泣いてもω(オメガ) 笑ってもΣ(シグマ)
やっぱり一年生は子どもだ。
マッジさんが弁当を届けに来て以来、小菊は大人気だ。
昨日は学校帰り、暇な生徒たちに追いかけられていた。
小菊はパート帰りのお袋と出くわし、助けを求めたら、今度は「キャー、小菊と雄一を生んだ奇跡の母よ!」と、お袋が追いかけられるハメになった。
「あーおもしろかった!」
お袋は、娘と一緒にご町内の裏や表を逃げ回り、四十数年ぶりの鬼ごっこに息を弾ませて帰って来た。
俺は遠巻きに視線は感じるが、パパラッチ化した生徒に追いかけ回されることは、ほとんどなかった。
「三年生が落ち着いているというよりも、お前には、もう一つ華がないんだろうなあ」
いつもの学食で、スペメン(全部載せラーメン)を啜りながらノリスケが言う。
増田さんは(小菊ほどではないが)集まる視線に怯えて別の席で食ってる。
「華なんかいらねーよ、俺は普通がいいんだ」
「確かに小菊ちゃんは、押し出しのある可愛さで、クラスじゃ担任の先生も頼りにするしっかり者、その上売り出し中のラノベ作家だ」
「なんか、その言い回しは、俺には取り柄が無いと言っているように聞こえるんだけど」
「だって、普通がいいんだろ?」
「そうだけど、おまえの言い回しは微妙に違う」
「アハハ、それは俺の友情だ!」
「食いながら笑うな! ほら、チャーシューのカケラが飛ぶじゃねーか!」
「あ、すまんすまん」
ノリスケは身を乗り出したと思うと、俺のほっぺたに飛んだチャ-シューのカケラを舐めとった。
キャーーー!
隣のテーブルの陰に隠れていたパパラッチ女子が悲鳴を上げて逃げていく。
「これで、オメガを追いかけてくる奴はいなくなった」
いいんだけども、ちょっと寂しくないこともない。離れた席で俯いてしまった増田さんも可哀そうだ。
学食を出ると、校舎の二階から木田さんが手を振っているのに気付いた。
目が合うとポケットに覗いたスマホを指さした。
なるほど、人目を避けスマホでコミニケーションを計りたいらしい。
―― 相談したいことがあるので生徒会室まで来てもらえませんか? ――
―― 了解 ――
ノリスケと別れて生徒会室を目指した。
生徒会室には木田さんが一人いるきりだった。
「代議員会やってるから、昼休みは誰も居ないの。外で声かけたら、ちょっと目立つでしょ」
やっぱり、木田さんが引いてしまうほどには注目を集めているようだ。
で、気づいた。木田さん、ちょっとやつれてないか?
いつもの木田さんらしくなく、横っちょの毛が跳ねてアホ毛っぽくなっている。制服の着こなしも、どこか微妙。ブラウスの打ち合わせが右に寄ったりしている。
「寝癖直すヒマなくって……」
表情を読まれたのか、木田さんはササッと手櫛をかける。櫛とかも持ってない様子だ。
「あの……妻鹿君ちにメイドさんいるわよね?」
「え……?」
ちょっと身構えてしまう俺だった……。
☆彡 主な登場人物
- 妻鹿雄一 (オメガ) 高校三年
- 百地美子 (シグマ) 高校二年
- 妻鹿小菊 高校一年 オメガの妹
- 妻鹿幸一 祖父
- 妻鹿由紀夫 父
- 鈴木典亮 (ノリスケ) 高校三年 雄一の数少ない友だち
- 風信子 高校三年 幼なじみの神社(神楽坂鈿女神社)の娘
- 柊木小松(ひいらぎこまつ) 大学生 オメガの一歳上の従姉 松ねえ
- ミリー・ニノミヤ シグマの祖母
- マッジ・ヘプバーン ミリーさんの知り合いの娘 天性のメイド資質
- ヨッチャン(田島芳子) 雄一の担任
- 木田さん 二年の時のクラスメート(副委員長)
- 増田汐(しほ) 小菊のクラスメート
- ビバさん(和田友子) 高校二年生 ペンネーム瑠璃波美美波璃瑠 菊乃の文学上のカタキ