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大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

せやさかい・136『詩ちゃんと養生テープを貼る!』

2020-04-06 16:53:35 | ノベル

せやさかい・136

『詩ちゃんと養生テープを貼る!』         

 

 

 

 以前も書いたけど、お寺の本堂の中は内陣(ないじん)と外陣(げじん)に分かれてます。

 

 内陣と言うのは、ご本尊の阿弥陀さんのお厨子やら、聖徳太子やら親鸞聖人のお厨子やらがあって、いわば、拝まれる側の仏さんの場所で、外陣よりも一段高くなってるとこ。

 外陣は、お参りに来た檀家さんらが、仏さんを拝むとこ。

 外陣は、畳敷きで四十二畳ほどある。六畳の部屋七つ分くらい。

 

 わたしは詩(ことは)ちゃんといっしょになって、この四十二畳の畳を二畳ずつに区切って養生テープを貼ってる。

 養生テープいうのは、家のリフォームするときなんかに、床とか壁とかに保護シートを張る時に大工さんが使う奴で、淡い緑色をしてる。

「結構きついねえ(;^_^A」

 詩ちゃんが、うっすらと汗をにじませて微笑んだ。

 詩ちゃんは偉い!

 わたしは、とっくにきつくて腰は痛いし顎は出てるし。そんなあたしを励ますために微笑んでくれてる。

「ちょっと休憩する?」

 笑顔につられて、休憩を提案。

「よーーし!」

 明るく応えると、外陣横の流し場の冷蔵庫からコーラをとってきた。

 

「「プハーーーー!」」

 

 そのままコーラのコマーシャルに使えそうな爽やかシーンになる。

「バザーがでけへんのが残念やけどね」

「うん、でも『花祭り』自体流れなくてよかった」

 額の汗を拭きながら詩ちゃん。

「去年の『花祭り』は賑やかだったからね……」

「おばあちゃんたち、喜んでくれるよ」

「うん」

 

 二日後に控えた花祭り(正式には灌仏会)の準備をしてるんです。

 四月八日はお釈迦さんの誕生日で、お寺にも檀家さんに大事な行事。

 檀家さん、みんなに集まってもらって、お釈迦さんに甘茶を掛けたり、みんなで頂いたり。バザーをやったり。

 去年は、引っ越してきたばっかりやったんで、この花祭りは嬉しくて面白かった。檀家のおばあちゃんらとも仲良しになれたし、バザーも面白かった。

 今年は武漢ウイルスのために、あやうく中止になるとこで、うちのボンサンら(祖父ちゃん、おっちゃん、テイ兄ちゃん)は悩んでた。総代さんと話したり、近所のお寺や本山と連絡とったりして、夕べ決断。

 バザーは中止にして、外陣の畳を二畳ずつ区切って、お参りしてくれはる人の距離をとる。

 そのために、畳二畳を一つに区切るために養生テープを貼ってるというわけ。

「うん、任しといて!」

 と、胸を叩いた……けど、四十二畳は、メッチャしんどい。

「お誕生会もしっかりやるからね」

「え、あ、あ、うん(n*´ω`*n)」

 そうなんです、なによりも四月八日は、わたしの誕生日でもあるんです。

 去年、引っ越してきたばっかりで、緊張しまくりやったわたしにお誕生会をやってもろた。かしこまって誕生日祝いやられるとかえって緊張しまくりになるねんけど、花祭りの延長で気楽に、でも賑やかにお祝いしてもろて、めっちゃ嬉しかった。

 今年は、こうやって、わたしも準備に加われて、気が楽いうたら変やねんけど、去年以上に素直に楽しめそうです。

 照れくさいから、阿弥陀さん「南無阿弥陀仏」と手を合わせる。

 こういう時の阿弥陀さんは、ほんまに便利です。

 バチ当るかなあ?

 

 

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連載戯曲・エピソード 二十四の瞳・6

2020-04-06 06:46:35 | 戯曲
連載戯曲
エピソード 二十四の瞳・6     
 

 

 
時  現代
所  東京の西郊

登場人物

瞳   松山高校常勤講師
由香  山手高校教諭
美保  松山高校一年生


 BGMがかかって飲み屋。ビール、チューハイ、ウーロン茶とサカナが並んでいる。瞳は先ほどの写真を見ている。

由香: ごめんね、わたしばかり飲んじゃって。
瞳: いいよ、こういう雰囲気じゃないと話せないこともあるし……こうして見ると、どれも今いちだな。
由香: わたしのせいじゃないわよ。
瞳: なにかがハンパなのよ。
由香: え?
瞳: ……やっぱポーズや表情じゃごまかせないか。
由香: え、そんなにブスに写ってるの?
瞳: 失礼ね、みんなかわいく写ってるわよ……ただ……。
由香: ただ……?
瞳: どれもこれも空元気……空回りの上に個性が……(ない)
由香: けっこういけてるように思うよカメラマンの腕がよかったから。
瞳: こんなステレオタイプじゃなくって、生きざまが写るようになんなきゃなあ……かけらでもさ。
由香: わたしのせい?
瞳: 違う、あたし自身のことよ、大石瞳の……もう二十五にもなろうってのに……ね、あとでぶっとばそうよ!
由香: え、あの年代物のミニクーパーで?
瞳: そうだよ。さり気ないけど、見えないとこでギンギンにチューンしてあるんだからね、
 タイヤもエンジンもサスもミッションも……。
由香: あいかわらず走り屋やってんの?
瞳: 昔ほどじゃないけどね。合法よ、合法。
 高速だって三十キロ以上はオーバーしないようにしてるし、市内なんか、タクシー並の安全運転だったっしょ?
由香: うん、だからとっくに卒業してんのかと思った。
瞳: 車は素直だからね。こっちの腕さえしっかりしてたら、手を加えたぶん、きちんと応えてくれる。
 ところが学校とか生徒とかはね……。
由香: 美保って子の指導なんか立派なもんだったじゃない。
 あの子も素直に聞いていたし、ベテランの本職に見えたわよ。
瞳: アリバイよアリバイ。生徒の指導も親への連絡も、無事に退学をかちとるためのね。
 うちで三年もいたら自然に身につくテクニック。
由香: そう? そばで見ていたら、ちゃんと生徒に愛情持った、いい指導に見えたけどなあ……急にわたしにふったこと以外は。
瞳: 百人も辞めていく生徒にいちいち愛情なんかかけてらんないわよ。
 フリはしてるけどね、愛情持ってるフリは……今日説教した美保も、
 まあ、十日も効き目があったらいい方だろうね……明日は、まあ来るね。土日挟んで、まあ十日。
 そのたんびに「よくやった! よく来たな! 明日もがんばれよ!」そして、十日たったら元の木阿弥……
 期末テストで欠点のオンパレード。
 できたらそこで引導渡してやりたいけど、美保は性格の弱い子だからさあ、きっと学年末までねばるだろうね。
 それで学年末で「お世話になりました」の一言も言わせて、シャンシャンシャン。
 校長も主任も「大石先生ごくろうさん!」それで美保もあたしもお払い箱……だろうね。
由香: 常勤講師は一年契約だもんね。
瞳: 違う! 長い短いの問題じゃあない……! 
 自分の一生を掛けた仕事として確かかどうか……たとえば、由香の実らないまま消えていった恋。
由香: なによ急に!?
瞳: 山のように編んだセーター。
由香: 夕方の蒸し返し? どうせわたしは夢見る夢子ちゃんですよ。
瞳: そんなことはない! 由香の愛と情熱はいつかは報われる。
 この編み目の一つ一つに、その確かさを感じる。自信持っていいよ!
由香: そっかな……。
瞳: そだよ、由香の想いはいつかはかなう。いつか必ず由香の良さを分かってくれる男が現れる。
 その確信が由香の目を輝かせているんだもの!……キラキラキラ……あん、まぶしい!
由香: よしてよ。
瞳: バカ、真剣だよ真剣。
由香: 真剣?
瞳: そう、自信持って。ほらほらほら、グッといって、グッと!
由香: そだよ、そおだよね。わたしだって、いつかはきっと……わたしの魅力に気づかない男共のバカヤロー!
瞳: バカヤロー! そして、いつかは実る由香の恋に乾杯!
由香: そおおだよね、わたしにだって、わたしにだって……! 
 ありがとう瞳、もつべきものは親友、自信がわいてきた! 
瞳: なんだったら、セーター返そうか?
由香: いいよ、明日っからもっとスンゴイセーター編んじゃうんだから!
瞳: その意気や良し! その由香の自信にもう一度……。
二人: 乾杯!

 

 

 

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オフステージ・(こちら空堀高校演劇部)・92「キャシーへの手紙・3」

2020-04-06 06:33:54 | 小説・2

オフステージ(こちら空堀高校演劇部)
92『キャシーへの手紙・3』
      




 

 今は解消されているけど、大阪とサンフランシスコが姉妹都市だったのは知ってるよね。

 エレメンタリースクールの時にシティーホールで親善行事、覚えてる?
 初めて日本の寿司を食べてさ、ワサビペーストで死にかけた、あの時のキャシーは忘れないよ。『ワサビテロ!』って、涙目で叫んでたよね。
 
 負けず嫌いのきみは『ワサビテロ』の対処法を編み出したんだ。
 ワサビは揮発性だから、テロに遭ったと思ったら、大口開けて上を向けばいいって。
 あの研究発表は忘れられないよ。ノドチンコ見た先生が「ちょっと肥大ぎみね、いちどドクターに診てもらったほうがいい」って言ったんだよね。ケンイチがヒソヒソ声で日本語のノドチンコの意味を言いふらしたもんだから、教室中笑っちゃって授業にならなかった。

 あ、そうそう姉妹都市。解消された理由を知って、ちょっとビックリしてる。

 キャシーも知ってると思うんだけど、シスコに『従軍慰安婦の少女像』が建てられたんだよね。
 私有地なんだけど、シスコに寄付されてパブリックなものになるって話。
 大阪市の市長が抗議して、撤回されないんで姉妹都市を解消。
 
 日本に来るまでは、あまり関心は無かったよ。

 だって、ドイツのナチと日本のミリタリズムは同じことでさ。虐殺とか性奴隷なんか平気でやってたと思ったよ。
 でも、今は、ちょっと違うんだ。

 何度か空堀高校とか日本の学校の事を書いてきたけど、いろいろあり過ぎて予告編だけで終わってたことがあるんだ。

 スクールポリス。

 アメリカじゃ当たり前で、生徒だってワルサしたら逮捕とかされてたよね。
 学校はいちばん秩序が保たれなきゃいけないところだもんね。
 
 ところが日本の学校にはスクールポリスが無いんだよ!

 最初は空堀高校だけかと思ったら、そんなもの日本のどこの学校にも無いんだって! 信じられる!?
 空堀高校に来て一か月以上になるけど、暴力事件も泥棒沙汰も性的なバイオレンスも無いんだ。ぼくが知らないだけと言うかもしれないけど、ぼくがホームステイしているのは生徒会副会長のミハルの家なんだ。ミハルはなんでも教えてくれるから、彼女が「無い」と言えば本当に無いんだと思うよ。
 これだけ平和なのは、きっとどこかで取り締まってるんだ、そう思うよね。

 ところが、無いんだ! 

 たまにケンカとか喫煙とか授業妨害(空堀では、まず無いらしい)とかあるらしんだけど、それはセイカツシドウの先生が取り締まったり処理したりするらしい。
 信じられるかい? 先生が学校の治安維持に取り組んでるなんて!
 それも丸腰なんだぜ!
 スタンガンくらい持ってるだろう? ひょっとして柔道や空手の有段者?
 いやいや、ごく普通の先生たちさ。
 信じられないけど、先生たちの会議で選挙で選ばれるんだって!
 それで、もっと信じられないのは、セイカツシドウやっても給料にはいっさい割り増しがないってこと。
 だって、教師とポリスの仕事してるんだぜ。アメリカなら、教師のユニオンが黙ってないね、全米一斉の先生のストライキが始まるね。

 とにかく日本人は善良だよ。人に迷惑かけないことを信条としていて、地震とかのクライシスが起こっても、ちゃんと列を作って並んでるし、略奪事件もあり得ない。

 YouTubeで、昔の日本の動画をせっせと見たんだ。むろん国連本部で演説できるほどの量ではないけどね。
 服装とか建物とかの街の様子は違うけど、受ける印象は現代の日本と変わりがない。

 だから、シスコに少女像を建てるような理由が本当にあったのかと思うよ。

 もう一つ信じられないだろうけど、演劇部に入ったんだ!

 それについては、長くなるから、次にでもね。

 
 親愛なるキャシーへ      新しい部室にて ミッキー

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坂の上のアリスー42ー『カードキー』

2020-04-06 06:19:00 | 不思議の国のアリス

アリスー42ー
『カードキー』   

 

 

 エアメールって言うのよ、バカ。

 

 国際郵便という呼び方を、セクハラ発言を咎めるように睨んだうえ、ひったくるようにしてエアメールをふんだくる綾香。

 瞬間ムカつくが、兄妹喧嘩するほどの気力もないので、突っ立ったままでいる。

「……んだ、お父さんからじゃない」

 思いっきり興ざめしたため息を吐いて、エアーメイルをテーブルに投げ出した。

「なんだと思ったんだよ」

「思わないけど、ステキと思っちゃうじゃん、エアーメイルで横文字でアドレスとか書いてあってさ。ね、返事書くんだったらさ、エアコン付け替えたいから十万円ほど余計に送ってって書いといて。ヨッコラセっと!」

「どこ行くんだよ」

「ゲオよゲオ、兄貴だからって信頼してしまったわたしがバカだった。自分で借りてくる」

「だったら、これ返しといてくれよ」

 DVDの山を顎でしゃくると、綾香は、セクハラオヤジを見るようなジト目で言った。

「自分の不始末は自分で始末しなさい」

 

 夏の暑さにも効用があると思った。これほどバテていなければ、ガキの頃に泣かせてやったコブラツイストを掛けていたところだ。

 

「……んだよ」

 ソフアーに寝っ転がると、背中に妹の温もりが伝わる。気分が悪いが、場所を変える気にもならない。

 このソファーにエアコンの冷気がそよいでくるのにも気が付いた。見上げるとエアコンの吹き出し口はソファーの一点に固定されていたのだ。

「で、なんだよオヤジは……」

 手紙は、親父らしく無駄に元気な文面で仕事が忙しいことが書かれていて、二枚目で―― というわけだから当分日本には帰れない、綾香と二人でノビノビ夏を満喫してくれ! ―― と、脳天気なことを書いている。

 んなもん、メールで送れば済むことだろが!

 だが、それは単なる前振りにすぎなかった。

―― 関西旅行は無事に所期の目的を果たせたようだ、感謝する ――

 感謝はいいが、なにが目的だったのかサッパリわからないのが気持ち悪い。

 

 そして、四枚目。

 

―― かわりにお祖母ちゃんを見舞ってきてくれ ――

「……んだって?」

 お祖母ちゃんというのはお袋の方で、田舎の介護付き有料老人ホームに入っている。老人ホームに入ってから久しく会っていない。億劫というほどじゃないけど、この暑さと道のりを思うと、やっぱ――喜んで!――という気持ちにはならない。

 とりあえず後で考えよう。

 そう決めて、手紙を封筒に戻そうとすると、小さなカードがハラリと落ちてきた。

 

 それは、お祖母ちゃんの部屋のカードキーであった。

 

 ♡主な登場人物♡

 新垣綾香      坂の上高校一年生 この春から兄の亮介と二人暮らし

 新垣亮介      坂の上高校二年生 この春から妹の綾香と二人暮らし

 夢里すぴか     坂の上高校一年生 綾香の友だち トマトジュースまみれで呼吸停止

 桜井 薫      坂の上高校の生活指導部長 ムクツケキおっさん

 唐沢悦子      エッチャン先生 亮介の担任 なにかと的外れで口やかましいセンセ 

 高階真治      亮介の親友

 北村一子      亮介の幼なじみ 

 

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ここは世田谷豪徳寺・63《坂東はるか かく語りき》

2020-04-06 06:08:11 | 小説3

ここは世田谷豪徳寺・63(さつき編)
『坂東はるか かく語りき』   



 

「さつきさんでしょ?」

 なんと、はるかさんから声がかかった……。

 駅前のビルのばけ天で天ぷらのコースをゴチになった。
「大阪の食べ物は、たいがい好きなんですけどね。どうも天ぷらは東京風でないと、食べた気がしないの」
 これは同感。クレルモンにいたとき、同じ寮の日本の子が天ぷらパーティーを開いてくれたが、関西風のサラダオイルで揚げたナマッチロイ天ぷらだったので、ちょっとショックだった。
 天ぷらと言えば、ゴマ油で揚げた香しいものだと子どもの頃から思っていた。
「何カ月ぶりだろ、東京の天ぷらなんて」
「ばけ天もね、他のお店じゃ、関西風にサラダオイル混ぜてるんだけどね、この大阪一号店だけ、東京の味のママなの」
 はるかさんは、そう言ってエビ天を尻尾の先まで食べた。これも同じ習慣なんで嬉しかった。
「エビ天て、尻尾においしさが凝縮されてるんですよね」
「そうよね、残す人多いけど。本当の美味しさって、人が気づかないとこに隠れてるのよね」
「はるかさんみたいに?」
「ねえ、その敬語はやめない? 同い年なんだしさ」
「え、年上かと思ってた!」

 あたしは、役者のオーラについて聞いてみた。

「オーラは、誰にだってあるわ。言ってみれば、その人の職業やら境遇からくるものでしょ。ただ、あたしたちの仕事って、人に夢を売ることだから特別に見えるんじゃないかな。さつきちゃんだって、特別なオーラするよ」
「どんな?」
「基本的には学生さん。それもちゃんと勉強してる。でも、プラスアルファ……なんかあるのよね。なんだろ?」

 はるかちゃんの勘の良さにドキリとして、同時に幼なじみのような親近感を感じた。

「さくらが、いろいろ吹き込んでるんじゃない?」
「うん。とてもさつきちゃんのこと自慢に思ってる」

 あやうくお茶にむせかえるところだった。

「あたしも、三年前までは大学生になるつもりだった」

 バリバリ🎵

 小気味よくかき揚げをかみ砕いた。

「たしか、ご両親の離婚が事の始まり……ごめんなさい。プライベートなことだよね」
「ううん、それは世間がみんな知ってることだから。親が離婚して、あたしは大人しくお母さんに付いて大阪まで越してきた」
「よく平気だったわね?」
「平気じゃないわよ。ただ熱くなってる親に言っても逆効果だろうと思って。時間かけて二人の中をもどすつもりでいた」
「ああ、それが『はるかのタクラミ』ね」
「読んでくれたの『はるか ワケあり転校生の7カ月』?」
「うん、ネットで連載してるときに」
「あ、それ嬉しい。ネットの時から読んでる人珍しいもん。だったら話早いよね。大人って、気持ちの切り替え早いんだ。ガキンチョのはるかは、それ分かってなかったから、結局ムダな空回りしてただけ」
「でも、その空回りが自分も人も変えていくんだ。あのお母さんに内緒でお父さんに会いに行ったら……」
「ああ、そこ一番ハズイの。もうお父さんは事実上再婚しててさ。タクラミが全部パー……でも、あれで、バラバラだったみんなの気持ちが距離をとりながら落ち着くとこに落ち着いたんだから、メチャ皮肉」
「そして、あのとき腰掛けで入った演劇部が本気になっちゃって、いつのまにか女優さんなんだもん。一つ聞いていい?」
「なあに?」
「こんどの『はるか ワケあり転校生の7ヵ月』の企画は、はるかちゃんから?」
「ハハ、んなわけないでしょ。プロディユーサーの白羽さん。はるかは、一度総括しといたほうがいいって。それは、そのとおりだから、今みたく天ぷらでも食べながら、しみじみ話しておしまいかと思ってた」
「天ぷら屋さんじゃなかったの?」
「ううん、東京のばけ天。ただ、その場に監督やら脚本家やら映画のスタッフがいたのが計算違い。総括するんなら、いっそ映画にしようって」
「でも、すごいね。原作、まだ出版もされてないんでしょ?」
「うん、ほんとは四月に発売の予定だったんだけど、出版社の都合。原作の大橋先生が、どうしても青雲書房から出したいって言うもんだから。小さな出版社なんだけど、ここじゃなきゃダメだって。いま社長さん病気療養中」
「じゃ、いつ出るか分からないの?」
「六月には出る……かな。ま、人生の区切りを映画にしてもらって、その主演をやるなんて役者冥利につきます」

 はるかちゃんとは、ばけ天の昼食で友だちになれた。苦労してきた人だから話の通りが早い。これがランチでなきゃ、ひょっとしたら秘密の「ひ」ぐらい、言ったかもしれない。

 妹のさくらにも言えない秘密を……。

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乙女と栞と小姫山・7『神さまのお願い』

2020-04-06 05:59:32 | 小説6

乙女と小姫山・7

『神さまのお願い』        


 

 

 気が付くと、乙女先生は境内の真ん中に立っていた。

「あれ……」
 雰囲気がまるで違う。
「これって……別の神社?」
 二の鳥居まで戻ってみると、来たときと同じ五メートルほどの階段。駆け下りて、一の鳥居で振り返る。
「やっぱし、ここや……」
 石畳の道が「く」の字に曲がって、五メーターほどの石段が上って、二の鳥居。それをくぐると……そこからが違う。ちょっとした野球場ほどの広さの境内は、幼稚園の園庭ほどの広さしかない。拝殿も社務所も、うらさびれている。ただ、境内を取り囲む桜だけは見事に満開であった。

 境内の端に気配を感じた。見ると小さな祠(ほこら) 
 近寄ると、小さな剥げっちょろげた扁額。かすかに木花開耶小姫と読めた。

――ちょっと見栄を張りました。お願いしたこと、よろしゅうに……。

 伊邪那美の声が、頭の中で鈴を振ったように響いた。
 お願い……そうだ、約束したんだ。ダンプカー三台分の桜の花びらに埋もれながら、
 でも、思い出せない……なんだっけ……。

――思いださんでも、ええんです。心の奥にちゃんと刻ましてもらいましたよってに。

「そういうわけにはいきません。だって、約束したんやから」

 木花開耶小姫をもとにもどす。これはダンプ三台分の桜に埋もれる前に聞いた。でも、桜に埋もれながら約束したことが思い出せない……どころか、二柱の神さまの顔もおぼろになってきた。必死で思い出そうとすると、どんどん遠くなっていく。まるで、目覚めたときに、それまでみていた夢が、どんどんおぼろになって消えていくように……。

「わ!」

 思い出しながら一の鳥居をくぐると、突然目の前をタクシーが走り抜けた。それに驚いて、乙女先生の記憶は完全に消えてしまった。
 といっても、記憶喪失になったわけではない。ここでイザナミとコノハナノサクヤコヒメに会った記憶が消えてしまったのである。
 もどかしい思いで、鳥居を振り返ると、後ろから声を掛けられた。

「やあ、佐藤先生!」

 走り抜けたタクシーが、電柱一本ほど前で止まっており、後部座席の窓から校長の笑顔が覗いた。

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