六文錢の部屋へようこそ!

心に映りゆくよしなしごと書きとめどころ

馬の話で思い出す歌とそれにまつわるエピソード【1】

2012-05-02 15:54:35 | 想い出を掘り起こす
 馬の話が二回続きました。
 その最後に、それらを書きながら頭をよぎる一つの歌があることを何やら思わせぶりに書いておきましたが、それは読む人の興味を繋ぐためのレトリックではありません。
 事実、そのメロディが頭の中をグルグル巡っていたのでした。

 それは「めんこい子馬」という歌で、私が4、5歳の頃から知っていて口ずさんでいたと思うのです。改めて調べてみると、その歌が作られたのは1941年(昭和16年)で、その歌に関わった人たちは以下のようです。
  
    作詞:サトウハチロー、作曲:仁木他喜雄
    唄:二葉あき子/高橋祐子(童謡歌手)


 とても親しみやすい歌で、しかも対象がお馬さんときて、子供の私もけっこう気に入って歌っていたものでした。

 しかし、後年、この歌がそれなりのリアルな歴史を経てきたこと、しかもこの歌に登場する馬が実在していて、それ自身激動する歴史のうちで数奇な運命をたどったことを知って、前ほど素直に歌えなくなったのも事実です。

                

 まず、この歌ですが、1946年(昭16)に封切られた東宝映画『馬』(監督:山本嘉次郎、助監督:黒澤明、主演:高峰秀子)の主題歌として作られたものでした。その映画ですが、ようするに戦場へ送り出す軍馬を育てる内容で、「陸軍省選定」とあり、冒頭には当時の陸軍大臣・東条英機の推薦文が付いていたそうです。
 私は見ていませんが、そうした背景を持っていたにも関わらず、その内容はさほど軍事色が強いものではなかったようです。
 また、当時、山本嘉次郎監督が色々掛け持ちで多忙だったため、ロケシーンなどの大半は助監督だった黒澤明が撮ったともいわれています。

 さて、その歌詞ですがオリジナルはこうでした。
 
 (一)ぬれた仔馬のたてがみを 撫でりゃ両手に朝の露 
    呼べば答えてめんこいぞ オーラ 掛けて行こうよ丘の道 
    ハイド ハイドウ 丘の道
 (二)藁の上から育ててよ いまじゃ毛並みも光ってる 
    お腹こわすな風邪ひくな オーラ 元気に高くないてみろ
    ハイド ハイドウ ないてみろ
 (三)紅い着物(べべ)より大好きな 仔馬にお話してやろか
    遠い戦地でお仲間が オーラ 手柄を立てたお話を
    ハイド ハイドウ お話を
 (四)西のお空は夕焼けだ 仔馬かえろかおうちには
    お前のかあさん待っている オーラ 唱ってやろかよ山の唄
    ハイド ハイドウ 山の唄
 (五)明日は市場かお別れか 泣いちゃいけない泣かないぞ
    軍馬になって行く日には オーラ みんなでバンザイしてやるぞ
    ハイド ハイドウ してやるぞ

 これで見ると(三)、(五)には戦時歌謡の烙印がしっかり押されれています。

          
 
 しかし、この歌は敗戦後にも童謡として歌い継がれました。
 その折の歌詞は以下のようです。

  1 ぬれた仔馬のたてがみを?    
    なでりゃ両手に朝のつゆ?    
    呼べば答えてめんこいぞ オーラ?    
    かけていこうかよ 丘の道? ハイド ハイドウ 丘の道
  2 わらの上から育ててよ?    
    今じゃ毛なみも光ってる?    
    おなかこわすな 風邪ひくな オーラ?    
    元気に高くないてみろ? ハイド ハイドウ ないてみろ
  3 西のお空は夕焼けだ?    
    仔馬かえろう おうちには?    
    おまえの母さん まっている オーラ?    
    歌ってやろかよ 山の歌? ハイド ハイドウ 山の歌
  4 月が出た出た まんまるだ?    
    仔馬のおへやも明るいぞ?    
    よい夢ごらんよ ねんねしな オーラ?    
    あしたは朝からまたあそぼ? ハイド ハイドウ またあそぼ

 ようするに、元歌の(三)、(五)がともにカットされその(四)が新しいものの3になり、新たに4が書き加えられたのです。
 それによって新しい歌は、朝、昼、夕、夜と時間系列に沿った歌に生まれ変わったのです。

 で、私はというと、そんなマジックが施されたなどとはつゆ知らず、最初は元歌で覚え、国民学校一年生で敗戦を迎えた後は新しい歌詞で歌っていたのです。
 そこに何の違和感も感じなかったのは、単純に最初覚えたものが間違っていたのだと思い込んでいたからでしょうか。

               

 さて、この話は実はこれで終わりではなく、映画と関連するもう一つの物語が絡んでくるのですが十分長くなりました。続きは次回にするとしてここらで一息入れて、歌を聞いてみましょう。
 最初のものはオリジナルで、映像はレコードが回っているもののみです。
 それを見つめながら聴いていると目が回りますから注意してください。

   http://www.youtube.com/watch?v=casUFefi9lo

 続いてのものは歌手が変わっていますが、そのかわり軍事色が溢れる映像がはいっています。歌詞は(四)までしかありません。

   http://www.youtube.com/watch?v=2b_UiixaVAA&feature=related
 
 続きは近日書きます。

  
 
コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする