大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

ジジ・ラモローゾ:032『なんだ、京都に行きたかったのか』

2020-04-27 13:56:24 | 小説5

ジジ・ラモローゾ:032

『なんだ、京都に行きたかったのか』  

 

 

 とりあえず家に居よう!

 

 ゴールデンウイークについての県知事のスピーチ。

 よその都道府県でも似たようなことを言ってる。コロナウィルスが蔓延してるから仕方がない。

 

 わたしの住民票がある東京の都知事も同じことを言ってる。都知事は毎日記者会見やってる。

 大事なことだからなんだろうけど、都知事は、ちょっと楽しそう。生き甲斐感じてますって感じ。

 洋服のセンスもいいし、メイクも髪のセットも決まってる。音楽の先生みたい。クラスのBさんが「先生、いつもきまってますねえ!」と称えた時「音楽は音が楽しいと書くの、先生は、率先して楽しい雰囲気を心がけてるのよ(^▽^)/」と答えた。

 音楽の先生は、担任を持ってないし、分掌も図書部ってとこだからと思ったけど、先生にもBさんにも言わない。

 

 総理は、ちょっと頭が重そう。呪いを掛けられて頭が石化……してるわけじゃない。

 あきらかに、二か月は散髪に行ってませんという頭。床屋さんは三密だから、うかつに散髪したら、また野党や『安倍ガー』の人たちに非難されるから? 奥さんの事でもさんざん言われてたしね……て、よく見たら、ちょっと疲れたご様子。わたしに無期停学を申し渡した時の校長先生みたい。

 

 大阪の吉村知事は、ここんとこ寝てませんという感じ。

 目の下にクマが出来て顔色も悪い。『寝ろ吉村!』ってコメントがたくさん付いてた。どこかの県知事は『寝てろ○○!』だった。『て』が入るかどうかで意味が逆になるんだね。吉村知事は新任二年目でヤンチャクラスの担任をやらされた新藤先生に似ている。

 

 さて、ネットニュースの後は、グーグルマップ。

 

 こないだは、行きたいところを探っているうちに、おづねとチカコがやってきて目的を果たせなかった。

 実はね、京都に行ってみたいんだ。

 中学の修学旅行で行き損ねた。

 それで、せめてグーグルマップのストリートビューで旅行気分を味わいたいわけさ。

 でもね、生まれついての方向音痴ってか地図オンチ。京都府までは分かるんだけど、その次のレベルが分からない。宇治とか伏見とか嵐山とか、ぜんぜんたどり着けない。

 今日は、お茶とお菓子も用意したし、ゆっくりGWの旅行を楽しむんだ。

 

『なんだ、京都に行きたかったのか』

 

 お茶に手を伸ばしたら、ペットボトルの陰からおづねが現れた……。

 

 

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オフステージ・(こちら空堀高校演劇部)・113「千歳の胸騒ぎ」

2020-04-27 06:46:21 | 小説・2

オフステージ(こちら空堀高校演劇部)
113『千歳の胸騒ぎ』
        



 主役でもないのに緊張のしまくり。

 でも、緊張していたのだと自覚したのは、家に帰ってお風呂に入ってから。


 入浴は少しだけ介助してもらう。
 脱衣も着衣も一人で出来るんだけど、やっぱり浴室でのいろいろはお姉ちゃんに介助してもらう。
 浴室にいる間は必ず介助者が居なければならないんだけど、浴槽の出入りだけ手伝ってもらう。
 浴槽に浸かっている時間が長いので、付き合っていては冬でも汗みずくになってしまうからね。
 まあ、三十分くらいは浸かっている。

 お姉ちゃんはコンビニに出かけてしまった。ATMだけの用事だから、ものの五分ほど。

 で、不覚にも居ねむってしまった。

 バシャ! ゲホ、バシャバシャ! ゲホゲホ!

 お姉ちゃんが帰ってくるのと溺れるのがいっしょだった。

 ち、千歳!!

 土足のままのお姉ちゃんに救助されて事なきを得たんだけど……

 怖かったよーーーーーー!!

 その夜は熱が出て、けっきょく二日学校を休んでしまった。
 演劇部に入ってからは休んだことが無かったので、クラブのみんなからメールが来た。
 学校を休んでメールをもらうなんて初めてだったので、お礼は一斉送信なんかじゃなくて、一人一人にお返事を打った。
 


 で、本題はここから。


 あ、忘れてた。

 その日のあれこれを机に突っ込んで気が付いた。
 クラブの書類を生徒会に提出しなければならない。文化祭で飛んでしまっていたんだ。
 必要なことは記入済みなので、すぐにでも持っていこうと思ったんだけど……。

「千歳、大丈夫だった?」「もうええんかいな?」「Are you OK?」「よかったー! 元気になって!」

 クラブのみんなが休み時間の度にやってくるので、お昼休みになってしまった。

「失礼しま~す、演劇部です、書類を持ってきました~」

 どーぞ

 入ってビックリした。
「あ、えーーと……」
 生徒会室の本部役員の顔ぶれが変わっていたのだ。
「あ、ちょっとビックリ? おとつい選挙があって執行部は入れ替わったんよ」
 ピカピカの副会長バッジを付けた二年女子がにこやかに言う。
「瀬戸内さんは?」
「あ、引退したよ。三年生やからね」

 書類を渡すと、わたしは三年生の校舎に向かった。

 いま思えばメールすれば済む話だったんだけど、その時は直接顔を見なくちゃと思った。
 瀬戸内先輩は演劇部じゃないけど、部室明け渡し問題からこっち、ほとんどお仲間のようなものだったから。
「あのう……演劇部の沢村ですけど、瀬戸内先輩いらっしゃいますでしょうか?」
「あ、休んでるわよ、おとついから」
「え、そうなんですか」

 瀬戸内先輩は、ちゃんとメールをくれていた。
 
 あれ? 先輩自身休んでて、どうしてわたしが休んでたこと知ってたんだろ?

「ああ、それはボクが伝えておいたからだよ」
 ミッキーが先輩んちにホームステイしてるのを思い出して、訊ねた返事がこれ。
「でも、そのあとスマホ繋がらなくなって、でも、明日あたり帰って来るんじゃないかなあ」
 ミリー先輩の通訳であらましは分かった。
 どうやら家の用事で親類の家に行っているらしい。

 でも、なんだか胸騒ぎのするわたしだった……。
 

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《ただいま》第五回・由香の一人語り・3

2020-04-27 06:37:02 | ノベル2

そして ただいま
 第五回・由香の一人語り・3   



 

 田中さんは、体を張って守ってくれた。

 小熊は、脚に怪我をしていた。それでも里山に降りてくるのは、人間の開発に節度がないからだ。けして異常気象だけのせいじゃない。
 助けてもらったお礼を言いに行ったとき、痛む背中を庇いつつ、半分振り向いた横顔で田中さんは呟いた。

 横顔の向こうに『○○県総合開発規制へのお願い』という陳情書が目についた。田中さんの字で、机の上に置かれていた。
 あたしの視線に気づいて田中さんが口ごもる。
「その……なんだ……自然とはうまく付き合ってください……てなもんだ」
「あの……その……うまく付き合ってください。あたしとも」
 気まずさをなんとかと思っていたのに、飛躍した言葉に、自分でもドギマギした。若いオトコなら、絶対に誤解する。田中さんも、ボキャ貧の飛躍だと笑ってくれた。
 ボキャ貧どころか、ほとんど無口な田中さんに言われては世話がない。

 でも、そのことがあってから、田中さんとの距離は、少しずつ縮んでいった。

 そして分かった。

 信じられないことに、田中さんのぶっきらぼうは生まれつきのものでは無かった。
 
 この十数年世界中をブラブラしているうちに付いてしまった新しいクセ……と言うより、生まれてこの方、日本でついたモロモロのクセ……それが抜けた、っていうか漂白された元々の本来の田中さんの姿……って、生まれつきって言うんだよね。アハハ、あたしって、ほんとボキャ貧だ。
 若い頃は、新宿の道ばたで、ギターを弾いていたり、夜っぴき人と難しい話をしたり。デモに行ったり。髪の毛も肩まで伸ばして、名前も三つも四つも使い分けて正体不明。
 その頃は、それが自分を守る術だと思っていた。
 そして、見栄と成り行きで辛い同棲なんかもして、できちゃった婚の寸前。
 これは、彼女が流産して、それこそ関係そのものも流れてしまったそうだ。互いに本名も名乗ることもなく、彼女とは、それっきり。

 この話はね、仕事連続で失敗してチョー落ち込んで、ペンションの裏に飛び出した。
 その時、薪割りをしていた田中さんが、後ろ姿のまま教えてくれたこと。
 後にも先にも、身の上話をしてくれたのは、それ一回ポッキリ。
 
 そのあと、跡継ぎの居ない伯母さんの養子になり、その伯母さんが止めるのも聞かずに、世界放浪の旅に出たんだって。

 中国じゃ水害で流されそうになったり、ペルーじゃ、危うくゲリラに殺されそうになる。ドイツじゃフーリガンと間違われて国外追放。
 モンゴルは気に入って二年ほどいたけど、おりからの相撲ブームで、どこへ行っても相撲の相手をさせられるんで、そいで、カナダへ移住。
 そのカナダで、大自然の奥の深さと豊かさに打たれて永住を決意! しかしサーズにかかり生死の境をさまよい、奇跡的に回復。期するところがあって、日本に戻ってきた。

 え、一回ポッキリの後が長い?

 ポッキリの後はね、カナダから見舞いにやってきたNGOだかNPOだかやってるカナダ人のお友だちから聞いたの。うん、田中さんのお友だち。
 その人がお土産に持ってきたカナダワインの一本を空にする間に教えてくれた話し。
 田中さんは、この話しのあいだ、ずっと席を外していたけど、話し終わって、トイレに立ったお友だちといっしょに戻ってきた。
 戻ってきたお友だちの右目には、大きなクマができ、鼻血が一筋垂れていた。

 田中さん、本当に昔の自分には触れられたくないんだと感じた。

 それから……ごめんなさい、思い出せない。

「今日は、そこまでにしときまひょ」

 私は、タイミングよく、お茶を出した。なんとなく話の潮時というものが分かってきた。
「生徒さん亡くならはったのに二回遭うてはるんですね」
「ええ、最初は男の子。バイクの自損事故です。ちょうどアパートに帰ったところに電話がありました。あのころは、まだ携帯電話もない時代でしたから、何度も電話されたみたいです……ええ、管理職からです。その時は自損というだけで、加害者かも被害者かも分かりませんでした。学校に着いて『死んだ』と伝えられました。そのあとなんて聞かれたと思います?」
「サッチャン考えてみよし」
「え……『かわいそう』とか『気を確かに』とかじゃないんですか?」
 すると、珠生先生とクランケの貴崎先生がいっしょに笑い出した。
「ハハ、里中さんは無垢でいいわ」
 貴崎先生は、カウンセリングが終わると先生の顔に戻る。だから私も由香ちゃん先生とは呼ばない。
「『バイクについて安全指導はやったのか!?』って、校長に詰め寄られたわ」
「え、生徒の話じゃなくて!?」
「管理職も、教委とマスコミから、そこを突っこまれてんの。学校って、基本はお役所。あ、いま何時ですか?」
「えと、三時半過ぎたとこです」
「すみません。あたし、美術展行ってきます。ここに来るまでは、どうしようかと思ってたんですけど、やっぱり行ってきます」

「行ってらっしゃい!」

 アクセント違いの同じ言葉で、貴崎先生を見送った。
「ちょっと、いい傾向ですね!」
「まあね……あの人のは、まだまだ……」

 そう言うと、先生は大きなアクビをしながら伸びをした。その時、奥歯が金歯だということが分かった。
 なんだか、珠生先生の秘密兵器を見たような気がした。

 つづく

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ここは世田谷豪徳寺・92『左遷なのか作戦なのか』

2020-04-27 06:26:20 | 小説3

ここは世田谷豪徳寺・92(惣一編)
『左遷なのか作戦なのか』   

 

 


 詰襟の常装第一種夏服着用の指令が横須賀基地からきた。

 つまり、自衛隊最高の礼服で横須賀に入港しろというわけである。当然迎える方も、それなりの迎え方をする。
 横須賀の第一ふ頭には、基地司令以外に、なんと海幕長、防衛大臣……それに、あろうことか総理大臣までもが出迎えにきていた。

「たった二日で、天地がひっくり返ったな」

 船務長が、苦笑いしながら慣れない詰襟をしめていた。
 登舷礼で最上甲板に並び、軍艦マーチに迎えられ、微速で岸壁に付けた。すると、なんと「栄誉礼冠譜」が演奏されて、総理大臣自身が艦上に上がってきて、乗員一人一人に握手して回った。小さな声だが「ありがとう」「ごくろうさまでした」と、はっきりした口調で言っている。信号手が慌てて総理大臣旗をマストに掲げた。
「マスコミ対策やな」
 機関長が小声で呟いた。この人の関西弁を聞くと、早期退官させられた吉本艦長の顔が浮かぶ。機関長が言った通り、岸壁や基地外に居るマスコミには、総理自身が艦上に上がった方がよく見える。また劇的でもある。政治的な演技ではあるのだろうが、総理は、世論のために我慢していた歓迎がやっとできたという感激に溢れていた。

 明石海峡大橋の上から生卵の爆弾を降らせた市民団体は、たかやすの見張り員が撮った映像が証拠になり検挙されていた。気づかなかったが、映像は海自から総理にまであげられ、その過程で誰かが動画サイトに投稿。あっという間に世界に広がり、特にアメリカの世論が激昂し、それが日本政府の態度を180度変えさせた。埠頭には、アメリカ海軍の他にも、ベトナムやフィリピンなどの太平洋諸国の武官たちも出迎えにきてくれていて、その後ろには溢れんばかりの一般の人たち。その中に、あいつが混じっていたのには気づかなかった。

「吉本艦長はアメリカから勲章が出るらしいぜ」

 歓迎式典が終わり、慣れない常装第一種夏服の詰襟をくつろげながら笑った。日本がばい菌を駆除するように退役させた日本の将校に勲章をやるのである。日本政府は慌てた。日本には自衛官に授与する勲章も、その制度も無かった。国民栄誉賞の声もあったが、どうにもそぐわない。政府は慌てて自衛官に与える勲章の検討に入ったが、法制化せねばならず、おそらく国会審議だけで、半年……いや、野党の反対にあって、流れる可能性が強い。後の話だが、一年後、吉本艦長はアメリカに移りアナポリスの教官になってしまう。

 たかやす以下三隻は、危うくスクラップにされるところだったが、諸外国からの招待申し込みが相次ぎ、除籍は撤回された。変わって「栄誉艦隊」という呼称が与えられそうになったが、こういう(その場しのぎ)呼称は海自の秩序に混乱をもたらすとして、現場が返上。第一護衛隊群第三艦隊の呼称のまま海外歴訪にあたることになった。

 そして、俺は、たかやす乗り組みから外された。

 新しい任務は、今年できたばかりの「海上自衛隊発足60年記念室」付となり、佐世保沖海戦の記録の作成を任ぜられた。左遷なのか作戦なのかよくわからない移動だった。いずれにしろ迅速ではあるが間が抜けていることに違いはない。

 そんなある日、あいつがやってきた……。

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乙女と栞と小姫山・28『は・し・た・な・い』

2020-04-27 06:07:31 | 小説6

乙女小姫山・28

『は・し・た・な・い』      
 

 

 

 来客用のお茶をすすりながら、乙女先生は考えをまとめていた。  

 といって、校長室で乙女先生が来客の待遇を受けているわけではない。

 直前まで来ていた来客が口も付けずに飲み残していったお茶がモッタイナイからである。

 更年期……と言ったら張り倒されそうだが、乙女先生は、よく喉が渇く。昨日栞とさくやを連れて行った『H(アイのてまえ)』でも、コーヒーを二杯、水を三杯も飲んだ。まだ連休前だというのにすぐに汗になる。タオルハンカチで遠慮無く汗を拭く。

 校長は苦笑いした。着任当時より乙女先生は飾らない態度をとるようになった。なんせ生まれも育ちも『ド』付きの河内、岸和田のネエチャンである。仲良くなれば、すぐにメッキが剥がれる。その年齢相応な河内のオバチャンぶりと、見ようによっては20代の後半に見える若々しさのギャップが、楽しくも哀しくもある。亭主も時々言う。 「せめて、脇の下拭くときぐらいは、見えんようにしてくれへんか」 「ええやんか、又の下とちゃうねんから」  亭主は、見てくれの段階でプロポ-ズしたことを後悔しているのかもしれない。
 

「職会でおっしゃっていた、改善委員会に地元の方を加える話ですが……町会長さんは、考え物ですねえ」  

「同感です。学校を見る目がアウェーだ」

「言うときますけど、アウェーやない人なんかめったにいてませんよ」

「その中で、あえて推薦していただけるとしたら、どなたでしょうなあ……」

 校長は、さりげなく窓を開けに行った。乙女先生が考える間をとるためと、さすがにブリトラでは暑いせいだろう。

「確認しときますけど、校長さん、この改革が上手いこといくとは思てはれへんでしょうね」

「は……?」

「梅田はんら三人を懲戒にかけて、改善委員会つくって。言うたら、学校が全部被って、府教委は何にもせえへんのでしょ?」  

 校長は、空いた湯飲みに水を入れ、観葉植物に水をやった。

「なるほど、言わずもがなでんなあ。水やるフリやいうのんは、とうにご承知」

「いや、これは、単なるわたしの癖です。これでもけっこうゴムの木は育つようです」

「枯れぬよう、伸びぬよう……」

「辛辣だなあ……こいつは、わたしが赴任したころには枯れかけていたんですよ」

 そう言って、校長はゴムの鉢植えの向きをを変えた。植物用の栄養剤が二本刺されていた。

「失礼しました。そやけど府教委は、学校を鉢植えのまんま大きい実を付けろいうてるようなもんです」

「ごもっとも、そんなことをしたら鉢植えは枯れるかひっくり返るか……」

「ひっくり返る頃には、エライサンはみんな定年で、関係なし」

「それでも水をやり続けるのが、我々の仕事でしょう」

「それやったら、津久茂屋の恭子さんでしょ」
 

 そのころ、新子とさくやは、第二音楽室を使って、歌とダンスの練習の真っ最中だった。
 

 君のハート全て ボクのもの 好きだから ラブ・フラゲ~♪ 
 

「ああ、汗だくだあ(;'∀')」

「今日、昼から夏日ですからね(^_^;)」

 栞はガラリと窓を開けた。思いがけない涼風が吹いてきた。

「ああ、生き返る……」  

 ポカリを飲みながら体操服の上をパカパカやった。

「先輩、おへそ丸出し」 「いいの、男子いないから」

「でも、こう言っちゃなんですけど、わたしらエエ線いってる思いません?」

 と、不思議に汗もかかない顔で言った。

「自分のことはよく分からないけど、サクチャンかなりいけてんじゃん」

「先輩のパワーには、負けます」

「今の、チェックしとこうか」  二人でビデオを再生してみた。

「先輩、ほんまにイケてますよ。こないだの偉い先生との対談からは、想像できませんよ!」

「わたしって、つい真面目で、真っ直ぐな子だって思われるじゃない」

「昔から?」

「うん、小学校のころから」

「弁護士の子やし」

「ああ、それ言われんの、一番いや!」

「それで、家ではハジケてたんですね」

「ほんとは、賑やか好きのオメデタイ女なの。サクチャンこそ、これだけ踊って、なんで汗かかないの?」

「顔だけです。首から下は汗びちゃ」

 体操服とハーパンをめくってみせた。チラっとイチゴのお揃いの下着の上下が見え、湯気をたてていた。

 そのとき、さくやは視線を感じ、窓の下を見た。

「お、お姉ちゃん!?」

 さくやのおねえちゃんは「は・し・た・な・い」という口をして、校舎の玄関に入っていった。
 

 さくやの顔にどっと汗が噴き出した……。

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