大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

勇者乙の天路歴程 014『三途の川・3・栞』

2024-04-17 10:13:56 | 自己紹介
勇者路歴程

014『三途の川・3・栞』 
 ※:勇者レベル3・半歩踏み出した勇者





 わたしは高校二年で留年した。


 留年を知った父は、わたしの顔も見ずにこんなことを言った。

「一郎、おまえは二人姉弟だけどなぁ、ほんとうは……」

 話の先は分かっているので口抗えした。

「姉貴の上に兄貴が居たんだろ」

 姉より一つ上の兄は七カ月の早産で、生まれ落ちて30分後には息を引き取った。30分でも生きていれば戸籍に載せたうえで葬儀をやってやらなければならない。
 大正時代からの産婆さんは、初産の母への影響と、あまり豊かではない家の事情を察して死産ということにしてくれた。
 憐れに思った祖父が、祖父は浄土真宗の坊主で、知らせを聞くと墨染めの衣でやってきて、法名をつけて、ほんの身内だけの葬式の真似事をやった。

――だから、一郎、しっかりしろ!――という説教の結びになる。

 また、兄貴を持ち出しての説教かと、神妙な顔をしながらもタカをくくった。

 ちがった。

「おまえには、三つ下に妹がいたんだ」

 え?

「うちは凛子とおまえでいっぱいいっぱいで、三人目を育てる余裕なんて無かった」

 そこまで言うと、母は、そっと俯いてしまった。

「女の子だったって、お医者さんがいっていた……」

 姉を幼くしたようなセーラー服が浮かんだ。生まれて生きていれば、中学二年になっている。

「さすがに法名ってわけにもいかねえから、母さん、密かに名前を付けた……」

 そこまで言うと、ちゃぶ台に手をついて立ち上がり、仏壇の前に座って手を合わせた。

「栞……て、名付けたんだ」

 あとは黙って手を合わせ、居たたまれなくなったわたしは家を飛び出し、その夜は友だちの家に泊めてもらった。

 それ以来、ふとしたきっかけで妹は現れるようになった。

 三つ違いなのだが、妹は、いつまで経っても十四歳のセーラー服姿だ。

 父が告げた時のイメージが固着している。

 ところが賽の河原に出現したオーブ。それが成した姿は、やっと四歳になったほどの幼い姿だった。

 視界の端、体育の監督のように佇立したビクニは一言も発しなかった。



☆彡 主な登場人物 
  • 中村 一郎      71歳の老教師 天路歴程の勇者
  • 高御産巣日神      タカムスビノカミ いろいろやり残しのある神さま
  • 八百比丘尼      タカムスビノカミに身を寄せている半妖
  • 原田 光子       中村の教え子で、定年前の校長
  • 末吉 大輔       二代目学食のオヤジ
  • 静岡 あやね      なんとか仮進級した女生徒
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REオフステージ(惣堀高校演劇部) 003・で、わたしは……

2024-04-17 07:19:17 | 小説7
REオフステージ (惣堀高校演劇部)

003・で、わたしは……                      
※ 本作は旧作『オフステージ・空堀高校演劇部』を改名改稿したものです





 生徒会副会長瀬戸内美晴は、軽く姿勢を崩すと胸元で腕を組むとブレザーに隠れた胸が強調され、ルパン三世の峰不二子のような押し出しになった。

「分かってると思うけど、クラブとして認定されるためには5人以上の部員が必要なの。5人に満たない場合は同好会に格下げ。同好会は正規の予算も執行されないし、部室を持つこともできない。生徒手帳にも書いてあるわよ」

「あ、でもさ、5人以下のクラブって他にもあるやんかぁ。部室も持ってるし」

「そうよね、だからそういうクラブ全部に申し渡してるの。演劇部が最後」

「で、でもさ、すぐに出ていけ言うのんは、ちょっと横暴なんとちゃうかなあ(^_^;)」

 啓介は負けずと腕を組んでみたが、うっかり左腕を上にしてしまったので調子が狂う。啓介は、いつもなら右腕を上にしている。

「そんな対立的に受け取らないでよ。掛けていいかしら?」

「あ、ああ、どうぞ」

 啓介は、机の向こうの椅子を示した。

「どうも」

 美晴は椅子に手を掛けると、ガラガラと押して、啓介の目の前にやってきて足を組んで座った。

「あ、えと……」

「演劇部は、もう4年も5人を割っているの。それを今まで見逃してきたんだから、寛容だとは思わない?」

「え、あ……オレが聞いたのは初めてやから」

「去年の春にも申し入れてある『部員を5人以上にしてください』って。それで知らないって言うのは、そちらの問題じゃないかしら」

「いや、でも……」

「ほら、これが申し入れをしたって記録。先代部長の中沢さんに伝えてある」

 美晴はタブレットの記録を見せた。

「中沢さんて、去年の5月に転校していったしぃ……」

「そうね、5月31日。申し入れは4月の20日だったから、十分申し次はできると思うんだけど」

「え、記録残してんのん!?」

「あたりまえでしょ。ねえ、惣堀高校って伝統校だから、形骸化した決まりや施設や組織が沢山残ってるの。そういうものを整理して、ほんとうに伸ばさなきゃならないところに力を入れるべきだと思うのよ。学校の施設も予算も限りがあるんだから……でしょ?」

 美晴は微笑みながら啓介の目を見つめた。チラリと八重歯が覗く。

「……フフ、いまわたしのこと可愛いって思ったでしょ」

「え、いや……はい」

 こういうところ、啓介にも美晴にも共通の愛嬌がある。

「うん、可愛い顔したもんね。というのは、まだ余裕があるから」

「余裕?」

「連休明けまで待つわ。生徒会としても伝統ある演劇部を同好会にはしたくないもの。がんばってね。言っとくけど幽霊部員はだめだからね。兼部していても構わないから、日常的に活動する部員を集めてね。部室の明け渡しとかは、その結果を見てということで……」

「あ、ああ」

「じゃ、わたしはこれで」

 美晴はロングの髪をなびかせて立ち上がり、形よく歩いてドアに手を掛けた。

「あの……もし集められなかったら?」

「部室明け渡し。で、わたしは……こういう顔になるの」

 振り返った美晴は八重歯を二本剥き出しにして、般若堂の看板ような顔になっていた……。


☆彡 主な登場人物
  • 小山内啓介       演劇部部長
  • 瀬戸内美春       生徒会副会長
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