大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

オフステージ・(こちら空堀高校演劇部)・99「女子に関わるとろくなことは無い」

2020-04-13 07:12:49 | 小説・2

オフステージ(こちら空堀高校演劇部)
99『女子に関わるとろくなことは無い』         





 女子に関わるとろくなことは無い。

 かといって世の中の半分は女なんだから、まるっきりの無視もできない。
 だから程よく付き合っていけばいいと思ってるし、そうしてきた。

 程よくというのは、ま、日ごろの挨拶はする。「おはよう」とか「さいなら」とか「ありがとう」とか。ま、この三つの言葉を適宜使っていればもめ事は起きない。
 女子が、なにか悩んでいたらそっとしておく。へたに感想とかアドバイスとかしたら上手くいかなかった時に「あんたのせいだ!」と思われる。面と向かって「あんたのせい!」と言われることは少ないが、根に持たれ、時には仲間内に言いふらされ総スカンを食うことになる。

 文化祭で『夕鶴』をやることになって、八重桜(敷島先生)の押しで千歳が主役を張ることになった。
 なったんだけど、千歳の顔は浮かない。
 だけど、俺は「どないしたんや?」と声をかけたりしない。
 声をかけないのは以上の理由による。
 その他にも、須磨先輩やミリーが気にかけてくれているのが分かってる。下校時に迎えに来たお姉さんと車の中で話しているのも見かけた。

 それに、最大の問題は『夕鶴』を押してきたのは八重桜自身やということ。
 八重桜は組合のバリバリで党員やという噂もある。パソコンで空堀高校をググってると八重桜にヒットして、その写真が北摂の女野党議員とのツーショット。これは理屈の通る人種やないと怖気をふるてしもた。

 まあ、その、俺の女子一般への認識と八重桜への怖気が、千歳の放置プレイになってしもたんやけど。

 そやけど、俺の良心は「このままでええんか?」と責めてくる。
 ちょっと千歳の顔を見られへんなあと思たとき、須磨先輩から提案があった。
「啓介、ミリーとミッキーを主役に据えたらいいんじゃない!?」
 ミリーもミッキーも交換留学生。国際交流とか異文化交流とかのキャプションを付けたら、すごく前向きな取り組みに見えるやんけ!
「あ、そやけど、ミリーは足イワシてるるで」
 ミリーは捻挫をこじらして車いすになってる。
「かえっていいわよ、もともと八重桜は千歳に振ったんだよ。これは、千歳が車いすなんで、きっとアピールできると踏んだからなんだから、ミリーの条件なら宗旨替えしてくれると思うわよ」
「なるほど……あとは……」
「ミリーとミッキーには話した、めっちゃ喜んでたわよ。あとは八重桜の首に鈴をつけることだけさ♡」
「え……なに? そのキラキラお目めは?」

 どうも苦手らしい、先輩が八重桜を、又は八重桜が先輩を。

 で、俺が提案しに行くと総選挙で支持政党が勝利したように喜んでくれて、どさくさで「演出とかもお願いできますか!」もあっさり引き受けてもらった。

 明日から演劇部初の演劇の稽古が始まる。
 

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坂の上のアリスー49ー『ソレイユ』

2020-04-13 07:04:58 | 不思議の国のアリス

アリスー49ー
『ソレイユ』   

 

 

 フランス語で太陽を意味するソレイユという名前の割には和風だ。

 

 なんでも、ここいら一体の古民家とか、古民家一歩手前くらいの空き家を解体した廃材を利用して建てられたらしい。

 でも、一見和風なんだけど、内部は二階建てマンション風で、居住者も介護者も快適に過ごせるようにできている。

「もともと新垣さんの肝煎でできたんですよ」

 首からIDぶら下げた担当さんがサラリと言う。

「え、どこの新垣さんですか?」

「いやだな、お二人のお祖母さんの新垣綾さんですよ」

「「えーーーー」」

 兄妹そろって間の抜けた声が出た。

 お祖母ちゃんがソレイユに入ったときはまだ子供だったんで、いきさつなんかはまるで知らない。

 ソレイユのつくりも、なんだか和食のファミレスみたいだくらいに思っていた。

「ちょっと、待っていてください」

 担当さんはサロンのようなところに案内してくれて、しばし待つように言って先に行ってしまった。

 アポなしで来たもんだから、まずはお祖母ちゃんの様子を見に行くんだろう。

 元気でいてくれという気持ちと、元気だったらこちらのことなんか完無視で喋りまくられる鬱陶しさの両方がある。

 こういうところには慣れないのか、お祖母ちゃんの馬力を思い出したのか、綾香は大人しくお茶を飲んでいる。

 

「あ、太陽がある」

 

 お茶を飲み干そうとした綾香が、中庭の上に太陽のオブジェが吊るされているに気づいた。

「……お祖母ちゃんがつくったんだ」

 中庭の銘板を指さすので、湯呑を持ったまま見に行く。

「……中庭全体が新垣綾さんの作品なんだ」

「お祖母ちゃんて偉い人なんだ……」

 オブジェを挟んだ向こう側に部屋が連なっているようで、担当さんが看護師さんらしき女の人と真面目な顔で話している。

 俺たちの姿を捉えたんだろう、担当さんは笑顔に切り替わって、中庭を半周してやってきた。

 

「ご体調がすぐれないんですが、お伝えすると喜んでいらっしゃいましたので……すみません、十分に限ってお会いしてください」

「「は、はい」」

 わざわざ出向いて十分とは気持ちが萎えるが、不調とあっては仕方ない。

 

「なんだか、会うのが怖くなってきた」

 ここへきて尻込みするのは可愛いとさえ言えるんだけど、担当さんや看護師さんの態度からはビビらざるを得ない空気がある。

「「こんにちは……」」

 蚊の鳴くような声で入ると、お祖母ちゃんはベッドで横になって酸素吸入のマスクを着けて、微かにシューゴーとダースベーダーを思わせる呼吸音がする。

「こ、これって……」

「ちょっと肺機能が落ちているんで……」

 看護師さんが語尾をあやふやにする。

 眠っているようなので声が掛けられない。

「たった今まで起きてらっしゃったんですけどね……」

 そう言いながら看護師さんはお祖母ちゃんの耳元に顔を寄せる。

「新垣さん、お孫さんが見えましたよ……」

 お祖母ちゃんはウッスラと目を開け、俺たちに顔を向ける。弱弱しくはあったが、喜んでくれているのははっきりわかる。やっぱ、血の繋がりか。

「亮介……綾香……こっちへ」

 点滴の痕だらけの腕を伸ばしてオイデオイデをする。ほんと断末魔のダースベーダーだ。

「や、ひさしぶりお祖母ちゃん」

「お祖母ちゃん……」

「二人とも大きくなって……積もる話はあるけど、最初に大切なことを言っておくね」

「な、なんだよ祖母ちゃん」

 俺は声かけるのがやっとだったけど、綾香はごく自然にお祖母ちゃんの手をとった。

 基本こいつは甘えん坊なんだと思い出す。

「実は、あんたたち二人には大事大切な話なんだよね……」

「「な、なに?」」

 

「実はね…………おまえたち二人は兄妹じゃないんだよ……」

 

 俺も綾香も、一瞬呼吸が止まった。

 

♡主な登場人物♡

 新垣綾香      坂の上高校一年生 この春から兄の亮介と二人暮らし

 新垣亮介      坂の上高校二年生 この春から妹の綾香と二人暮らし

 夢里すぴか     坂の上高校一年生 綾香の友だち トマトジュースまみれで呼吸停止

 桜井 薫      坂の上高校の生活指導部長 ムクツケキおっさん

 唐沢悦子      エッチャン先生 亮介の担任 なにかと的外れで口やかましいセンセ 

 高階真治      亮介の親友

 北村一子      亮介の幼なじみ 

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ここは世田谷豪徳寺・70『紀伊国坂』

2020-04-13 06:56:08 | 小説3

ここは世田谷豪徳寺・70(さくら編)
『紀伊国坂』
        


 

――事務所においでよ――

 鈴奈さんからの返事。

 あたしは鈴奈さんに長いメールを打ったのだ。
 どうして学校を辞めたのか、なんで自分に言ってくれなかったのか。
 内容はこの二つだけど、学校でのショックがあったので長いメールをなった。その返事が、たった八文字の返事。
 よほど思い悩んだ事情があったのか、とんでもなくアッケラカンなのか、どちらともとれる文面だ。

「お久さ~、ちょうど打ち合わせ終わったところだから、そこで」
 鈴奈さんは、相変わらずの様子で空いてる小会議室を指した。
「まず、あんたの話から聞いたほうがいいって顔だね。飲み物とってくるから、考えまとめときな」
 そう言って鈴奈さんは部屋を出て行った。あたしは鈴奈さんのことが聞きたかったので「あんたの話から」と言われて面食らった。

 で、当然ながら自分のことについては考えがまとまらないまま、鈴奈さんがコーヒーを持って現れた。

「どっちが変わったか、分からないんでしょ?」

 核心をついていた。

 鈴奈さんと話をしようと思ったのは、表面的には鈴奈さんの退学についてだったけど、その動機の根本は、学校にもどったときのみんなのよそよそしい反応。その原因が自分にあるのか、学校のみんなにあるのか計りかねていたからだ。で、鈴奈さんの退学が同じようなことからなのか……ようは、自分のことが知りたくて連絡をとったことを分かりながら、鈴奈さんはフランクに対応してくれた。
「それって意味ないわよ。変わったのは両方。さくらも、この世界の人間ぽくなっちゃったから、どうしても出ちゃう。仕事の中で歩き方から言葉の使い方まで仕込まれたでしょ。どうしても出ちゃう。だから普通どおりのポニーテールしてても、違った目で見られる。まあ、帝都だから面と向かっては言わないだろうけど、トイレの洗面あたりじゃやっかみで言う子もいるだろうね」
「すごい。鈴奈さん、トイレの話なんかそのままですよ」
「ハハ、あたしも同じ目にあったから。すぐに慣れるわよ、あんたもみんなも」
「じゃ、鈴奈さんは……」
「続きは晩ご飯食べながら話そうか。おいしいお店知ってるから」

 それから、鈴奈さんとタクシーで、赤坂見附まで行った。

「ここから、ホテルオオタニにかけてが紀伊国坂。知ってるよね、小泉八雲の話?」
 タクシーを降りると、いきなり小泉八雲になった。
「ああ、ムジナの話ですね。出てくるの、みんなムジナが化けたノッペラボー」
「そう……あたし、そのノッペラボーになりたくなくってね……」

 そこから鈴奈さんの話は始まっていた……。

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乙女と栞と小姫山・14『マックスアングリー・1』

2020-04-13 06:48:18 | 小説6

乙女小姫山・14

『マックスアングリー・1』    
 

 

「……というわけで、指導忌避のため、手島栞を停学三日といたします」
 

 慣れた口調で説明をしたあと、作業着姿で小さく俯いている栞の父親に、梅田は申し渡した。

 栞は青白い顔をして、梅田を見つめ。父親は、小さくため息をついて俯いた。

 同席した教師のほとんどが、立ち上がりかけた。

 乙女先生は一言言おうと息を吸い込んだ。
 

「気の早い先生たちだ。話はこれからですよ」
 

 それまでと違って凛とした声で父親が言った。

「ここからは録音させていただきます。どうぞお掛け下さい」

「手島さん……」

 父親の豹変ぶりに、梅田がかろうじて声を上げ、他の教師(学年主任・牧原 学年生指主担・山本 担任・湯浅)は立ちかけた椅子に座り直した。これからが出番だと思っていた乙女先生は座ったままだ。

「指導忌避と言われるが、栞、以下当人と呼称します。当人は津久茂屋の配達途中でありました。原動機付き二輪車の胴体側面、荷台の商品に通常の目視で視認に足る表示がなされておりました。当人のエプロン、ヘルメットにも屋号が付いておりました、いかがですか、湯浅先生?」

「突然のことで、そこまでは分かりませんでした」

「これが、当該の原動機付き二輪車、並びに、当人がその折着用しておりました、エプロンとヘルメットであります」

 父親は、二枚の写真を出した。教師一同は驚きを隠せなかった。

「当人は、そのおり『すみません、配達中なんで、また後で』と声をかけております。なお、配達の荷物は当日、本日でありますが、卒業式が行われる小姫山小学校の紅白饅頭でありました。8時20分という時間からも、当人が急いでいたことは容易に推測できるものと思量いたします」

「いや、なんせとっさのことで」

「湯浅先生は、当校ご勤務何年になられますか」

「な、七年ですが……」

「津久茂屋も、姫山小学校もご存じですね」

「は、はい」

「そうでしょう、この前後のいきさつは、タバコ店の店主も承知されています。当人の返事も含めて。この状況で、指導忌避と捉えるのは早計ではありませんか」

「いや、たとえそうでも、二回目は指導忌避です」

 「ほう、待ち伏せが指導にあたるとおっしゃるんですか」

「お父さん、何が言いたいんですか!?」

「事実確認です。ご着席ください梅田先生」

「こいつ、いや、手島さんは、わたしと梅田先生の制止を振り切って、逃げよとしたんですよ。明らかな指導忌避です」

 「この写真をご覧下さい。これが当人が制止されブレーキをかけたタイヤ痕です。あとスリップし転倒した場所まで、約9・5メートル続いております。なお当人の速度は30キロであったと思量されます……」

「なんで、速度まで分かるんですか!?」

「現場の道路は、傾斜角6度の未舗装の下り坂です。逆算すれば、簡単に出てきます」

「しかし、本人は抵抗したんで、許容される範囲で制圧したんです。立派な指導忌避です」

「この状況で自販機の陰から飛び出されれば、パニックになります。当人は務めて冷静に対処しようとして、こう言っています『進行妨害です。現状保存をして、警察を呼んでください』と」

「それが、指導忌避です。ゲンチャは、本校では禁止しとります」

「それは、後にしましょう。先生方がおやりになったのは道交法の進路妨害に該当します。事実事故が発生し、当人も進路妨害と認識、その旨を主張しております。それを無視して職務中の当人を連行されたのですから、事故の証拠隠滅、威力業務妨害になります」

 その時、応接室のドアが開いて、栞の旧担任の中谷が、顔を赤くして飛び込んできた。

「バイトを許可した覚えはありません! そもそもバイト許可願いなんか、ボクは受け取ってません!」

「中谷先生ですな。お呼びする手間が省けた」

「て、手島は、勝手に、そう思いこんで、勝手にバイトやっとるんです!」

「あきれた人だな……」

「なにを!」
 

「お父さん、もういい。これはわたしの戦い。あとは自分でやる!」
 

 立ち上がった栞は、顔も手足も、いっそう青白い。怒りがマックスになってきた……。

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