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心に映りゆくよしなしごと書きとめどころ

戦場に散った球児たち 「中央公論」か「改造」を送ってくれ。

2013-08-18 03:39:14 | 歴史を考える
 お盆が過ぎ、夏の甲子園も佳境に至ると、さすがの猛暑にも幾分の和らぎが見られ、青田の上を飛ぶアキアカネもまだじゅうぶん色づいてはいないとはいえ、季節の移ろいを予感させます。ましてや夜半、不意に足元から虫の音などを聞くに及び、夏の挽歌を聞く思いがします。

 さて、それはさておき、昨17日の夕刻、CBCTVでは、戦前、甲子園の名門といわれた私の母校県立岐阜商業のエースだった松井栄造氏に焦点を合わせて、彼が戦場に散るまでの経緯を、彼の当時を知っていた(当然高齢者ばかりです)人たちのインタビューを混じえて番組を構成していました。

 さて、ここで、当時の私の母校がいかに強かったかを記してみましょう。
 夏の大会では1936年(昭11)に全国制覇、38年(昭13)には準優勝。? 選抜に至っては、1933、35、40(昭8、10、15)年に優勝し、その間、39(昭14)年には準優勝をはたしています。

         

 その中心にいたのが、彼のドロップは三尺(90センチ)落ちるといわれた松井栄造氏でした。彼は卒業後早稲田に進んで神宮でも抜群の活躍をするのですが、卒業後兵役にとられ、中支で戦死しています(1943年=昭和18年5月28日、中国湖北省の宜昌県桃家坊で頭部貫通銃創で戦死。享年24)。

 なお、当時の、岐阜商業野球部後援会長の遠藤健三氏の妻道子氏は、自分の子供がいなかったせいもあって松井栄造を我が子のように可愛がり、彼に関してこんな歌を残しています。
  
  よろこびの言葉かくればうつむきて涙ぐみをり少年松井は(1933)
  炎天下の球を追ふ子のユニフオームにお守袋しかと縫ひつく(1936)
 
 そしてこの道子氏は、松井氏の戦死に際し、彼の実家に弔問に行ったきり行方不明になっているのです。これについては今尚、明確に書かれたものはありません。

         
                 献花1 芙蓉

 彼を含めて、当時の優勝メンバーのうち5人が戦病死をしています。
 ・加藤義男 ラングーン郊外の車両事故で即死  42・12・13
 ・加藤三郎 神風特別攻撃隊第一正統隊員として出撃し戦死。 45・4・6
 ・近藤清 神風特別攻撃隊第三草薙隊員として出撃し戦死。  45・4・28
 ・長良治雄 沖縄へ弾薬を輸送中、米軍機の攻撃を受けて戦死。45・5・25

 なお、松井栄造氏に関し、その遺書めいた書を彼の筆跡で見たことはあるのですが、今回、家族にあてたはがきの存在を初めて知りました。それによれば彼は、「中央公論」か「改造」、あるいは「文藝春秋」を送ってくれと依頼しているのですが、それらはついに届かななったようです。最後の彼のはがきは、いくぶんイライラした様子で、これまで出したはがきへの返事がないのはなぜかと、詰問調のものです。

 家族は、実際には彼の要請に応じてそれらを送ったのかもしれません。
 しかし、これらの雑誌、とくに前二誌は当局の激しい弾圧と検閲により、かろうじて発刊されていたものの、海外への流出は不可能だったと思われます。
 事実、松井氏が要請した1942年には、「改造」は掲載されたものが共産主義的であるとして弾圧を受けています(横浜事件の発端)。そして、1944年には両誌ともに廃刊処分となっているのです。
 私は松井氏が、それらを所望した知的ポジションに改めて関心を掻き立てられるのでした。
 私が在校中、よく聞かされた「文武両道」という言葉が、実際に生きていたのかもしれません。

         
                 献花2 昼顔

 番組に戻るのですが、ここに出てくる松井氏と関連がある方々はおしなべて、「だから戦争は決してすべきではない」とコメントするのですが、その間に差し挟まれる若い人たちのコメントは曖昧な点が多く、お国のために戦場に出かけることを肯定するかのようなものもありました。

 私の若いころ、まだまだ戦前の価値観をもつ人たちが多く、私は不遜にも、この人たちがいなくなったら本当に平和で民主的な時代が来るかもしれないと思ったものでした。しかし、そうではありませんでした。むしろ現今の若い人たちの方にはるかに好戦的で近隣諸国への敵対的なコメントが目立つのです。
 私も某所で、お前のような老人が早くくたばらないと、日本は本当に強い国にはなれないんだといわれました。
 ですから、もう少し頑張って生き続けたいと思います。
 そして、松井先輩の無念を私なりに引き受けたいと思っています。


コメント (1)
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