真凡プレジデント・16
朝の食卓、わたしの定位置に座布団が置いてある、それもドーナツ型。
「え、なんで?」
両親は揃って出張なので、置いたのは、起き抜けのスッピンでもわたしよりの美人の美姫お姉ちゃんだ。
「そのまま座ったらオケツ痛いから」
「そ、そう、ありがと……おお」
なるほど尾てい骨が穴に収まって、とても具合がいい。
「ちょこっとだけ政治部にいた時、先輩にもらったの。いやあ、仕舞い込んでたから探しちゃった。ほら、もう一個紙袋にも入ってるから、学校で使いな」
「学校で使うの?」
「学校の生徒机って、尾てい骨骨折すること前提に作られてないから」
「でも、なんかなあ……」
「真凡、今朝座ったのはトイレの便座だけだろ、試しに、そこ座ってみな」
お姉ちゃんが指差した、いつもならお父さんが座ってるところに腰を下ろす。
「ヒエーーーー!!」
お尻を抑えて跳び上がってしまった。
「ね、お姉ちゃんの言ったとおりだろう(^▽^)/」
嬉しそうに言わないでほしい。
学校で使う方は座布団カバーが掛けてあった。
一見しただけでは普通の座布団で、ドーナツの穴の部分が見えないようになっている。
「へーー、会長になると座布団が付くんだあ!」
なつきが、あどけなく感心してくれる。北白川さんは、知ってか知らでかニッコリ笑うだけ。
椅子にセットして気づいた、座布団カバーにはPRESIDENTと刺繍がされている。失業中とはいえお姉ちゃんも暇なやつだ。
今日は放課後に生徒会新役員の認証式がある。
認証式は二回あって、最初のが、今日行われる校長先生からの。二度目は、後日全校生徒の前で行われる。ま、二度目は一般生徒に生徒会の存在を自覚させるためのセレモニーだ。
むろん新執行部による生徒会活動は、今日の認証式から始まる。
―― 二年一組の田中真凡さん、職員室中谷のところまで来てください、繰り返します…… ――
なつきと食堂に行こうと思った昼休み、中谷先生に呼び出された。
「実は、書記の加藤さんと会計の吉田さんが事情で辞退なの」
「え、選挙やったばかりで?」
二人は立会演説でも、わたしよりも強い意気込みで立派な演説をしていた。それが、どうして?
「二人とも急な家庭事情で引っ越すらしいの、今朝早くに電話があって、むろん電話で『はいそうですか』というわけにはいかないから、担任と藤田先生が家まで行ってるんだけどね、もう、引っ越した後で行方も分からないって」
「二人そろってですか?」
「うん、ここだけの話だけど、二人は苗字は違うけど姉妹なの、深い事情は私にも分からない。藤田先生は、もう少し調べてからとおっしゃるんだけど、生徒会を開店休業にしておくわけにもいかないからね」
「それで、わたしに?」
「生徒会規約48条に、任期中に執行部に欠員が生じた場合は、会長が職務権限で欠員補充の者を指名できるとあるの」
「それって……?」
「そこでお願い、放課後までに、あなたの知り合いでやってもらえそうな人、連れてきてくれないかな」
「え、ええ!?」
「声大きい、詰めて話したい……この椅子に座って」
先生は、ガラガラと空いている椅子を据えた。わたしはチョー真面目にまなじりを上げ一文字に口を結んで椅子に掛けた。
ウグ……!
さすがに声を上げることは無かったが、痛さのあまり、みるみる目に涙がうかんできた。
「ごめん、田中あー、負担かけるけど、よろしく頼むわ~」
痛みに耐えきれず、少しでも早くお尻を浮かせたい一心でコクコク頷くしかないわたしだった……。
☆ 主な登場人物
- 田中 真凡 ブスでも美人でもなく、人の印象に残らないことを密かに気にしている高校二年生
- 田中 美樹 真凡の姉、東大卒で美人の誉れも高き女子アナだったが三月で退職、家でゴロゴロしている。
- 柳沢 琢磨 急に現れた対立候補
- 北白川 綾乃 モテカワ美少女の同級生
- 橘 なつき 入学以来の友だち、勉強は苦手だが真凡のことは大好き
- 橘 健二 なつきの弟
- 藤田先生 定年間近の生徒会顧問
- 中谷先生 若い生徒会顧問