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生活保護受給へのネガティヴ・キャンペーンに抗議します。

2012-05-18 00:10:07 | 社会評論
      写真は本文とは関係ありません。

 お笑いコンビ「次長課長」の河本準一氏の母親が生活保護を不正受給しているのではないかというニュースが週刊誌などで面白おかしく報じられ、その尻馬に乗って世耕弘成や片山さつきといった参議院議員が国会でもとりあげる動きを見せているそうです。
 それに対し吉本興業から、生活保護を受けていたのは事実だがそれは河本氏が無名時代であり、現在は受給しておらず、不正受給ではないと反論のコメントが出されました。

       

 こうした事態のなかで、本来はもっと注目さるべき問題が見過ごされていて、そちらの重要性が完全に隠蔽されたり歪められたりしていることに激しい怒りを禁じえません。

 そのひとつは、メディアが不正だと確定しないままに、誰それが生活保護を受けているというプライヴァシーに属する問題を公然と報じ、国会議員までが軽率にもそれに乗って非難中傷の片棒を担いでいるということです。

 それ自体が問題なのですが、さらに重要な問題があります。それは時折見かけるこうした「不正」受給を面白おかしくとりあげる報道が、本来、生活保護を受ける権利を持つ人たちを抑圧するネガティヴ・キャンペーンになっているという事実です。

       

 あらためて言うまでもなく、この競争社会、格差社会において、経済的困窮に追い込まれる人は次第に増加しつつあり、そうした人達へのセーフティ・ネットとして生活保護はあります。
 それは、そうした人たちの個人としての責任ではなく、そうした人たちを一定の割合で必然的に生み出す現実においては、その受給は当然の権利としてあるべきものなのです。

 しかるに、この国の生活保護の受給実態はどうでしょうか。国が定めた受給資格によるその対象となる人々のうち、実際に受給している人の割合を「生活保護の捕捉率」というのですが、この国のそれは、近年増加しつつあるといわれているものの、それでもわずかに20%なのです。
 ようするに、生活保護を受ける資格のある人のうち、五人に一人しか受給していないのが実情なのです。
 この数字がいかにひどいものであるかは、イギリスの捕捉率が90%、アメリカのそれが75%であることからしても歴然としています。

 なぜこんなことが起きるのでしょうか。
 それはひとつには貧困を自己責任とする全く誤った考え方があります。格差がますます激しくなる現状が示すように、国民の一定数は貧困たらざるを得ないというのが現実なのだということに思いが至らない考え方です。
 にもかかわらず、そうした自己責任論が幅を利かせ、その影響は受給資格者にまで及んでいるのです。

       

 さらには、実際の受給に関しても問題があります。厳しい監視の目でチェックされ、買い物や預金、子供の塾通いまで問題視されます。ようするに、自由と引換えにしか受給できない仕組みなのです。
 ですから、その資格があるにも関わらず申請すら行わない人たちが多くいます。そしてその結果として病気の治療も受けられないままの孤独死や、親の白骨とともに暮らし続けるというグロテスクな事態も生まれます。

 それに加えて今回のようなネガティヴ・キャンペーンです。メディアは不正と思われるもののバッシングには牙をむくのですが、上に述べた受給の捕捉率の問題をいっさい伝えようとしません。国会議員たちはもちろんこの事態に責任がるわけですが、それを是正するどころか自らの売名のためにこのネガティヴ・キャンペーンの先頭に立つ始末です。

       

 もしそこに不正受給があったとしたら、それを告発することを否定するわけではありません。しかし、メディアはそれを報じると同時に、受給資格者でありながら受給していない80%の人たちに対し、その権利を行使し、悲惨から抜け出るよう呼びかけるべきなのです。
 それを棚上げした今回のようなネガティヴ・キャンペーンは、受給資格を持った人びとに対し、その門戸を閉ざす役割しか果たさないことは明らかです。
 
 なお、最後に申し添えますが、生活保護などのいわゆる福祉は、その対象者以外の人による「憐憫」の対象ではないということです。それは、既に見た現状からして、その人たちの正当な権利であり、その権利の行使を憐憫としてではなく、その正当性において承認することは、この社会をこのようなものとして維持し続けている私たち全員が果たすべき義務なのです。
 

コメント (13)
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