オフステージ(こちら空堀高校演劇部)19
ガシャン!!
部室明け渡しを宣告しに来た瀬戸内美晴を追いかけて、美晴が開けたドアに、千歳の車いすは、そのまま突っ込んだ。
生徒会室のメンバーは、とんでもないことが起こったという顔になった。
車いすの女の子が追ってくるのをシカトするだけではなく、閉めたドアで挟んでしまったのだ。ヘタをすれば車いすどころか、車いすに乗った千歳をクラッシュしかねない。はるか昭和の昔には校門の鉄の門扉に挟まれて死亡させた事件もあったのだ。
生徒会顧問の松平は、最悪のことが浮かんで青い顔になった。
「あ、あんた大丈夫か?」
「だ、大丈夫です。ちょっとびっくりして……大丈夫ですよね小山内先輩?」
「あ……ああ、車いすは大丈夫みたいやなあ、瀬戸内先輩、あんまりちゃいます!」
「なに言ってんの、車いす押してたのは小山内君でしょ。注意義務はあなたにあるのよ」
「せ、瀬戸内……」
「先生も委縮しないでください。さ、ここまで来たんだから話だけは聞いてあげるわ。あたしたちも忙しんだから要領よく言ってちょうだい」
部室明け渡しを宣告しに来た瀬戸内美晴を追いかけて、美晴が開けたドアに、千歳の車いすは、そのまま突っ込んだ。
生徒会室のメンバーは、とんでもないことが起こったという顔になった。
車いすの女の子が追ってくるのをシカトするだけではなく、閉めたドアで挟んでしまったのだ。ヘタをすれば車いすどころか、車いすに乗った千歳をクラッシュしかねない。はるか昭和の昔には校門の鉄の門扉に挟まれて死亡させた事件もあったのだ。
生徒会顧問の松平は、最悪のことが浮かんで青い顔になった。
「あ、あんた大丈夫か?」
「だ、大丈夫です。ちょっとびっくりして……大丈夫ですよね小山内先輩?」
「あ……ああ、車いすは大丈夫みたいやなあ、瀬戸内先輩、あんまりちゃいます!」
「なに言ってんの、車いす押してたのは小山内君でしょ。注意義務はあなたにあるのよ」
「せ、瀬戸内……」
「先生も委縮しないでください。さ、ここまで来たんだから話だけは聞いてあげるわ。あたしたちも忙しんだから要領よく言ってちょうだい」
「言います!」
グゥワラッ!!
挑みかかるように千歳は車いすのタイヤハンドルを回し、勢いづいて美晴の真ん前まで来てしまった。
「……わたし、やっと居場所ができたんです。4月に入学して……ずっと居場所が無くて孤独だったの、空堀高校はバリアフリーの学校だけど、ドアもエレベーターも手すりもトイレもバリアフリーだけど、心はバリアフリーじゃないわ。どこもかもよそよそしくて、わたしが入っていけるところなんか無かった。勧誘してくれるクラブはあったけど、なんだか、どこも身障者の女の子としてしか見てくれない。どこへ行ってもお客さん扱いで、仲間にはなれないの。でも演劇部は違った、こんなあたしでも普通の子、当たり前の子として接してくれるの、くれるんです……そりゃ、少しのんびりしすぎたところはあるかもしれないけど、一年中緊張した部活っていうのもどうなんでしょ……そんな演劇部が一か月足らずで部員を3倍にしたんです。で、体の不自由なあたしでも息がつける場所なんです。お願いだから部室を取り上げないでください。潰さないでください。この通り、お願いします!」
千歳は、車いすのまま頭を下げた。肩が震えて、膝にはポタポタと涙が落ちた。
「……か、考えてあげてもええんとちゃうかなあ……な、瀬戸内?」
「この局面だけとらえての発言はやめてください。演劇部には活動実態がありません、毎日部室でウダウダしてるだけです。部員の増員と活動の活性化は去年から言ってきています。沢村さんが入部したことや、その反響で、さらに1週間様子を見ました。そうよね小山内君?」
「もうちょっと様子を見てもらえませんか、1週間延ばされただけでは、実績はあげられへん」
「間違えないでね、わたしは実態って言ったの、実態。基礎練習をするでもなく、脚本を読むでもなく、ただウダウダしてるだけじゃないの」
「そんなことはありません。どないしたらええか考えてるし、台本かて読んでる、さっきも千歳はチェ-ホフの短編読んでたし」
「フフ、中に挟んでたのはワンピースの第9巻だったけど、小山内君のスマホは演劇とは関係ないサイトだったし。知ってるのよ、小山内君1人の時は、パソコンで……」
「ウ……………」
「特殊なゲームばっかりやってるのよね」
「特殊なゲーム?」
顧問の松平がひっかかり、他の役員たちも(?)な顔をし、啓介は「ウ」と唸ってしまった。
「それに、もう次に入るクラブも決まってるの、ボランティア部が十分な実績を挙げながら部室が無いんで、来月には入ってもらうの。もう手続きも進んでいるわ。書類を」
美晴は、啓介がたじろいだところでトドメを刺しに来た。
「これです、瀬戸内さん」
書記の女の子がプリントを見せた。
「そう、公平、公正に規則を運用した結果がこれなの。理解してね」
千歳も啓介も言葉が無かった。
「その規則が不備だったら、どーよ!?」
そう言ってドアを開けたのは、4回目の3年生をやっている松井須磨であった。
「……わたし、やっと居場所ができたんです。4月に入学して……ずっと居場所が無くて孤独だったの、空堀高校はバリアフリーの学校だけど、ドアもエレベーターも手すりもトイレもバリアフリーだけど、心はバリアフリーじゃないわ。どこもかもよそよそしくて、わたしが入っていけるところなんか無かった。勧誘してくれるクラブはあったけど、なんだか、どこも身障者の女の子としてしか見てくれない。どこへ行ってもお客さん扱いで、仲間にはなれないの。でも演劇部は違った、こんなあたしでも普通の子、当たり前の子として接してくれるの、くれるんです……そりゃ、少しのんびりしすぎたところはあるかもしれないけど、一年中緊張した部活っていうのもどうなんでしょ……そんな演劇部が一か月足らずで部員を3倍にしたんです。で、体の不自由なあたしでも息がつける場所なんです。お願いだから部室を取り上げないでください。潰さないでください。この通り、お願いします!」
千歳は、車いすのまま頭を下げた。肩が震えて、膝にはポタポタと涙が落ちた。
「……か、考えてあげてもええんとちゃうかなあ……な、瀬戸内?」
「この局面だけとらえての発言はやめてください。演劇部には活動実態がありません、毎日部室でウダウダしてるだけです。部員の増員と活動の活性化は去年から言ってきています。沢村さんが入部したことや、その反響で、さらに1週間様子を見ました。そうよね小山内君?」
「もうちょっと様子を見てもらえませんか、1週間延ばされただけでは、実績はあげられへん」
「間違えないでね、わたしは実態って言ったの、実態。基礎練習をするでもなく、脚本を読むでもなく、ただウダウダしてるだけじゃないの」
「そんなことはありません。どないしたらええか考えてるし、台本かて読んでる、さっきも千歳はチェ-ホフの短編読んでたし」
「フフ、中に挟んでたのはワンピースの第9巻だったけど、小山内君のスマホは演劇とは関係ないサイトだったし。知ってるのよ、小山内君1人の時は、パソコンで……」
「ウ……………」
「特殊なゲームばっかりやってるのよね」
「特殊なゲーム?」
顧問の松平がひっかかり、他の役員たちも(?)な顔をし、啓介は「ウ」と唸ってしまった。
「それに、もう次に入るクラブも決まってるの、ボランティア部が十分な実績を挙げながら部室が無いんで、来月には入ってもらうの。もう手続きも進んでいるわ。書類を」
美晴は、啓介がたじろいだところでトドメを刺しに来た。
「これです、瀬戸内さん」
書記の女の子がプリントを見せた。
「そう、公平、公正に規則を運用した結果がこれなの。理解してね」
千歳も啓介も言葉が無かった。
「その規則が不備だったら、どーよ!?」
そう言ってドアを開けたのは、4回目の3年生をやっている松井須磨であった。