大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

やくもあやかし物語・160『千両みかん』

2022-10-28 11:16:50 | ライトノベルセレクト

やく物語

160『千両みかん 

 

 

「いえ、文章の文に子どもの子と書いて文子でございます」

「あ、ああ文子さん! あ、ごめんなさい」

「少々珍しい読み方をいたしますので、お間違いになってもしかたありません。両親は町人の娘らしく文と書いて『あや』と付けたのでございますが……」

「あ、あやちゃん、おあやさん、うんうん、普通だよね(^_^;)」

「文左衛門、祖父なのですが。あ、わたしの文は祖父の文左衛門の『文』からきているのですが『文だけではいかにも軽々しい、文の下に一字を付けて堂々とするべきだ』と申しまして『文子』とついた次第でございます」

 なるほど……文左衛門というお祖父ちゃんも、なかなか押し出しの強い人のようだ。

「親は、せめて『あやこ』と柔らかく読ませようとしたのですが『それでは天子様のお姫様のようだ』と反対してブンコと読むようになりました」

 あ、そういえば、うちの居候も親子と書いてチカコだったもんね、チカコどうしてるんだろう……

「しかし、ブンコで良かったと思います」

「そう?」

「はい、紀伊国屋文左衛門の文を頂いたからこそ、このようにミカンの神さまに御守護頂けているのです! 無事に江戸につきますまで、どうぞよろしくお守りいただけますよう、紀伊国屋文子、伏してお願い申し上げます~」

「は、はひ(^△^;)」

 

 ブンコおおお! 風が止んできたあああ!

 

 甲板の方から声がして、文子さんは「ほんとかあ!?」と声を上げて船室を出て行った。わたしも、なんとかバランスをとりながら揺れる船室を出て甲板に出ると、進行方向の雲が切れ始め、みるみる風が収まってきた。

「よーし、帆を上げろ! 今度は風の災いを福に変えて、一気に江戸を目指すぞ!」

「「「「合点!」」」」

 ふんどし一丁のおじさんたちが、いっせいにキビキビ動き出して、あっと言う間に〇の中に紀と染め上げた帆を張って、船はグングンと速度を上げていった。

 

「これも、神さまのおかげでございます!」

 

 江戸の港で無事に積み荷のミカンを下ろすと、文子さんはじめ乗り組みのおじさんたちが平伏した。

「いえ、そんな(^_^;)。みなさんの腕が良かったから乗り切れたんです、みなさん大したものです!」

「いえいえ、これで、文左衛門祖父ちゃんの跡を継げます、ほんとうにありがとうございました!」

「アハハ、喜んでいただけたら何よりです」

「ようがしたねぇ、これで、ブンちゃん……文子さんも、やっと一人前の紀伊国屋の跡取りだ! ほんとうによかった!」

 年かさのおじさんが、涙を流して喜んでる。

「ありがとう、みんな! 血のつながらない孫だけど、やっと面目が立ったよ!」

 え、文子さん、血のつながりがなかったの?

「赤ん坊を拾われてきた時は『お寺にでも預けちまいなさい』と言っていたところを、親方は『この子には福相がある、神さまの授かりものだよ』っていって、子どものねえ若旦那夫婦の子になさった。まさに、その通りになりやした!」

「うんうん、みんなありがとう。そうだ、神さまにお礼をしなくっちゃ!」

「文子さーん、売り上げの金が届きやしたああ!」

 船べりから外を見ると、千両箱を積んだ荷車が浜についている。

「しめて五千両か! 思った以上に高値で売れたねえ、とりあえず一箱持って上がっとくれ」

「へい!」

 ドサ

 重厚な音をさせて千両箱が置かれた。

「神さま、せめてものお賽銭です。千両お受け取り下さい」

「え!? いえ、そんな!」

「きちんとお礼をしないと、祖父、文左衛門の名も汚してしまいます。どうぞお納めを」

「え、あ、だって……」

「どうぞ!」

「そ、それじゃあ、おミカンいただいていきますぅ!」

 まだ積み下ろしていないミカンを両手に一個ずつ持つと……目が覚めた。

 

 突っ伏した机の上には、夢で掴んだミカンが二つ載っていたよ。 

 

☆ 主な登場人物

  • やくも       一丁目に越してきて三丁目の学校に通う中学二年生
  • お母さん      やくもとは血の繋がりは無い 陽子
  • お爺ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い 昭介
  • お婆ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い
  • 教頭先生
  • 小出先生      図書部の先生
  • 杉野君        図書委員仲間 やくものことが好き
  • 小桜さん       図書委員仲間
  • あやかしたち    交換手さん メイドお化け ペコリお化け えりかちゃん 四毛猫 愛さん(愛の銅像) 染井さん(校門脇の桜) お守り石 光ファイバーのお化け 土の道のお化け 満開梅 春一番お化け 二丁目断層 親子(チカコ) 俊徳丸 鬼の孫の手 六条の御息所 里見八犬伝 滝夜叉姫 将門 アカアオメイド アキバ子 青龍 メイド王 伏姫(里見伏)

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