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大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・アンドロイド アン・2『味噌汁アンドロイド』

2018-08-07 06:51:15 | ノベル

アンドロイド アン・2
『味噌汁アンドロイド』



 味噌汁の香りで目が覚めた。

 一瞬、子どものころの記憶が蘇りかけるが、意識の水面に浮かび上がる前に沈んでしまった。

「え、朝ごはん作ったの?」
「そう、朝は、きちんと食べなきゃね」
 エプロン姿のアンがニコニコして言う……昨日押しかけてきたばかりなのにしっくり馴染んでいる。
「でも、食べてたら学校に遅刻しちゃうよ。顔洗ったら出るから……」
 そう言って、洗面に向かった。
「フフ、そう言うだろうと思って、時計を四十分進めておいた~♪」
 
 で、何カ月ぶりかで朝ごはんを食べるはめになった。

「……………」
「どう、おいしい?」

 アンドロイドが作った飯なんて……と思ったが、おいしかった、特に味噌汁が。

「アジの一夜干し、玉子焼き、梅干しとおしんこ。お味噌汁の具は、豆腐と油揚げ……もひとつ、な~んだ?」
「えと……これ?」
 ボクは見たことも食べたことも無いものを、お椀の中からつまみ上げた。
「さあ、なんでしょ?」
「キノコの一種なんだろうけど……なめ茸はもっと太いよな」
「エノキだよ」
「エノキって、こんなに味がしないよな?」
「特製乾燥エノキ『アンスペシャル』 味は生のエノキの十倍、キノコキトサンとかグアニル酸とか入ってて、体にいいの。頭にもね。新一の場合、弱点の記憶力によく効く。ほんとだよ♪」

 たしかにボクは記憶が苦手。いや、逆の言い方をすると……忘れることが上手い。

 いつもは、朝ごはんも食べずにギリギリに家を出るけど、今日は十五分も早く出て、二本早い電車に乗った。当然だけど乗客の顔ぶれは全然違う。二本早い電車の車内は、こころなし空いていて、遅刻ギリギリの殺伐、あるいは厭世的なダルさがない。
 学校に着くと、みんなに驚かれた。担任は目をパチクリするし、遅刻仲間の赤沢には裏切者のような目で見られた。

 二時間目には重大なことを思い出した。

 クラスに小金沢灯里という才色兼備の美人がいる。そう、その時までは、ただの美人のクラスメートだった。

 思い出してしまった。彼女が好きだと、大好きだという自分の気持ちを……味噌汁の効き目はテキメンだった。


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高校ライトノベル・秋物語り2018・19『いったいだれが……』

2018-08-07 06:27:22 | 小説4

秋物語り2018・19
『いったいだれが……』
        

 主な人物:水沢亜紀(サトコ:縮めてトコ=わたし) 杉井麗(シホ) 高階美花=呉美花(サキ)

 ※( )内は、大阪のガールズバーのころの源氏名


 十数枚の写真が目の前にバサリと置かれた。大阪時代の写真だ。


 お店で、お客さんの相手をしている写真……ロングや、アップが、どうやら隠し撮りされたように写っていた。
「これ、わたしじゃりません」
 メイクをしているので、違うと言い張れば、通りそうなものばかりだった。
「わたしは、渋谷の本屋さんでバイトしてるんです」
「今はな。これは去年の夏の写真だ」
 生指の梅沢が、淡々と言う。
「去年は、家出して、一夏北海道の花屋さんにいました」
「それがなあ、送り主は『サトコやトコと呼ばれて、水沢亜紀さんはガールズバーで働いていました』と書いてきてるんだ」
「いったいだれが……?」
「こんなのもある」
 わたしの独り言のような質問には答えずに、梅沢は、別の写真をばらまいた。
 その、十何枚かの写真は、私服で、ほとんどスッピンの写真ばかり。それに、例のサカスタワーホテルに吉岡さんと入る写真、フロントで二人で立っている写真、エレベーターに乗り込む写真が混じっていた。幸い吉岡さんの顔にはボカシがかけられていた。

「これも、わたしじゃありません」

「こんなに、はっきり写っているのにか!?」
 わたしは、雨宮さんが、北海道の友だちに頼んで作ってくれた写真が頭にあった。あそこまで合成ができるんだ。これらの写真を合成と言い張れると思った。
「これは、良くできた合成写真です」
「そこまで白を切るのかよ……」
「事実だからです」
「じゃ、これはどうなんだ!」

 そこに投げ出された、写真は、はっきり合成だと言い切れるものだけど、とんでもないものだった。

「これが一番問題なんだよ!」
 それは、わたしの首に差し替えられた、H本番中の写真だった。
 さすがに、顔が赤くなった。
「動揺したな」
「当たり前でしょ、合成とは言え、こんな写真を見せられて!」
「オレだって、こいつばかりは見せたくなかったよ。でも、お前が白を切り通すから、見せざるを得なかった。さっさと白状しろ。たとえ一年前でも、こればかりは見逃しできねえよ!」
 気づくと、三年の生指主任の大久保まで混じって、シゲシゲと写真を見ている。合成とは言え、屈辱感でいっぱいになった。
「そんなに見ないでよ!」
「水沢、お前、何度もこういうことやってるんだな」
「どういう事よ!?」
「この三枚は表情が硬い。まだ慣れていないころの写真だ……ところが、この一枚は表情が違う。どうだ、この恍惚とした表情は」

 その顔は、自分でも分かる。クシャミをする寸前のわたしの顔だ。タキさんなんかがいっていた。トコのクシャミ顔は、ちょっとエロい。とかなんとか。
「これは、クシャミをする寸前の顔よ!」
「水沢、オレは写真部の顧問で、写真のテクニックには詳しいんだ。着衣の写真と違って、こういう写真は合成がむつかしいんだ。継ぎ目も見あたらんし、光の具合も自然なものだ」
「これって、もうセクハラよ!」
「そんな言葉で、オレたちが怯むとでもおもってんのか!?」

 訴えてやる……その言葉が喉まで出かかった。でも、そんなことをしたら、反対証明もしなければならず、そんなことをすれば、北海道のウソもバレてしまう。
 わたしは、屈辱の一枚を見て、あることに気づいた。

――この体は……麗だ――

 写真の送り人の見当がついた。麗がシホとして、こういう関係になっていたのは雄貴しかいない。

「わたし、胸のこんなところにホクロなんかない、体の線も違う……なんだったら見せようか」
「そんなことまでせんでいい。ただ、お前が事実を認めればいいんだ」
「やってもいないことを……そんなこと認めたら、停学だけじゃ済まない。指定校推薦だって取り消しでしょ」
「当たり前だ、だからお前も必死で言い逃れようとしてるんだろう!」
「脱ぐ。担任の江角と、保健室の先生呼んで!」

 迷惑と困惑が、二人やってきた。

「水沢さん、そこまでやらなくったって……」
 保健室の、今年きたばかりの名前も忘れた女先生が言った。
「学校に縛られんのゴメンなんです。だから、さっさとケリをつけたいの……」
 わたしは上着とチョッキを脱ぐと、ブラウスのボタンに手を掛けた……。

「あの体は、水沢じゃ、ありませんね」

「ホクロもないし……」
 迷惑と困惑の答えだった。
「そ、そんな。ホクロなんていくらでも合成できる!」
「女同士だから、分かるの。亜紀の言うとおり体の線がまるで違うの」
「養護教諭の目で見ても、はっきり言えます。あの体は別人です」
「あんたたち、大変なことさせてくれたわね。保護者に訴えられたら、ただじゃ済まないわよ」

 そう、ただじゃ済まなかった……。

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