大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

真凡プレジデント・20《走り終えたアンカーのように》

2021-03-13 06:29:42 | 小説3

プレジデント・20

《走り終えたアンカーのように》   

 

 

  柳沢が犬に追いかけられている。

 

 一瞬困っているんだろうかと思ったんだけど、どうも様子が変だ。

 犬に詳しくないんで犬種までは分からない、尻尾が巻いているから日本犬の一種なんだろうけど、千切れんばかりに尻尾を振っているところを見ると、柳沢に敵意があるんじゃなくて、どちらかと言うと懐いている?

 むろん柳沢は嫌がっていて、グラウンドを逃げ回っているんだけど、犬は巧妙に柳沢の進路を塞いでいるように思える。

「お、おい、君たち、こいつを何とかしてくれええええ!」

 もうヘゲヘゲという感じで助けを求める。

「これは見ものだわあ(・∀・)」

 綾乃は意地悪くニヤニヤ、まあ、微笑ましいとも思える状況なので、すぐには動かない。

「やれやれ……」

 やがて、なつきが揉み手しながら柳沢と犬の間に入って、グラウンドを半周するうちに捕まえてしまった。

 家が食べ物屋なので飼うことはできないけど、かなりの動物好きなのだ。

 

「いやあ、助かったあ、ありがとう…………」

 

 両手を膝の上に置いてゼーゼー言ってる柳沢。

 もう全身汗みずくで、喘いでいるんだけど、この男は、こういう時でもカッコいい。箱根駅伝をトップで走り終えたアンカーのように、滴り落ちる汗までが健康美のエフェクトになっている。

「しかし、どうしたんですか?」

 とりあえず事情を聴く、なんというか、こういう状況では事情を聴くのが常識だと思うからね。会長になったからには、そいう心配りも必要だと思うのよ。

「犬の飼い主にお詫びに行こうと思ってさ、ずっと拘留されてたから、まずは、そこからと思って」

 柳沢が投げ落とした犬は、後足と肋骨を骨折して動物病院に入院しているのがSNSに投稿されていて、痛ましくも可愛い姿に、世の犬ファンや愛好家から数千の〔いいね〕を獲得している。

「ところが、その飼い主の家の近くまでいくと、隣の家から、そいつが飛び出して来てさ」

「追いかけられて、ここまで?」

「あ、ああ。俺、基本的には犬が苦手でさあ」

「ああ、この子、あちこちに噛まれた跡があるよ!」

 犬を抱っこしていたなつきが犬を捧げるようにしてみんなに見せた。確かに治りかけてはいるが痛々しい傷跡がうかがえる。

「とにかく、それじゃ不審尋問されかねないでしょ、体育科に行ってシャワー借りれるようにしますから、サッパリしてはいかがですか?」

 ようやく笑いが収まったみずきが提案する。

「あ、そうだな。ロッカーから着替えを取ってくるよ」

「じゃ、それまで犬は預かっています」

「甘えるようで悪いんだけど、三丁目の畑中さんて家なんだ、返しに行ってくれるとありがたい」

「え……あ、分かりました」

 ちょっと怯んだなつきだが、わたしが目配せすると、コクンと頷いた。

「じゃ、さっそくみんなで……あれ、みずき?」

  いつのまにかみずきの姿が消えていた……。

 

☆ 主な登場人物

  •  田中 真凡    ブスでも美人でもなく、人の印象に残らないことを密かに気にしている高校二年生
  •  田中 美樹    真凡の姉、東大卒で美人の誉れも高き女子アナだったが三月で退職、家でゴロゴロしている。
  •  柳沢 琢磨    対立候補だった ちょっとサイコパス
  •  北白川 綾乃   モテカワ美少女の同級生 書記
  •  橘 なつき    入学以来の友だち、勉強は苦手だが真凡のことは大好き 会計
  •  橘 健二      なつきの弟
  •  福島 みずき   生徒会副会長
  •  藤田先生     定年間近の生徒会顧問
  •  中谷先生     若い生徒会顧問

 


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