イエローフローライトを探して

何度も言うけど、
本当にブログなんかはじめるつもりじゃなかった。

糸が逢うと書いて

2010-09-26 19:59:37 | 朝ドラマ

25日放送の『ゲゲゲの女房』最終話、源兵衛さん(大杉漣さん)葬儀後の一族近親者勢揃いの昼食に、不慮の事故で早世した貴司さん(星野源さん)の妻・満智子さん(長澤奈央さん)が、布美枝さん(松下奈緒さん)ほか飯田家女性陣と席を並べて故人をしのぶ列に加わっていたのは、何とはなしホッとしましたね。

貴司さんは満智子さんの及川家に婿養子の形で入って結婚、及川姓になってから亡くなったので、及川家のお墓に入り位牌もあちらにあるのでしょうけれど、貴司さんをとりわけ可愛がり、一時は家督を継がせようとまで考えていた父親・源兵衛さんのお葬式には、満智子さんは駆けつけてくる。再婚相手らしい人の姿は見えなかったので、ひとりで家業のミシン店とお子さんたちを守っておられるのでしょう。生前、貴司さんが村井家を訪れたとき「子供やち」と複数形で言及されていたところからすると子宝には恵まれたようで、お子さんたちの成長が心の支えになったか。

磯釣りの帰途波にさらわれての災難で、あれからドラマ時制でざっと14年ぐらい。お子さんたちもすでに成人されたか、大学生ぐらいになっているかもしれませんが、優しいお父さんが帰らぬ人になってしまってから、しばらくは好物の岩海苔が食べられなかったのではないかな。

ミシン店と言えば、月河の地元には有名な、昭和初期に誕生した老舗ミシン専門店が、中心街の一等地でいまだ盛業中です。設定昭和7年生まれの布美枝さんよりもだいぶ“お姉さん”。創業時はオリジナルのミシン製造と卸・小売一貫体制だったそうですが、現在は家庭用・業務用、国内全メーカーのミシン販売・修理専門に特化。お店の近くには服地店、釦・ファスナー・縫い糸など洋裁手芸用品専門店もあり、月河の同世代で家政学科や被服生活科、服飾デザイン専門学校などに進学した友人たちには“聖地”みたいな一画になっていました。

月河は小学校時代から授業の家庭科で宿題が出るともっぱら実家母に出動要請していたクチなので、あまり縁がありませんでしたが、「縫って何か作ろうと思ったら、あのお店に行けば何とかなる、何でも揃う」という、地域での長年の専業にもとづく信頼感は格別のものがあるようで。

劇中、貴司さんの東京出張来訪は確か昭和47年、「最近は安い既製服が出回って、家庭用ミシンが売れなくなった」と貴司さんも嘆いていた通り、布美枝さん世代が戦後、花嫁修業し、主婦になり母親になった頃の洋裁熱が一巡するとたちまち頭打ちになった業界ではあるのです。とにかく昔のミシンはモノが頑丈なので、一度買ったらなかなか、次を買わなければならないほどの壊れ方をしない。本格的に壊れた頃にはシャツもブラウスもスカートも、“お母さんが夜なべして縫うより、既製品を買ったほうが安いし速いしナウい(←死語)”が常識の、大量生産の時代になっていた。

しかし逆転の発想。パイが縮小すれば同業他店が次々廃業、転業するのは当然の流れですから、そこで孤塁を守って専業を死守すれば、逆に“地域でたった一軒”“この地域で○○と言えば、あそこにしか置いてない”“○○が欲しい人は全員あの店へ行く”貴重な存在になることもできる。上述の当地老舗も、近隣の生地屋さんやオーダーサロン、百貨店のお直しサービスはもちろん、カルチャーセンター・文化教室にも営業しているそうで、当地中心街でも有数の高額地価と思われるロケーションで、しっかり自社ビルを持ち盛業中。

時代の先端と思える業界、たとえばTV番組制作会社や映画撮影所の衣装さん、美術さん、スタイリストさんなんかも、意外とミシン、活躍させているらしいですね。手っ取り早い例で言えば『ゲゲゲ』自体でも、ヒロイン布美枝さん、夫役しげるさん(向井理さん)の劇中衣裳は、協力店のレディメードの借り受けではなくスタッフさんの手縫い、手編み、手洗い、手干しで“昭和感”“生活感”を出していたそうです。

…まあ主役おふたりの身長と裄の長さなどをイメージすると、確かに、既成じゃ間に合わないのは歴然。

アクションが多く、ひとつのコーディネートで何シーンも撮る特撮ヒーロー番組でも、予期せぬ綻びや損傷に備えて、衣装さんは現場でポータブルミシン常備でスタンバっているという話も聞きました。

人間が服を着て生活する限り、縫ってモノを作る機械がこの世から要らなくなることはありません。好き合って一緒になったお婿さんに逝かれてしまったのは残念でしたが、満智子さん実家も荒波を乗り越えて、「安来でミシンなら」と言われる地域一番店として踏ん張ってほしいものです。

………虚構のお宅の家業に何を熱くなってるんだか。

最終話、「村井さん、私は布美ちゃんとの結婚、反対しとったんですよ、すみませんでしたね」と輝子叔母さん(有森也実さん)の、もう時効みたいなカミングアウトをしおにユキエ姉ちゃん(星野真里さん)の「私ら(=飯田姉妹)みな、お父さんに婿さん決められたようなもんだったけど、こうして幸せにやっとる」は、そのお父さんの反対を押し切って貴司さんを婿に取り、不本意にも未亡人になってしまった満智子さんを隣に置いてちょっとキツいのでは…と思いましたが、逆に考えれば、それだけ気のおけない会話のできる交流が続いているということでもあるか。

子供をもうけると、夫に万一の事態があっても女性は強いし、他家に婿に出したとは言え、貴司さんの子たちなら源兵衛さんも分け隔てなく、会う機会があれば満智子さんともども可愛がってくれたことでしょう。脳梗塞を発症する直前まで、『ゲゲゲの鬼太郎』の三度めのアニメ化放送開始を「及川さんの所(←すでに貴司さんは亡い)にも連絡したか?」と気づかっておられましたしね。

………穿ちすぎな見かたをあえてすれば、及川家への連絡に思い及んだとき“昔、喜子に頼まれて鬼太郎の家を作って送ってやっていたぐらいだから、貴司がどんなに喜んだか”“見せてやりたかったのに”の無念が一瞬、脳裏をよぎり、発作を誘発した…なんてことも、なくはなかったりして。

気丈な源兵衛さんは倒れられてからも病床でラッパを吹きながら1年頑張りましたからね。あちらで貴司さんに再会しても「おまえに呼ばれて来たわけではなぁぞ」と意気軒高でしょうな。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする