大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・妹が憎たらしいのには訳がある・1『再会』

2018-08-27 12:26:39 | ボクの妹

妹が憎たらしいのには訳がある・1
『再会』
    


「土曜日、お母さんと会うからな」

「え………………………………?」


 これが全ての始まりだった。

 俺は、どこと言って取り柄も無ければ、欠点もない(と思ってる)、ごく普通な高校生である。
 通っている高校も偏差値58の府立真田山高校。クラブは、どこの学校でも大所帯の軽音楽部。特に軽音に関心が高いわけじゃない。中三の時、友だちに誘われて、ちょっとだけアコステをやり、校内の発表会に出た。
 バンドというだけで注目だった。どっちかって言うと、そういうのは苦手。ボクは、ただ習ったコードをかき鳴らしていただけ。本番でも五カ所ほど間違ってしまった。とてもアコステをマスターしたとは言えない。でも、観客の生徒はみんなノリノリだった。友だちのボーカルが多少イケテル感じはしたけど、素人のボクが見ていても、ハンパなモノマネに過ぎなかった。

 だから高校に入るまで、そういうのとは無関係だった。中学のアレは、義理ってか、押し切られたとか、まあ、そういう範疇のものだ。

 高校で軽音楽部に入ったのは、とにかく人数が多く、適当にやっていれば、学校の居場所としては悪くないから。
 実質は十人ほどの上級生が独占的にやっていて、ボクたちはエキストラみたいなもんだ。

 でも、それでよかった。

 やったことと言えば、伝統の「スニーカーエイジ」に出場した先輩の応援にかり出され舞洲アリーナで弾けたぐらい。

 そう、一般ピープルと言うかモブして観客席で群れているのが性に合っている。

 だから、入部したときに組まされたメンバーも、そういう感じで、ケイオン命ってんじゃなくて、お友だち仲間というベクトルが強い。お友だちというのは、互いに深いところでは関わらない。他愛のない世間話をするぐらい。
 スニーカーエイジの授賞式で先輩と目が合って「おめでとうございます」と言った時、先輩は俺の名前が出てこず、曖昧な笑顔をしていた。こういうことにガックリ来る人もいるだろうけど、俺は名もないモブであることにホッとした。

 俺は、そういうヌルイ環境が心地よかった。

 さて、本題。

 ボクの両親は、ボクが小学二年の時に離婚した。

 原因はお父さんの転勤だった。

 なにか仕事で失敗したらしく、実質は大阪支店への左遷だった。ずっと東京育ちだったお母さんは、大阪に行きたがらなかった。そして、それよりも左遷されて、自信やプライドを失ってしまったお父さんに、お母さんは嫌気がさしてきたようだった。
 で、あっさりと離婚が決まり、俺はお父さんに引き取られ大阪に来た。一つ年下の妹はお母さんが引き取り、我が家は、あっさりと大阪と東京に別れてしまった。

 それ以来、お母さんにも妹にも会っていない。妹が四年前交通事故で入院した時、お父さんは一度だけ、日帰りで会いに行った。
「大したことはなかった」
 その一言だけで、お父さんは二度と東京にいかなかったし、当然俺も東京には行っていない。
 それが、今朝、ドアを開けて出勤しようとして、まるで天気予報の確認をするような気軽さでカマされた。

「この土曜日、お母さんと会うからな」
「え………………………………?」

 俺は、人から何か頼まれたり命じられたとき、とっさに返事ができない。

 一拍おいて「うん」とか「はい」とか、たいてい同意してしまう。小学校の通知票の所見には「穏和で、友だち思い」と書かれていた。要は事なかれ主義の、その場人間。お父さんに似てしまったんだと思う。この時は、「うん」も聞かずに、お父さんはドアを閉めてしまった。だからだろう、初めて乗ったリニア新幹線の感動も薄かった。

 そして、その土曜、Yホテルのラウンジ。

 目の前に、八年前と変わらないお母さんが座っていた。
 そして、その横には、すっかり変わって可愛くなった妹の幸子が向日葵(ひまわり)のようにニコニコと座っていた。


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高校ライトノベル・メガ盛りマイマイ 15『真空カマイタチキック!』

2018-08-27 07:12:05 | 小説・2

 高校ライトノベル・メガ盛りマイマイ 
 15『真空カマイタチキック!』




 気楽にやればいいじゃないか

 アドバイスとしては間違っていないと思う。

 お友だちとして付き合う。
 そういう括り方で付き合いを承知したんだ。
 だからデートという誘い方をされたら、ちょっと引いてしまうのは理解できる。
 
「でもなあ、男と女が付き合うってのは恋愛フラグが立ったってことことなんだぜ。看板はどうあれ誘われて当たり前じゃねえか」

「だって……」

「嫌ならOKしなきゃよかったんだ。もともと断ること前提だったろ、コクられそうになったら、俺が電話して中断させるって段取りだったじゃねえか」
「だって、断ったら傷つけちゃうじゃんか。同じ学校に居て傷つける傷つけられたなんて嫌じゃん」
「難しく考えすぎなんだよ。何度かデート……いっしょに出かけてさ、やっぱピンとこないってことで自然に解消しちまえばいいことじゃねーか」
「そんなのできないよ、相手が気持ち持ってくれて、いっしょに出かけて退屈とかのフリできないよ、ピンとこない真似なんてできないよ」
「それって、梶山とデートしたら面白いってか、舞自身も乗り気の予感ってことじゃねーのか?」
「え、あ、うん……梶山さんのSNSとかネットに流れてる評判とか、すごくイイってか、素敵だとか思うよ」
「だったら付き合っちゃえばいいじゃねーか」
「ダメなんだよ、最初は、時々の学校の帰りとか月一の休日デートとか……でも、時々が毎日になり月一が毎週とかになっていくの目に見えてる」
「付き合うって、そういうことだろ」
「他のことができなくなってしまう、いまやってることってどれも止めるわけにはいかないから」
「ま、そーだろーけど、この際、整理したらどうなんだ。七つも部活やった上に生徒会に、こないだからはモデルの仕事もだろ」
「それは、わたしの今のキャパでやっていける。どれも、自分自身が努力すればいいことだから。でも、付き合うってのは人間相手なわけだから、予定とかマニュアル通りにはいかない……それに、わたしブキッチョだし」
「あーーーーーーー」
 それは分からんでもない。メールの返事を打つだけでも一晩掛かる奴だ。
「ま、とりあえずは用事があるってことにしとけ」

 もう朝礼のチャイムが鳴りそうなので暫定的な結論にしておいた。

 朝礼が終わると、舞は机の下で隠すようにしてメールを打っていた。目が合うと真っ赤な顔で睨まれたが、とりあえずは解決したようだ。

 手術に臨む前の外科医のような手洗いを廊下で待っていると、舞からメールが来た。
「んだよ……」
 今日の舞はしつこすぎる。
 学校では、俺と舞はただのクラスメート。兄妹だってバレるようなことはするなというのは、そもそも舞が言いだしたことなんだぞ。
「え……うそだろ?」
 メールには突拍子もない提案が書かれていた。

――んなこたーお断りだ!――

 返事を打つと、斜め後ろの女子トイレから殺気を感じた。
 ヤバいと思った時には、後頭部に風が吹き、見慣れた足先がマッハ2の速度で視界の隅を横切った。
「次はまともにヒットさせる」
 必殺仕掛人の脅し文句のようなことを言って舞は遠ざかっていく。

「すまん待たせた……新介、その耳どうした?」
「ん?」

 触ってみると左の耳たぶから血が流れている。

 くそ、舞のやつ、真空カマイタチキックを仕掛けてきやがった!

 

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