ETUDE

~美味しいお酒、香り高い珈琲、そして何よりも素敵な音楽。
これが、私(romani)の三種の神器です。~

サン=サーンス:クラリネットとピアノのためのソナタ 変ホ長調 作品167

2008-11-05 | CDの試聴記
「ある秋の日、草原の陽だまりの中で、子供たちの遊ぶ姿を見ているような音楽。」

サン=サーンスのクラリネットソナタを初めて聴いたときの私の印象です。
この曲をまだ聴いたことがない方がいらっしゃったら、ぜひ第1楽章冒頭の1分間を聴いてみてください。
きっと分かっていただけると思います。
そして聴き進んでいくと、それが、どこかレトロな回想シーンのように感じられませんか?
それも、そのはず。
このソナタはサン=サーンスの最晩年(=死の年)の作品なのです。
この年、サン=サーンスは3曲の管楽器のためのソナタを書きました。
オーボエソナタ、バソンのためのソナタ、そしてこのクラリネットソナタです。
いずれも名曲として知られていますが、冒頭から忽ち聴き手を虜にしてしまうような自然で明るい雰囲気が共通しているでしょうか。

このクラリネットソナタは、一度聴いたら忘れられないくらい魅力的な表情で始まります。
そして、はしゃぎ回る子供の姿が見えてくるような第2楽章を経て、深い感動を呼ぶのは第3楽章のレント。
このピアノの強く重い低音は、いったい何だろう。
今までまったく見せなかった重苦しい表情。
そして、すぐにクラリネットも加わり、同じように低音域で強く何かを訴えます。
慟哭?
上方に向かって駆け上がるピアノのアルペッジョがクライマックスを築いたあと、今度は、クラリネットが音を高音域に上げて、淋しくも儚い調べを奏でます。
そのクラリネットが奏でるフレーズの最後の音を引き取るかのように静かに弾かれるピアノのアルペッジョ。
このアルペッジョが、震えるほどに美しい。

終楽章は、とても明るい音楽だけど、私には「手に届きそうで届かないものを求めて、懸命に駆けている」姿が思い浮かびます。
「生き生きとして・・・」というよりも、むしろ空虚な感じでしょうか。
そして、最後に第1楽章のテーマが戻ってきて、このソナタは静かに終わります。

このディスクで瑞々しい演奏を聴かせてくれるクラリネットの名手ポール・メイエは、このとき20代半ば。
この録音がデビュー盤だそうです。
エリック・ル・サージュとの息もぴったり。
素敵な名盤だと思います。

そういえば、来年2月に、このコンビの演奏を実際に聴くことができます。
デビュー録音から約20年の歳月を経て、はたしてどのように成熟した演奏を聴かせてくれるのでしょうか。
今から楽しみです。

<曲目>
■サン=サーンス:クラリネットとピアノのためのソナタ 変ホ長調 作品167
■ショーソン:アンダンテとアレグロ
■ドビュッシー:小品/ドビュッシー:ラプソディー 第1番
■ミヨー
 クラリネットとピアノのためのソナチネ 作品100
 クラリネットとピアノのためのデュオ・コンチェルタント 作品351
 カプリス 作品335a
■プーランク:クラリネットとピアノのためのソナタ
■オネゲル:クラリネットとピアノのためのソナチネ
<演奏>
ポール・メイエ(クラリネット)
エリック・ル・サージュ(ピアノ)
<録音>1991年4月23~25日 フランクフルト、フェステブルク教会


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6 コメント

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エンマ・ジョンソン (calaf)
2008-11-12 23:42:21
少しご無沙汰しております。エンマ・ジョンソン(asv)で何度か聴いておりますが、サン・サーンスにクラリネッットはとても意外な楽器です。

ブラームスを例に出すまでもなく、人生の黄昏時にクラリネットの音色がよく合うのでしょうか。

大作曲家の隠れた名曲かもしれませんね。
返信する
>calafさま (romani)
2008-11-13 23:48:11
こんばんは。

私のほうこそ、ご無沙汰してしまい申し訳ありません。
サンサーンスの最後の3つのソナタは、本当に素敵だと思います。
エンマ・ジョンソンのディスク、私も持っていますが、とってもいい演奏ですよね。
温度感が好きです。

クラリネットは完成度の高い楽器だと思いますが、ブラームスといいウェーバーといい、なぜか「秋の名曲」?が多いように思います。
そのせいでしょうか、ここ数日はウェーバーのクインテットにはまっております。(笑)
返信する
最後の年の3つのソナタ (木曽のあばら屋)
2008-11-23 23:29:57
こんにちは。
サン=サーンスの3つの管楽器ソナタは、
どれも素晴らしいですね。
簡潔でありながら無駄のない成熟した音楽は、
巨匠の晩年ならではの味わいといいますか。。。

ご紹介のメイエのCD,私も持ってますが、
若々しくてよい演奏ですね。
返信する
>木曽のあばら屋さま (romani)
2008-11-25 00:39:18
こんばんは。

ようこそ、おいでくださいました。
最近、サン=サーンスの音楽を聴くことが多くなりました。

>簡潔でありながら無駄のない成熟した音楽は、巨匠の晩年ならではの味わいといいますか・・・
まさに、仰るとおりです。
特別のことをしているわけではないのに
、自然に魅かれていく不思議な味わい。

「秋はブラームス」と決めていたのですが、今年は浮気しそうです。(笑)
ありがとうございました。
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はじめまして (asdf)
2009-03-13 15:21:45
今回、初めてお伺いしました。
サン・サーンスのクラリネットソナタ。名曲だと思います。
私は、この曲は、彼が自分の家族のことを回想して書いたのではないかと思っています。(個人的に)
彼は、あまり家族に恵まれず、二人のお子さんは早くに亡くなり、その後奥さんともうまくいかなかったそうで・・・。
(一般的には、この事実とこの曲を結びつけない人が多いようです。)
自分自身、今度この曲を演奏するのですが、何回聴いてもいい曲だと思っています。
長くなって申し訳ありません。
返信する
>asdfさま (romani)
2009-03-14 22:23:26
こんばんは。

ようこそ、おいでくださいました。
>この曲は、彼が自分の家族のことを回想して書いたのではないかと思っています。
なるほど・・・。
実は、私も漠然とですが、同じように感じておりました。asdfさまのコメントを拝読させていただいて、亡くなった子供さんのイメージが脳裏をよぎり、思わずはっといたしました。

>今度この曲を演奏するのですが・・・。
そうでしたか。でも、こんな素晴らしい曲を演奏できるなんて、羨ましいです。
コンサートのご成功お祈りしております。
今後とも、どうぞよろしくお願いいたします。
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