餃子党で餃子ラーメン党で餃子カレー党だから言うわけじゃありませんが、いくら中国産食品が怪しいと言ったって、いまのいま、突然、俄かに危険になったわけではないでしょう。突然炎のごとく。それはフランソワ・トリュフォー監督。ジャンヌ・モロー。あと誰出てたっけ。忘れました。
クチに入るモノ以前に、衣料品、特に肌着・下着、雑貨、バストイレタリー用品でも20年以上前から“製造加工コストが安いから”を理由に中国で生産されたものはたくさんあり、普通に売られ買われていましたが、別に中国産に信頼感や安心感があったからずっと買われ続けていたわけではないと思う。
設計デザインやレシピを企画し発注していた我らが日本メーカー、選んで仕入れて店頭に並べていた我らが日本の流通・小売店への信頼あったればこそ、日本の消費者は買っていたはずです。中国で作ろうがどこで作ろうが、日本の有名メーカーの商標つけて、日本の有名大手店で売られていれば、何かあればクレーム先は中国大使館ではなく、日本のメーカー、日本の小売店のはず。「あの有名メーカー、有名店なら、クレーム来るような製品・商品に自分の商標付けて売ってないだろう」という安心感が、“企画日本・製造加工中国”製品の安定した出荷と売り上げを支えていたのです。
まあね、ちょっと軽く中国の工場労働者の立場になってみましょうよ。「この工場に発注するのは、工賃が安いからだ」なんて小耳に挟んだ日にゃ、月河だってメタミドホスのひとハケやふたハケ…はいくらなんでも極端だけど、10ヶに1ヶぐらいは鼻クソ混ぜてやりたくなるね。工賃が安いってことは、働く自分らの給料が安いってこと。金持ち先進国ファッキン!ですよ。ファッキンて中国語でどう言うんだ。不惑金?不握勤?暴走族みたいだな。よくわかりませんが。
貧しき労働者の群れを侮るなかれ。工賃労賃の安さを当て込んで、経済水準の低い、ゆえに民度も労働モラルも低い国に生産拠点をむやみに移すとこういうリベンジ、いや故意か過失か偶然かまだわかりませんが、そういうものを食らうリスクもあるってことです。「中国産食品、安心して買えますか?」なんて今頃になってスーパー店頭でインタビューなんかしたって時間の無駄。
要するに日本のメーカー、日本の流通小売業が、「どこの国で製造しようが、本当に自分の会社の、店の商標背負わせて誇りを持って売れる製品商品しか作らない、仕入れない、売らない」という鉄のごとき信念があるかどうか、これに尽きる。
中国産の信頼性有無を問うたついでに、北京五輪で選手村のメシ食えるのかとか、意味無いとは言わないけど、どんどん論点がズレていっている。根源は日本国内、どこまでも日本国内。古い暖簾の老舗が平気で賞味期限や原産地原材料を偽装して、パート従業員の内部告発で露見して慌てるような日本国内の商業道徳の空洞化の延長線上にこそ、毒入り餃子問題もあると思います。
『安宅家の人々』は昨日11日(火)が第47話。仁美(宮下ともみさん)が興信所使ってまで探し出してきた宇田川母・さき改め華道家吉野美咲(山本みどりさん)、いまさら出て行った家に用もないだろうと思いきや、家出の理由は夫(深水三章さん)の安宅夫人(一柳みるさん)への無償の愛に嫉妬し、高原ホテル閉鎖を機に安宅家での職を辞して家族4人で引っ越そうと提案するも拒否され、ならばいっそ安宅夫人を…と庖丁を持ちだしたところ夫に止められもみ合った挙句のことだったと告白。
もちろん夫と安宅夫人の間には何もなく、夫のプラトニックな、言うなれば片思いで、しかも妻と娘たちとの生活を壊す意志も毛頭なし。それでも妻さきは、夫である男の“純粋な思い”が、別の身近な女性に寄せられていることが我慢できなかった。「いっそ不倫でもしていてくれたら、泣いてわめくこともできた」という言葉は重い。
“浮気はいいけど本気はいやよ”なんてことをよく言いますが、子育てや家事に追われる主婦は、夫の男としての騎士道ロマンな部分が他の女性に傾けられていると知っては、“じゃあ私は何のための糟糠まみれなの”と思ってしまうでしょう。
しかし心までは縛れない。
夫は妻の庖丁を手放させようとつかみかかって腕に負傷しましたが、それは安宅夫人を守るためではなく、妻を、娘たちの母を、殺人者にしないため。娘たちを人殺しの子にしないため。妻はそれに気がついたときにみずから家を去って行きました。
“夫は自分を慕いリスペクトしてくれてはいるけど、男としての心が別の女性にある”という状況は、そっくり現在の久仁子の相似形です。さきのいまさらな高原ホテル帰還は、かつての自分の苦悩と真意を打ち明けることで、久仁子に久仁子自身の直面する問題の輪郭を「要するにこういうことでしょ」と縁取って見せる意味があったよう。
このドラマに示唆されるまでもなく、異性に生臭く燃えたり逆に異性をねっとり惹きつけたり、あるいは自分の惹かれる異性が、別の同性にロマンティックな想いを抱いていると知ると本気で妬いたりする、所謂恋愛体質の濃厚な人は、家族・家庭重心の人生は向いていません。
家庭と恋愛は、本質的に利害が対立する。本気恋愛から結婚して家庭を築き家族を作ろうと思うなら、男も女も恋愛体質はどこかに封印するか、それが不健康なら仕事(女なら出産・子育て忙殺がベスト)や趣味で、ある程度消耗させ希釈しドスドス踏み固めておく必要がある。同様に思春期の少年や少女が本気の恋愛に目覚めたら、それは親きょうだい・家族からの訣別と自立のための、絶好の分岐チャンスと捉えるべき。
このドラマの登場人物たちは、家族が大切、家族が一番と言いながら、どこか湿っぽく甘ったるく、恋愛体質の“汁”がじゅくじゅく滲み出している。久仁子も雅子(小田茜さん)も子供を望みながらかなわないでいることがいちばん大きな原因かもしれませんが。
公式設定ではホテル従業員でシェフの息子で厨房担当の幸太郎くん(荒川優さん)が客室係のマリちゃん(松下萌子さん)に好意を持ってることになっていますが、そっちは全然放置というか進展してませんね。主役たちに欠けている“恋愛体質のドライアップ”を、こちら若者チームがお手本見せてくれてるのかな(まさかね)。