大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・『はるか 真田山学院高校演劇部物語・86』

2019-08-04 06:09:04 | はるか 真田山学院高校演劇部物語

はるか 真田山学院高校演劇部物語・86
『第八章 はるかの決意9』 

 その夜遅くに、正確には日付が変わってから、マサカドさんがやってきた。

――最優秀賞おめでとう。
「マサカドさん」
――わたしも、客席で観ていたわ。
「昼間でも出てこられるようになったの?」
――さすがに、このままの姿では無理だけど、適当に化けてね。
「何に化けたの?」
――ないしょ。客席にいても、だれも気にとめない姿よ。
「あ、お礼言っとかなきゃ。あなたのお陰で、三日でこなせたわ」
――ああ、あの課題ね。
「細川って先生が意地悪でね……」
――フフ、でも、わたしは楽しかった。あんなふうに鉛筆持って字が書けたんだもの。英語はちょっと厳しかったけど、英文を写すだけだったから、すぐに慣れて楽しくなっちゃった。はるかちゃんもがんばったのよ、半分ははるかちゃん自分でやっちゃったんだから。わたし、楽しみだったのに、ちょっと残念。
「ほんと……全部わたしの字だったから、分からなかった。」
――五歳のころからいっしょにいたから、はるかちゃんのやることは身に付いちゃった。
「そうなんだ……一つお願いしていいかなあ」
――なあに?
「空襲の時の感じって、教えてもらえないかなあ。大橋先生から実感が無いっていわれてるの」
――それは……勘弁してくれない。
「え……どうして?」
――だって、それってね……。

 その時、たくさんの飛行機が飛んでくる気配……だんだん近づいてくる。
 サイレンなんかも鳴っている。たくさんの人たちが逃げまどう声……。
 マサカドさんが、小刻みに震えながら立ちすくんでいる。
 ヒュー、ヒューと、何かがたくさん空から落ちてくる音。

「マサカドさん!」

 わたしは、思わずマサカドさんを抱きしめた……。
 わたし自身も、おっかなくなってしがみついた……。
――大丈夫、あの音は遠くに落ちる音だから。至近弾は汽車みたいな音がするから。
 そう言いながら、マサカドさんの震えは、さらにひどくなってきた。
「マサカドさん……!」
――はるかちゃん……くるよ、くるよ! 次のはくるよ!

 マサカドさんの手に力が入り、わたしの身体を締めつけるくらいになってきた。そのとき……。
 シュー、ゴゴゴーっと、機関車が空から降って来るような音!

 お母さーん!! 二人は同時に叫んだ。

「はるか、どうしたの!?」
 お母さんがとび起きてきた……。

……あれは、現実だった。

 わたしが、あんなことを頼んだものだから、マサカドさんは思い出してしまったんだ。
 自分が死ぬ直前のありさまを……。

「だいじょうぶ、はるか……」
 わたしの震えは、しばらく止まらなかった。
 そして、マサカドさんの姿は、あの阿鼻叫喚とともに消えていた。

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