大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

ポナの季節・24『ミス世田谷女学院コンテスト③』

2020-09-04 06:25:13 | 小説6

・24
『ミス世田谷女学院コンテスト③』
         


 ポナ:みそっかすの英訳 (Person Of No Account )の頭文字をとった新子が自分で付けたあだ名


 ポチが死んで四日しかたたないが、初七日をやることになった。

 大ニイの船がドック入りして休みが大ネエの非番の日と重なって、みんなが集まれることが大きな理由の一つ。
 もう一つは、一番堪えているポナを間接的に慰めることであった。ポチが死んだ日こそ泣きくれていたが、その後はポナが健気に元気そうに取り繕っていることは肉親であるからこそ、よく分かっていた。いつものポナなら断るだろう『世田谷女学院ミスコン』にも喜んで参加したことでも察せられた。

 初七日といっても、別に坊主が来るわけではない。ピザの大きいのを三つばかりとって、パソコンに取り込んであるポチの写真や動画のあれこれを観て、家族みんなでポチを偲ぶのである。

 ポナがポチと同じくらいの大きさになったとき、ポチが正面からポナにじゃれついて、ポナが後ろにずっこけ、そのはずみで、ちょうど柔道の巴投げのようになり、背中から落ちたポチが「キャンキャン!」それ以来、同い年ではあるが、ポチはポナの格下と決定。そのシーンをエンドレスに編集されていたので、みんなで笑い転げていた。

 笑い死にそうになってきたところで、由紀から電話がかかってきた。

「なに、大事な話って?」

 由紀は、近所の公園まで来てくれていた。ポナは、まだ笑いの余韻の残った顔をしていた、由紀は、いつになく真剣だったが、たった今笑い転げてきたので、ポナは気づかなかった。

「ポナ、ミスコン出るのやめよう」

「え?」

「いや、だから……考えたんだけど、ポナにミスコンなんて似合わないよ」

「え、なにそれ?」

「ポナの魅力って、えと、その……ミテクレとかルックスじゃなくて、内から滲み出てくるようなものでさ。それって、とても自然な魅力で、ミスコンとか出たら意識的になって、なんというかわざとらしくなって、ポナの魅力を損ねると思うんだよね」

「なに……その取ってつけたような理由……」

「いや、その……ポナは大事な親友だから」

「ポナってお調子者だから、ミスコン用の表情とか振舞いとかやり出したら、えと、その、染みついちゃって取れなくなっちゃうてか、ポナの自然な魅力を損ないことになるんじゃないかって思うのよ。うん、ミスコンに出ろって、わたしの勇み足だった。ま、そういうことだから、ミスコンのエントリーは取り下げておくね。用事はそれだけ、それだけだから、じゃね!」

「待って」

「え?」

「嘘言わないでよ」

「嘘じゃないよ、友だちとして真剣に考えてさ、自分の思い付きだけでポナを振り回しちゃいけないって」

「嘘よ、だって、いつもと喋り方ぜんぜん違うもの。政治家の選挙演説みたいに張り付いたみたいな笑顔だし、目線逃げるし、嘘言ってますってサインでいっぱいだぞ」

「それは……う、う、う……」

「なんで泣くのよ?」

「泣いてなんかない……」

「ほんとのこと言って!」

「ポナ……」

「なに聞いても驚かないから。親友と思うなら、ハッキリ言って」

「ポナ……」

「うん」
「実は……………………」

「なに?」

「このポスター……」
「うわー、きれいに出来たじゃん!」
「うん、我ながら会心の作。お父さんも言ってた上出来だって……お父さん、人類学者で骨柄とか人相見るのは警察の鑑識以上」
「そのお父さんが誉めてくれたんだ。あたしも自信持っていいかなあ!」
「ここから大事な話し、しっかり聞いて?」
「うん、どこかのプロダクションがスカウトに来たとか!?」
「そんなんじゃない!」
「……だから、なによ?」

「ポナ、ポナと家族には血縁関係が無い。戸籍謄本には養女になってると思う」
「……なに……それ?」
「お姉さんやお母さんの写真と比べたら一発で分かるって、お父さんが……」
「お父さんが……」
「お父さん人類学者、それが一発で断言した……友だちなら、しっかり考えて対応してあげなさいって、だから、あたし……」

「………………!」

 ポナは無言のまま由紀の手を掴み、そのまま自分の家に連れて行った。

「この子親友の橋本由紀。大事な話だから、みんなにも聞いてもらいたい」
「…………」
 由紀は、ポナの家族全員を前にして、言葉が出てこなかった。
「これ、ミスコンのポスター。あたしの他にお母さんやお姉ちゃんの写真も載ってる。由紀のお父さんは人類学者。で、そのお父さんが断言した、あたしは家族の誰とも血縁関係が無いって……どういうことよ、これは!?」

 由紀が泣きだし、家族は硬い表情で無言になった。

「新子、あたしが話してあげる。着いてきな!」

 今度はチイネエに引っ張られてポナが公園に行くハメになった……。



父     寺沢達孝(59歳)   定年間近の高校教師
母     寺沢豊子(49歳)   父の元教え子。五人の子どもを、しっかり育てた、しっかり母さん
長男    寺沢達幸(30歳)   海上自衛隊 一等海尉
次男    寺沢孝史(28歳)   元警察官、今は胡散臭い商社員だったが、乃木坂の講師になる。
長女    寺沢優奈(26歳)   横浜中央署の女性警官
次女    寺沢優里(19歳)   城南大学社会学部二年生。身長・3サイズがポナといっしょ
三女    寺沢新子(15歳)   世田谷女学院一年生。一人歳の離れたミソッカス。自称ポナ(Person Of No Account )
ポチ    寺沢家の飼い犬、ポナと同い年。

高畑みなみ ポナの小学校からの親友(乃木坂学院高校)
支倉奈菜  ポナが世田谷女学院に入ってからの友だち。良くも悪くも一人っ子
橋本由紀  ポナのクラスメート、元気な生徒会副会長


コメント    この記事についてブログを書く
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« かの世界この世界:61『草... | トップ | せやさかい・167『松任谷... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

小説6」カテゴリの最新記事