「温度によって…路面は刻々と…変化する」
ヴァンパイヤ風黒のコートが微妙に似合わない織田裕二さんの冬タイヤのCM、当地では9月からオンエアされていますが、今日は午前中から雨に白いものが混じり始め、いよいよ靴も本格的に“冬組”出動。
ひと言で冬道、雪道と言っても、当地札幌は一応大都会だけに、事情は複雑です。ウチから都心までを例にとると、まずスタッドレスタイヤで鏡のように磨かれたツルツル路面の本通りを渡り、歩行者の足跡なりに積雪が踏み固められたデコボコの歩道を歩いてバス停へ。下車後もデコボコ→ツルツルを経て、地下鉄出入口付近のロードヒーティングがほどこされている地帯と、ほどこされていない地帯との境界線は、バリヤフリーのスロープどおりに凍って、傾斜つきスケートリンクのような按配。ここを切り抜けて一難去っても、地下鉄への階段でまた一難。歩行者の靴裏に付いて運ばれてきた雪がいったん融け、再凍結して氷の塊りとなって、段のカドや蹴込みのそこここに付着しています。うっかりこれをカカトででもツルリ踏もうもんなら大転落、大骨折のデンジャー・ゾーン。それをも乗り越えて、無事地下鉄にたどりつき、都心に出ると一転そこは常時20℃台に暖房された常春の世界で、ビル内や地下街、ショッピングモールを行き交う女性たちはみんな夏と同じ華奢なミュールやサンダルです。
そのほかにも、ちょうど今頃から12月上旬までの、根雪になるでもならないでもない期間は、地表に雪を載せない“濡れ凍結”、いわゆるブラックアイスバーン。さらに3月の雪融けの季節は、水けをたっぷり含んだ“シャーベットスノー”が加わります。この時期には、滑り対策より、昔ながらの魚屋さんのゴム長のような耐水性が望まれますが、水溜りの底はまだまだ氷のこともありますからビシャッのあとツルッとも来て、あなどれません。
これだけ変遷する冬道、一種類のソールで乗り切るのはとても無理。スタッドレス普及でツルツル路面が問題になり始めた’80年代には、通勤はスパイクつきのブーツを履き、会社のロッカーにサンダルとパンプスを置いておいて、ビルからビルへの地下鉄移動に備えていましたが、自宅労働者となってからは近所のコンビニやスーパーまでの、歩道→本通り→中通りの七色の路面をどう踏破するか、毎年考えて手持ちの靴を履き分けるのですが、年一~二度は年中行事のように必ず転びます。
靴のメーカーさんも低温で硬化する特殊ゴムのピンスパイクを使ったり、麻やガラス繊維、貝殻粉末などを練り込んで摩擦係数を高めたりした滑りにくいソールの靴を毎年発売していますが、そうした重装備の靴を履いて地下鉄で都心に買い物などに行くと、行った先はサンダル、パンプス推奨の世界。せっかくの特殊ソールが磨耗してしまうし、重くて足が疲れるしでもったいないやら無駄なやら。はなから軽装でパンプスで闊歩している女性たちは、車でおウチの玄関から都心に直行して来ているのか?駐車場から地下街まではどうやって?駐車場は屋内?地下?と考えてしまいます。
「温度によって…刻々と…変化する」ブラック吸水ゴムタイヤのような、万能の靴ソールはできないものでしょうか。女性の場合、底の滑りにくさだけではなく、女性らしいドレスやスカートに合うシェイプまで求めたりしますから厄介なのですが、足元の雪道対策、どうも生身の人間の足より、クルマのほうが優先的に進化しているのが気になります。どんなに流通や輸送がクルマ頼みになった社会でも、人間の基本は二本の足で歩くこと。足腰からの老化を防ぐためにも、冬でも背筋を伸ばして大またで歩ける靴を、たくさん作ってほしいですね。