大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

勇者乙の天路歴程 013『三途の川・2・賽の河原』

2024-04-09 12:09:10 | 自己紹介
勇者路歴程

013『三途の川・2・賽の河原』 
 ※:勇者レベル3・半歩踏み出した勇者



 森の中を三途の川に沿って進む。

 もはや糺の森ではない。糺の森は京都盆地の原始の森のように見えているが人の手が入っている。倒木や繁茂しすぎた下草や外来種は刈られて処分され、病んだ木々には治療も行われている。
 ところが、この『糺の森』は生のままの森で、獣道はおろか、地面が見えているところさえ稀だ。
 その稀な地面を拾い、露出した木々の根っこや岩、低い枝に飛び移りしながら進んで行く。時にはオリハルコンの剣で道を啓開し、なんだか、ガダルカナルのジャングルをいく一木支隊のようだ。

「縁起でもないことを思い浮かべるな」

「そうだな、一木支隊は全滅したんだった(;'∀')」

 頭を切り替えて啓開と前進に専念する。

 と、今度は目は慣れてきたはずなのに木々も草も蔦も黒いシルエットになって、森の外の景色が際立って見えてくる。

 これは……黒澤明の『羅生門』だ。

 薮の中で目が覚めた男は、薮の外、夫の目の前で女房が盗賊に犯されるところを目撃してしまう。その衝撃的な光景を際立たせるために、黒沢はカメラのアングルに入る草のことごとくを黒く塗らせた。

 あの感じだ。

 薮の外、枝にに衣服がいっぱいぶら下がった木が目に入った。

 木の根方には老婆がいて、やってくる亡者たちに裸になるように命じている。

「あれは奪衣婆(だつえば)だ」

「ああ、三途の川を渡る前に亡者の衣服をはぎ取る……」

「そうだ、罪の重い者の衣服は、たとえTシャツ一枚でも大きく枝が撓ると言われている」

「あ、あのオバハン……」

 それは、先日亡くなった〇〇党の女性議員だ。薄物のワンピースを着ていたが、奪衣婆が剝ぎ取って枝に掛けると、ギリギリギリと音をさせて折れそうなくらいに枝がしなった。

 ワハハハハ(´∀`*)(* ´艸`)(*`艸´)(〃▭〃)

 後続の亡者たちが笑う。

「え?」

 亡者たちは、なぜか女性ばかりだ、それも後ろに行くほど若くてきれいな者が続く。

「行くぞ、あれは、中村。貴様の願望が作り出した幻影だ(-_-;)」

「そ、そうなのか(#'∀'#)」

「振り返るんじゃない、いくぞ!」

「おお(;'▢')」


 しばらく行くと、今度は小さな石積みがチラホラ見えるようになってきた。


「あれが何か分かるか?」

「……賽の河原か」

 ビクニが立ち止まると、半透明で存在感の薄い子どもたちが石積みの傍に現れ、黙々と小石を拾っては、それぞれの石積みに載せていく。

 上は十二三歳、下はやっとお座りができたかというくらいの幼子までがノロノロと石を積んでいる。

 田舎寺の坊主だった叔父が言っていた。

 幼くして死んだ子供たちは、この賽の河原で永遠に石を積む。「一つ積んでは父のためぇ……二つ積んでは母のためぇ……」と祈りとも怨みともつかない呟きを繰り返しながら。
 やがて、身の丈ほどに積み終わると、どこからともなく鬼が現れて、せっかく積んだ石積みを突き崩していく。
 子どもたちは、ため息一つつくと再び石を積み始め、それが永遠に続くという。

「よく見ろ、実際はちがう」

「え?」

 よく見ると、鬼は一匹も現れない。

「鬼にも都合がある、しょっちゅうは現れない。もっとよく見ろ」

「あ……」

 気が付いた。

 崩れていくものもあったが、多くの石積みは下の方から地面に沈んでいく。

 子どもによって沈み方が違う。積んだ尻から沈んでいくもの、目の高さで沈み始めるもの、いろいろだ。いろいろだが、全て徒労だという点だけは同じ。

 叔父の話では、賽の河原には地蔵が居て、そういう子どもたちを救ってくれるということだった。

 町や村の辻にはお地蔵が立っている。お地蔵に祈ると、その祈りがいつか届いて、幼くして亡くなった子供たちは再びこの世に生まれ変われるという。

 だが、森と河原の際まで進んで左右を見渡しても、地蔵めいたものは見当たらない。

「この子たちが積んでいるのは希望(のぞみ)だ」

「希望?」

「大きくなったら、あれがしたいこれがしたいという希望だ」

「しかし、あの子らは死んでしまった子たちだろ」

「死人が夢を見て悪いというのか?」

「あ、いや……」

「ああやって、叶わなかった夢を積み重ねているんだ」

「オーブのように光っているだけのは何だい? あれの前にも石がつんであるけど」

「生まれる前に命の終わった子たちだ」

「胎児が夢を持つのか?」

「胎児というものはへその緒で母親と繋がっている。母親が見聞きしたもの夢に見たことを全部知っている。母親の腹を通して外の様子も窺っている。そして希望を持つんだ、いくつもいくつも。生まれ落ちたら、その全ては意識の底に秘めてしまうがな」

「そうなのか……」

 そうやって河原を見渡していると、一つのオーブが震えるように光った。

 オーブは震えながらいびつなドーナツのような穴が開いて、穴が言葉を発した。

 
 ……お……おにいちゃん。



☆彡 主な登場人物 
  • 中村 一郎      71歳の老教師 天路歴程の勇者
  • 高御産巣日神      タカムスビノカミ いろいろやり残しのある神さま
  • 八百比丘尼      タカムスビノカミに身を寄せている半妖
  • 原田 光子       中村の教え子で、定年前の校長
  • 末吉 大輔       二代目学食のオヤジ
  • 静岡 あやね      なんとか仮進級した女生徒
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ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第134話《髑髏ものがたり・6》

2024-04-09 06:44:13 | 小説7
ここ世田谷豪徳寺 (三訂版)

第134話《髑髏ものがたり・6》さつき 






 そうニイは、休暇の大半を髑髏の調査にあててくれた。


 旧陸軍第79連隊の阿部忠中尉であること、当時の住所、複顔したCG画像、DNAの鑑定結果までついていた。

「できたら、オレの手でご遺族を特定して、お返しできたらと思うんだけど。もう明日は出港だ、あとはさつきに頼めるか?」

「うん、ありがとう。あとはあたしの手でやるわ」

 あたしは、その足でバイト先の雑誌社に行った。編集長はじめご一同が喜んでくれて、中井さんという記者が担当して特集記事をくむことになった。

「これは良い記事になるよ。戦時中の悪いことは、みんな日本のせいみたいに言われてきたからね、日本人もこんな目に遭ってきたという証明になる。ちょっとキャンペーンを張ろう」

 あたしも同感だった。従軍慰安婦や南京のことで日本は言われっぱなしだ。日本の汚名を晴らす反証としてもやるべきだと思った。

 中井さんは、当時の住所から遺族を割り出そうと、横浜の〇区の区役所まで電話で訊ねてくれたけど、〇区は戦時中の爆撃で全域が焼失、そこから割り出すのは不可能だった。


 中井さんは、なんと、その日のうちに記者会見を開いた。


「……えーと言うわけで、この旧陸軍第79連隊の阿部中尉のご遺族を探すとともに、阿部中尉を始めとする日本人将兵が受けた仕打ちを世に問い、戦争の残虐さと平和の意味を問いたいと思います」

 そして、阿部中尉に関する資料の写しが新聞社や放送局の記者に渡された。ケイサン新聞を始め、慰安婦問題では味噌をつけた日日新聞まで、こぞってこのニュースに飛びついた。

 その夜、夢に桜子さん(ひい祖母ちゃん)が現れた。

「さつき、この三日間ほど、本当にありがとう。お蔭で、あの兵隊さんが阿部中尉さんだってことも分かったわ、これでご遺族が分かって、先祖代々のお墓に入れれば、全て丸く収まると思うの。さくらといっしょに歌も歌えるし、阿部中尉さんのお役にも立てる。死んで、こんなに望みが叶って、人のお役に立つとは思わなかった。ほんとうにありがとう」

 桜子さんの手が伸びてきて握手した。小さな手だったけど、ほんのりとした温かさが愛おしかった。

「桜子さん、恵庭さんが言ってたけど、もう一つ望みがあるって……?」

「それはまだまだいいの。中尉さんのことが決着して、全てが済んでからでいいわ。あ、中尉さんが……」

 ベランダのサッシのところに、阿部中尉が立っていた。今日は鉄兜もとって空白だった顔も分かった。阿部寛の若いころによく似たイケメン。

 そのイケメン中尉さんが、サッシをすり抜けると、戸惑ったような顔で桜子さんの後ろに立った……。



☆彡 主な登場人物
  • 佐倉  さくら       帝都女学院高校1年生
  • 佐倉  さつき       さくらの姉
  • 佐倉  惣次郎       さくらの父
  • 佐倉  由紀子       さくらの母 ペンネーム釈迦堂一葉(しゃかどういちは)
  • 佐倉  惣一        さくらとさつきの兄 海上自衛隊員
  • 佐久間 まくさ       さくらのクラスメート
  • 山口  えりな       さくらのクラスメート バレー部のセッター
  • 米井  由美        さくらのクラスメート 委員長
  • 白石  優奈        帝都の同学年生 自分を八百比丘尼の生まれ変わりだと思っている
  • 原   鈴奈        帝都の二年生 おもいろタンポポのメンバー
  • 坂東 はるか        さくらの先輩女優
  • 氷室  聡子        さつきのバイト仲間の女子高生 サトちゃん
  • 秋元            さつきのバイト仲間
  • 四ノ宮 忠八        道路工事のガードマン
  • 四ノ宮 篤子        忠八の妹
  • 明菜            惣一の女友達
  • 香取            北町警察の巡査
  • クロウド          Claude Leotard  陸自隊員 
  • 孫大人(孫文章)      忠八の祖父の友人 孫家とは日清戦争の頃からの付き合い
  • 孫文桜           孫大人の孫娘、日ごろはサクラと呼ばれる
  • 周恩華           謎の留学生
 
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