大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

鳴かぬなら 信長転生記 175『検品長の判断』

2024-04-10 17:59:29 | ノベル2
ら 信長転生記
175『検品長の判断』検品長 




「やっぱり辞めるのかぁ?」

 最後の帳面を閉じながら、残念そうに頭を掻く親方。

「ああ、どうせなら家族そろって快気祝いをやってやりたくてな」

「そうか、一家の主としてはそうだよな。まあ、最初から嫁さんの治療費を稼ぐためだって言ってたもんなあ」

「すまない、帳簿も検品のやり方も信栄に教えておいたから、あいつなら間違いはない」

「帳面と物の管理は品長、お前の右に出る出る奴はいないんだがなあ……」

「いやぁ、無事に仕事ができたのは親方の引き立てがあったればのことだし、なによりも曹操様が信賞必罰の労務管理をされてきたからさ」

「ちげえねえ、俺も去年まで追いはぎの頭目だった自分が信じられねえくらいだ」

「親方は先を見る目が確かなんだよ、先の見えなかった奴らは大方消えるか晒し首になってる」

「だな……じゃあ、ま、これ少ないけど餞別だ」

「いや、わたしの我がままで抜けるのに、もらえないよ」

「いやいや、ほんの気持ちだけだから。まあ、俺の善人修業だと思って受け取ってくれ」

「そうかい……そうか、じゃあ遠慮なく」

「ああ、じゃあ、縁があったら、またどこかでなあ」

「こっちこそ、ほんとうに世話になった」

 頭を下げると、飯場に戻り荷物を纏める。少し不安顔の信栄の肩をたたき、午後の仕事に出かける馴染みに声をかけながら、作事場の脇を通って工区の門を出る。

 門を出ると、近ごろ赤壁街と名前の付いた仮設店舗というかチョイマシのバラック商店街。

 先月にも増して工事関係者だけでなく、一目この大工事を観ておこうという観光客も増えてきた。

 ほう……舞台ができてる。

 商店街の中央では、いつからか自然発生的に歌ったり踊ったりする者たちが集まり始めた。客寄せにもなり、工事人足たちの慰労にもなるので、魏王も奨励し、先週は魏王賞が設けられ月間賞が出されることになった。

 舞台では、最近街に居ついた扶桑娘が切れのいいダンスパフォーマンスを披露している。

 なかなか巧いもんだ……思わず見とれる。 

 茶姫様の消息が知れないいま、慌ててここを出る必要もない。

 しかし、用心のためだ。

 先週、魏王の巡察があって、現場で納入資材の点検をしている時、巡察中の魏王と目が合ってしまった。

 魏王曹操は我が主・曹茶姫の兄であり、茶姫さまへの敵認定が無ければ主筋にあたる。

 しかし、今は怨敵。

 魏王からすれば、こちらは裏切り者、正体がバレてはただでは済まない。

 だから、かねてから「病気の妻のために働いている」ことを種に、ここを抜けることにした。

 おお!

 舞台を取り巻く観客たちからどよめきが起こる。

 扶桑娘が決めポーズでフィニッシュを決めると同時に目を押えた。

 愛すべき舞姫にトラブル!? 

 そう思って、主に男どもが声を上げたんだ。

 あ、コンタクトレンズが外れたのか。

 目を庇う所作で見当がつく。一瞬、コンタクトの外れた左目が見えた。

 思いのほかの三白眼……ん……この顔?

 訝しんだ時には、すでに扶桑娘はコンタクトを装着し終わり、満面の笑顔で、観衆のオベーションに応えている。

 この娘は、洛陽や豊盃に行っても一流のダンスパフォーマーとして通用するかもしれない。

 いかん、こんなところでグズグズしてはいられない(-_-;)。

 総門を出ると堤上の街道に上下二段の晒し首の台が見える。

 工事の初期に乱暴や不正を働いた者たちの首が晒されている。

 どれもミイラ化したり、古いものは白骨化している。

 この百を超える晒し首こそが、魏王・曹操の正体を示している。

 いまは、温情デベロッパー君主の顔をしているが、いつ、その本性を現すか……確証は無い。ひょっとしたら杞憂に過ぎないかもしれないが。

 ともかくは道を急ごう、北へ二里の町に行けば、前日抜けた備忘録が待っている。

 

☆彡 主な登場人物
  • 織田 信長       本能寺の変で討ち取られて転生  ニイ(三国志での偽名)
  • 熱田 敦子(熱田大神) あっちゃん 信長担当の尾張の神さま
  • 織田 市        信長の妹  シイ(三国志での偽名)
  • 平手 美姫       信長のクラス担任
  • 武田 信玄       同級生
  • 上杉 謙信       同級生 配下に上杉四天王(直江兼続・柿崎景家・宇佐美定満・甘粕景持 )
  • 古田 織部       茶華道部の眼鏡っ子  越後屋(三国志での偽名)
  • 宮本 武蔵       孤高の剣聖
  • 二宮 忠八       市の友だち 紙飛行機の神さま
  • 雑賀 孫一       クラスメート
  • 松平 元康       クラスメート 後の徳川家康
  • リュドミラ       旧ソ連の女狙撃手 リュドミラ・ミハイロヴナ・パヴリィチェンコ  劉度(三国志での偽名)
  • 今川 義元       学院生徒会長
  • 坂本 乙女       学園生徒会長
  • 曹茶姫         魏の女将軍 部下(備忘録 検品長) 曹操・曹素の妹
  • 諸葛茶孔明       漢の軍師兼丞相
  • 大橋紅茶妃       呉の孫策妃 コウちゃん
  • 孫権          呉王孫策の弟 大橋の義弟
  • 天照大神        御山の御祭神  弟に素戔嗚  部下に思金神(オモイカネノカミ) 一言主

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ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第135話《髑髏ものがたり・7》

2024-04-10 09:40:12 | 小説7
ここ世田谷豪徳寺 (三訂版)

第135話《髑髏ものがたり・7》さつき 




 イケメン中尉さんが戸惑ったような顔して桜子さんのやや後ろに立った……ところで目が覚めた(^_^;)。


 新聞の反応は直ぐには出なかったけど、翌週、うちの雑誌が出たころから反応があった。

 反応は二種類。

 戦死者の首を切って骨格見本のようにした猟奇性と残虐性への表面的な興味。いわゆる怖いもの見たさ。

 それと戦争犯罪とまで主張するラディカルな反応。戦闘地域や時期がはっきりしているので、当時のオーストラリアの部隊や兵士まで明らかになった。

 オーストラリア政府は、当初は否定していたが、当時部隊にいた兵士が生きていて「本当だった」と証言した。この証言は証拠写真が付いていた。鍋の中で煮られる首と兵士たちの飯盒炊爨のように喜んでいる姿が生々しく写っていた。当然兵士の名前まで分かったが、すでに故人になっていた。

「父がやったこととはいえ、これは死者に対する冒涜です。たいへん残念に思います。父に代わってお詫びします」

 年老いた故人の娘さんが涙ながらに謝っていた。

「写真は、野生のノブタを煮ているところ。言いがかりだ!」

 という人もいた。

 しかし、誰かを糾弾しようとか責任とか謝罪とかは、わたしも出版社にも無かった。阿部さんからも、そういうのは感じなかった。読者やネットの反応も身元の判明を喜ぶとか、早くご供養してあげようとか穏やかなものが大半だった。


 あたしは山下公園入口前に立っている。


 阿部中尉が「山下公園に行きたい」と夢の中で言ったから。

 横断歩道を渡ったら公園なんだけど、あいにく信号は赤。

 阿部さんの部隊は横浜から外地に向かった。当時は桜木町の駅から部隊ぐるみ行進して埠頭の輸送船に乗るだけだった。途中、山下公園や港の見える丘公園も見えて、戦争が終わったらゆっくり来てみたいと思っていたんだって。

「ここはね、関東大震災の瓦礫を埋め立てて造った公園なんだよ。子供の頃から、よくここで遊んだもんだ」

 阿部中尉が言う。もう目が覚めていても姿が見える。あたしは人が見たら独り言を言っているように見えたかもしれない。

「あんまり嬉しそうなお顔には見えないんですけど、ひょっとして、あたしがやっていることって、余計なことだったですか?」

「滅相もない……さつきさんや、惣一君には感謝している」

「なんですか?」

「戦争とは異常で非情なものさ、我々も褒められたことばかりやってきたわけじゃないしね……敵の兵隊を恨む気持ちは、自分にはない。こうやって平和な横浜にやってきて、なんだか……」

「なんだか?」

「うちの中隊にあんまの上手い兵隊がいてね」

「あんま……ああ、マッサージですねぇ」

「そいつに揉んでもらうと、体中がホコホコして、ボーっとしてしまうんだ。それに似ている」

「そ、そうか、心の凝りが解れるんですね」


 信号が青に変わって横断歩道を渡る。


「ビートルズのレコードジャケットみたいだな」

「え、ビートルズ知ってるんですか!?」

「ああ、アレクの親父はビートルズファンでね、棚の上にしまい込まれていてもレコードが聞こえたし、テレビも見えたからね」

「あはは、そうなんだ(^_^;)」

「あ、今の……」

 公園に入って間もなく銅像の横を通って振り返る阿部さん。

 その銅像は、入り口からは背を向けた後姿なので、つい気づかずに通り過ぎてしまう体育座りの女の子。

 たしか……

「赤い靴履いてた女の子だ……」

「ああ……」

 正直忘れてた。

 子どもの頃に遠足で来て、先生が『校外学習のしおり』をめくって説明してくれた。

 赤い靴 穿いてた 女の子ぉ……

 阿部さんが小さな声で口ずさむ。

「妹がよく歌ってたんだ……」

「そうだったんですか」

 調査したんで分かってる、妹さんは空襲で亡くなっている。

 だから、すぐにはかける言葉が浮かんでこない。

「異人さんに連れていかれて青い目になるんだがね、それが物悲しいんだけど、そこがいいらしい」

 赤い靴の女の子にはモデルがあって、少し後日談がある。

 でも、それは、なんだか妹さんのこととも重なるようで深入りはしない。

「向こうに見えるのは氷川丸だね、アメリカ航路の豪華客船だ」

「行ってみますか!」


 あやうく「大人二枚」と言うところだった。


 二人で氷川丸に乗った。陸軍中尉さんは子供のようにデッキを走り、タラップを上り下りした。

「そうだ、タイタニックごっこをしよう!」

「タイタニックごっこ?」

「ほら、二十世紀の終わりごろに映画になったじゃないか。アレクがビデオで観ていた」

「案外ミーハーなんですね」

「ME HER? 英語かい?」

「いや、そうじゃなくて……」

 案外俗語の説明というのは難しい。

「ああ、思い出した。ミーハーのことか!」

「分かるんですか?」

「ああ、昭和の初めにはあったからね。ある事象に対して(それがメディアなどで取り上げられ)世間一般で話題になってから飛びつくことだ。ミーはみつまめのことで、ハーは林長次郎のことだ」

「林長次郎?」

「ああ、僕らの時代の二枚目スターさ。女の子が好きな、その二つをくっつけてミーハーになったんだ」

「そうなんだ」

「さあ、舳先に行こう」

「あそこ立ち入り禁止ですよ。監視カメラもあるし」

「なあに、五分ほど見えないようにすればいいんだ」

 阿部さんの言うことを信じて舳先の方へ。すると、動かないはずの氷川丸が白波を立てて、いっぱいに向かい風を受け大海原を走り始めた。あたしたちは、無邪気にタイタニックごっこをやった。

 不思議なことに、映画と同じアングルでスマホに映像が残された。

 誰にも見せない、あたしだけの宝物になった。



☆彡 主な登場人物
  • 佐倉  さくら       帝都女学院高校1年生
  • 佐倉  さつき       さくらの姉
  • 佐倉  惣次郎       さくらの父
  • 佐倉  由紀子       さくらの母 ペンネーム釈迦堂一葉(しゃかどういちは)
  • 佐倉  惣一        さくらとさつきの兄 海上自衛隊員
  • 佐久間 まくさ       さくらのクラスメート
  • 山口  えりな       さくらのクラスメート バレー部のセッター
  • 米井  由美        さくらのクラスメート 委員長
  • 白石  優奈        帝都の同学年生 自分を八百比丘尼の生まれ変わりだと思っている
  • 原   鈴奈        帝都の二年生 おもいろタンポポのメンバー
  • 坂東 はるか        さくらの先輩女優
  • 氷室  聡子        さつきのバイト仲間の女子高生 サトちゃん
  • 秋元            さつきのバイト仲間
  • 四ノ宮 忠八        道路工事のガードマン
  • 四ノ宮 篤子        忠八の妹
  • 明菜            惣一の女友達
  • 香取            北町警察の巡査
  • クロウド          Claude Leotard  陸自隊員 
  • 孫大人(孫文章)      忠八の祖父の友人 孫家とは日清戦争の頃からの付き合い
  • 孫文桜           孫大人の孫娘、日ごろはサクラと呼ばれる
  • 周恩華           謎の留学生
 
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