこまで平伏されなくても(^_^;)……それで、あなたと……この船はなんなの?」

「はい、改めて名乗らせていただきます」

 畏まると、ずぶ濡れは身にまとっていたずぶ濡れを脱いだ。

 ずぶ濡れは上にまとっていた蓑一つで、その下はお祭りの法被みたいな下に細身のパンツルック。

 ちょっとカッコいい女の子。 

「わたくし、紀伊国屋ブンコと申す若輩者でございまして……」

「紀伊国屋文庫?」

 頭の中にお馴染みのラノベ文庫のいくつかが点滅する。

 ☆角川……☆電撃……☆講談社……☆スニーカー……☆オレンジ……☆GA……

 

 ラノベの読み過ぎで、とうとう文庫のあやかしが出てきてしまった!?

 

☆ 主な登場人物

  • やくも       一丁目に越してきて三丁目の学校に通う中学二年生
  • お母さん      やくもとは血の繋がりは無い 陽子
  • お爺ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い 昭介
  • お婆ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い
  • 教頭先生
  • 小出先生      図書部の先生
  • 杉野君        図書委員仲間 やくものことが好き
  • 小桜さん       図書委員仲間
  • あやかしたち    交換手さん メイドお化け ペコリお化け えりかちゃん 四毛猫 愛さん(愛の銅像) 染井さん(校門脇の桜) お守り石 光ファイバーのお化け 土の道のお化け 満開梅 春一番お化け 二丁目断層 親子(チカコ) 俊徳丸 鬼の孫の手 六条の御息所 里見八犬伝 滝夜叉姫 将門 アカアオメイド アキバ子 青龍 メイド王 伏姫(里見伏)

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