ライトノベルベスト・エタニティー症候群・5
[われ奇襲に成功せり!]
文化祭は大成功だった。
麗の学校は、地域との連携を取るために、文化祭の参観は、ほぼ自由だった。
なんと、たった一日の文化祭に一万人を超える参観者が来た。その半分近くが演劇部茶道部合同のパフォーマンス目当てだった。
YouTubeで流した毎日のメイキング映像が、予想以上に人を集めたのだ。
本番までのアクセスは二万件に達した。麗は裏方のことにも詳しく、特に照明と音響が命であることを承知していたので、衣装を貸してくれた大学に掛け合い、オペレーターの人員付きで機材を貸してもらった。学生たちは演劇科の舞台技術の学生たちで、いい練習になるということで、セッティングの企画からオペまで任せることを条件にロハでやってもらった。
前日のリハで、手伝いにきていた演技コースの学生が「面白そうだからMCやらせて!」ということで急きょ、ほとんど専門家と言っていい学生たちが、ディレクターとMCを引き受けてくれることに。
そして、勢いとは恐ろしいもので、軽音とダンス部が羨ましがり、三つの出し物が一つのイベントのようになった。そのリハの日のメイキング映像は、これも面白がって付いてきた放送学科の学生たちが、本格的なカメラで撮り、本格的に編集してその場でYouTubeにアップロードされ、一晩だけでアクセスが二千件ほどになり、通算一万件のアクセスになり、その半分近くが動員人数になった。
他の生徒たちは、自分たちの準備に忙しく、YouTubeなど見ている間が無く、これだけ盛況になるとは思ってもみなかった。なんせ、麗は以外は、当の演劇部自身も予想していなかった。
戦争なら、敵は一番弱いところを全力で叩きにくる。イベントなら新鮮な面白さが感じられるところの人は集まる。麗は戦争と同じだと思っていた。
「あたしたち朝一の出番でいいわよ」
「ええ、麗ちゃん、朝一なんてお客ほとんどいないわよ」
麗の申し入れにスケジュールの調整に苦労していた生徒会は喜び、宮里部長は不服そうだった。
「大丈夫だって、その代りお客が多くて、アンコールとかかかったら、空いた時間にやらせてくれる?」
「ああ、いいよ」
生徒会長は、あり得ない話だろうとタカをくくってOKを出した。
で、結果的には、その麗の予想をさえ超える観客が、朝から集まった。
「申し訳ありません、昼休み前に、もう一度やりますので、それまで他の企画をお楽しみください」
と、生徒会長は答えざるを得なかった。
「じゃ、それまで模擬店でも回るか」
と、大半のお客はたこ焼きやら、ウインナーなどの模擬店回りをやった。そのために食材が無くなり、模擬店はどこも昼前には店じまいの状態。喜んだのは学校周辺のお店だった。コンビニやファミレス、蕎麦屋などにお客が流れ始め、地域経済の振興にも一役買った。
そして、噂は噂を呼び、昼前の第二回公演では、立ち見も含めて900人、それでもあぶれる人たちが出た。
餅屋は餅屋という言葉がある。
「いっそ、野外でやろう!」
大学生が張りきった。昼休みのうちに、校舎とグラウンドの間の段差をステージにしてしまい、あっという間に照明とPAの機材のセッティングを終えた。お客は、そのセッティングさえ珍しく、かつ面白いので、20分押した準備も気にはならなかった。
観客はグラウンドの半分を占め、軽音・ダンス部・演劇部茶道部の合同チームは、MCの進行も良く。
「どう、いっそみんな一緒にやっちゃわない!」
その提案に観客も大喜び。『会いたかった』『ヘビロテ』『フォーチュンクッキー』そして『お別れだけどさよならじゃない』は、最後は観客も交わり、大盛況のライブイベントになってしまった。
「奇襲大成功ってとこかな」
麗は、そう呟いたが誰も気づかなかった。ただ急きょグラウンドでやったので、その騒音は近隣に鳴り響いた。終了後、すぐにご近所にお詫びの戸別訪問をしなくちゃ。そう思った麗は道連れになる校長先生のバーコードが憐れに思えてくるのだった……。
※ エタニティー症候群:肉体は滅んでも、ごくまれに脳神経活動だけが残り、様々な姿に実体化して生き続けること。その実体は超常的な力を持つが、歳をとることができないため、おおよそ十年で全ての人間関係を捨て別人として生きていかなければならない。この症候群の歳古びた者を、人は時に「神」と呼ぶ。