ETUDE

~美味しいお酒、香り高い珈琲、そして何よりも素敵な音楽。
これが、私(romani)の三種の神器です。~

シューマン 「謝肉祭」op.9(その1:イェルク・デムス)

2008-08-02 | CDの試聴記
いろいろあって、7月はとうとう一度も更新できずに終わってしまいました。
こらぁ、いかん・・・。
月も変わって8月になりました。
気分一新、頑張ろう!

昨日、シューマンの「謝肉祭」の一節が、どういうわけか一日中頭から離れませんでした。
一節とは、「再会」と題されたあのフレーズです。
帰宅後、気になったので、久しぶりに全曲をじっくり聴きなおしてみました。
うーん、やっぱりいい曲。そして実に面白い!
というわけで、小休止のあとのブログ再開第一弾は「謝肉祭」に決めました。

ディスクは、イェルク・デムスの演奏。
私に多くのことを教えてくれた大切なディスクです。

<シューマン ピアノ全集vol.2>
■謝肉祭op.9
■アルバムの綴りop.124
■アレクシスのためのカノン
■アラベスクop.18
<演奏>イェルク・デムス(ピアノ)
<録音>1970年ごろ




ひとことで言うと、ちっとも華麗じゃないけど、実に味わい深い演奏。
決して「老獪なピアノ」だとか「渋い至芸」ということを言っているのではありません。
むしろ逆で、デムスは、シューマンが楽譜に書き込んだ思いを、一切フィルターをかけないでストレートに描いている。
付点のリズムは鮮烈なアクセントを伴って表現されるし、逆にカンタービレは徹底的に歌う。
大胆なデュナーミクもしかり。ときに、ごつごつした感触になることもまったく厭いません。
それでいて、エキセントリックに響かず、シューマンの音楽が持っている「アジタート」という側面を見事に表現しています。
また、全体に金属的な響きがしないのもデムスの特徴のひとつで、撥弦楽器に例えると、リュートのようなほのかな温かさが感じられます。
そんなこんなで、私は「味わい深い」と評した次第。

さて、具体的にみていきましょう。
「前口上」の冒頭、「パ・パーン」でもなく「パン・パーン」でもなく、「パッ・パーン」とデムスは弾き始めます。その後の音型が「パパーン」と素直にくるだけに、この表現はとくに印象的。「さあさあ、始まりだよ」と、勿体をつけて喋る弁士の顔が目に浮かびます。

続く「ピエロ」は、実は少々苦手な曲。多くの演奏ではここで退屈してしまうのですが、そこはデムス。大胆なコントラストによって、等身大のピエロが生き生きと描かれています。

「オイゼビウス」
これぞまさにソット・ヴォーチェ。デムスは、持てる最高の美音でこの7連符を弾いています。暗く憂鬱なオイゼビウスではなく、控えめだけど、はにかみながら時折見せる笑顔がとっても眩しい青年の姿を、私はそこに見ます。ラスト4小節がとりわけ美しい!

「キアリーナ」
キアリーナとはクララ・ヴィークのことですが、この曲では、付点を伴ったリズムが、下から上に向かって執拗に繰り返されます。
まるで「クラーラ」「クラーラ」と、遠くから切ないまでに何度も何度も呼びかけているようです。
当時、シューマンは、秘かにエルネスティーネと婚約していたわけですが、このときロベルトは、既にクララにより強く魅かれていたのではないかしら。
デムスの演奏を聴きながら、そんな思いにかられました。

「エストレッラ」
こちらは当時フィアンセであった、フリッケン男爵令嬢エルネスティーネ。
キアリーナとは異なり、冒頭から情熱的なフォルテシモで、ストレートに気持ちをぶつけてきます。しかし、あっと言う間に終わってしまうのも、何か暗示的?

「再会」
軽やかで、かつ柔らかな表情に、思わず顔がほころびます。
昨日、私の頭の中で鳴っていたのは、まさにこれです。
このフレーズ、この表現が聴きたかったんだ。
やっぱりデムスは素晴らしい。

「告白」の美しい詩情を経て、「散歩」は一見優雅なワルツです。
しかし、デムスの演奏をよく聴くと、意外に右手の表情がきつい。
そして、1拍目がかなり強調されている。
これは、終曲への準備なんですね。

終曲「ダヴィド同盟員の行進」は、ワルツと同じ3拍子の行進曲。
3拍子で行進するのは大変だと思いますが、この終曲の力強さを導くために「散歩」で、わざわざ徐々に緊張感とある種のきつさを感じさせるようなアプローチをしたんじゃないでしょうか。
さすがでございます・・・。

ただ、こんな名曲だから、もちろんデムス以外にもたくさん名演奏があります。
次回は、他のディスクのご紹介を。


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