六文錢の部屋へようこそ!

心に映りゆくよしなしごと書きとめどころ

旅に出るということ

2011-05-29 03:53:28 | ポエムのようなもの
      旅 

  旅  

  地図と版画が好きな少年にとって
  世界は格好の好奇心の的だ
  ランプの光の中では大きく見え
  記憶の目には小さく見える

  ある朝我らは船出する 頭をほてらせ
  心中には憤怒と 苦い欲望を抱きながら
  波の脈動にまたがって我らは進む
  有限な海の上で無限の思いを揺らめかせつつ

  ある者は忌まわしい故郷を捨てることを喜び
  ある者は恐ろしい親から逃れることを喜ぶ
  またある者は星占いをしながら女の目の前で溺れ
  外の者は危険な匂いを立てるキルケを演ずる

  豚に変えられてしまわないように みな
  空間と光と燃えさかる大気の中に飛び出す
  氷にかじられ 太陽に焼かれ
  接吻のあとも次第に消える

  だが本当の旅人とは旅のために旅する人
  心も軽く 風船のように
  旅の行き先などとんと無頓着で
  わけもなくただいうのだ 進んでいこうと

  欲望をむき出しにして 移ろいやすく
  不確かだがすさまじい快楽を夢見る
  まるで戒律を書き集めるかのように
  そんな人間を何と呼んだらいいか 誰も知らない  

 
 これはご存知ボードレールの唯一の詩集『悪の華』の最後を飾る詩です。
 そしてこの詩を最後に彼は旅に出ました。
 ボードレールほどの人ですから、幾多の訳詩があります。
 まったく無責任で申し訳がないのですが、ネットからの引用で上の訳詩者がだれのものかは知りません。
 そのなかでも最後から二番目が私の好きなフレーズなのですが、下に記した訳詩のほうが私にはぴったりするのです。
 その私のお気に入りがだれの訳詩かもわかりません。
 私の古~い手帳にこのフレーズのみが記されていたのです。
 手帳を処分しようとして偶然見つけました。
 
   だが、真の旅人はただ出発するために出発する人々だけだ
   心は軽く、気球にも似てその宿命の手から離れることはついになく
   なぜとも知らずにいつもいうのだ
   ”行こう”と

  
 そしてその詩の横には、フランス語でこんな文句も書き連ねてありました。

   Qu'est-ce que l'il ya?

 私はその時、何を考えていたのでしょうね。

コメント
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